44 信仰について
ミステリー部仮入部 三日目
「はいはい、今日は私が部活に引率しますよ~」
「あっ、ミートボール先生!」
「ミートボール?」
これは水神だ。
「ああこいつさ、香織先生の授業中の早弁をミートボールで買収してんの」
鳥居が説明する。
「ぷんぷん、体は買収されても心まで買収されてませんよっ」
「はいはい香織先生は家が遠いんですから、もう帰ってください」
水神が先生を部屋から追い出そうとする。
「ちょっと!私だって顧問なんだから、少しは手伝わさせてよー!」
「大丈夫大丈夫、大丈夫大丈夫」
・・・大丈夫か?
「そんな子供みたいな扱いをっ」
部屋から追い出して部室のカギをしめる。
「よし、それじゃあ始めよう」
先生が外から扉を叩いている。
あ、あきらめて帰った。
「い、いいんですか?」
「まぁ碌なことしないからな。偏屈な大人よりは遥かにマシだが、ある意味子供よりも子供すぎる」
「こないだの時の部活も、騒ぐわ叫ぶわで大変だったんだぜ」
「…深夜1時まで待ってやっと幽霊が現れたという時に、それで消えてしまって…」
「一瞬だったよなー」
「まじか!?」
「マジマジ」
なるほど一日目に聞いた標語はミートボール先生への皮肉の意味もあったのか。
「それで、今日は何しましょうか?」
森野泉がそう水神に聞く。
「昨日も結局収穫なかったしな~」
「私は少々刺激的な体験でしたから満足(?)でしたけれどね」
鳥居の発言に未来はそう返した。
「そうだな…。ここの所めぼしい話はあまり入ってきていないからな。仮入部の人間もいることだし本当は妖怪あたりを見れたら一番いいんだが」
「妖怪ですかっ?」
泉が反応した。
「妖怪って俺も見たことないなぁ?ほんとにいんの?」
学がもっともなことを言う。
「確かに幽霊ならまだしも、妖怪って作り話だけじゃないのですか?」
未来もそう言った。一日目と二日目で幽霊の存在の認識と現れるイメージは掴めたものの、妖怪となるとまだ自分にはちょっとハードルが高い。実際の妖怪はどうだかわからないが、自分が知っている妖怪はあまりにも話として出来過ぎているのだ。
「俺が居るというのは簡単だが、見ていない奴らにとっては暖簾に腕押しだろう。なので考え方だけ少し説明しよう」
「おお、ぜひお願いします!」
「幽霊の場合、元々居た存在が死ぬわけなので、存在の骨格がそこに在るわけだ。
その霊魂だか、精神だか思念だかが何らかの理由でこの世に残る、もしくは現れる。
だが、妖怪はそもそも成り立ちが違う。
まず人が理解できない、もしくは理解したくない事象を妖怪のせいだと捉える。
それらが広まることによって認識され、徐々に徐々に存在となって現れる。
まぁ新参の妖怪よりも古ければ古いほど当たり前のように人間に定着されていたりするから、それらの方がこの世に顕現はしやすいな。それと面白おかしく考えられたものよりも、恐怖心とかそう言った根源的な感情に則したものもだな。
どちらかというと信仰に近いものと考えた方がいいかもしれない」
「信仰で…。そうなると、究極的には神という存在もあり得るということですか?」
「お、泉いいところに気が付くな。
これは言葉遊びかもしれないが、付喪神という言葉もあるだろう?」
「ああ、あれは妖怪に近しいイメージですね」
「そうだ、その延長と考えるともしかしたら居るかもしれないが、
恐らくは仮に居ても存在の大きさ故に認識できないんじゃないかと俺は思う」
「ふむふむ」
「じゃあアレはどうなんだ?宗教とかで唯一絶対神とかもあるだろ?」
確かに鳥居の言う通り神というと八百万の神もだが、そういうイメージも湧く。
「ああ、それは存在しないな」
「それ、断言したらなんかミステリー部襲撃されないか?」
「それは困るが…。
これも信仰の問題なんだが、…まずその宗教の人々はその神を信じているだろう?
そしてそれが唯一のものであると断定している。ここまではいいか?
だが、逆にその神と宗教を信仰しない人がいるのも事実だ。
ここで重要になってくるのが、
信仰しない人の上にもその神がいると、信仰する人はそう思っているのが問題なんだ。
特に唯一神というものは、全ての上に立っているものだから全ての人が信仰することでようやく成り立つものなんだ」
「ちょっと待ってください、理解できてるか怪しいところもありますが、
そうなると、えーと神という存在自体存在しないことになるんですかね?」
「その可能性の方が高いと俺は思う」
「え?どういうことなんだ?」
「私が説明できるかも怪しいところですが、
ただ一つの神を信じる人、多数の神を信じる人、それぞれがいるので、
一つの神を信じる人は多数の神の信仰を打消し、多数の神を信じる人は一つの神を打ち消す。相殺しあっているとでも言えばいいのでしょうか?」
「考え方的にはそうだな。
特に一神教は自分達だけの神というならばまだ成り立つ可能性もあるかもしれないんだがな。ま、互いが互いに譲れないところだから仕方がない」
「そうしたら日本の八百万信仰はどうなんでしょうかねぇ、私わりとあの考えは好きなんですけれど」
未来がようやく口をはさむ。
「まぁ先ほども言ったとおりに神が居ても認識出来ないと俺は思っているが、
ただ可能性はあるのかもしれないとは思う」
「でも、一神教と打ち消しあうんですよね?」
「少し状況が特殊といったらよいか、古事記には国生みの章から始まるが、
何が生まれるかというと日本が生まれるわけだ。つまりそもそも存在が限定的であるといったらいいか」
「地域限定ですねっ」
森野泉が神の威光をまるでお土産品のような言葉で片づける。
「まぁ、実際はだからといって日本の神がいるとは断定できないがな。
信仰はしなくとも、認識というのは内と外から成り立つものだ」
「外国の人からもそう認められる必要があると?」
「大雑把に言うとそうだな」
「そうしたら妖怪もいないことになるんじゃ?」
「おっ、元の話に戻った」
「ついつい脱線しがちだが、必要な推論だと思おう…。
妖怪はさらに限定的で、まぁ個々に条件が違うが、
存在できる場所、時間や季節、ルールなど決まっているから、必要な信仰もそれほど多くは必要ない。とは言っても、あくまでさっきから話している神と比べてだがな」
「信じる者は救われるですね!」
結論まで聞いたところで森野泉が目をキラキラ輝かせてそう言った。
「それもあながち間違ってはいないな。例えば1mmも霊や妖怪を信じていない者には視えもしないし触れもしないし影響を与えることもできないはずだ。
例えばだが、数学の凛のやつとかな」
数学というと、あの暴力教師の事だな。凛というのか、初めて知った…。
確かに言われてみると絶対視えたりしなそうに思える。
「ま、今話した内容は、あくまで俺の推論のようなものだからな。
自分たちの思考の一助としてくれれば幸いだ。
ほんとは俺よりこういうことに詳しい奴もいるんだが、あいつはあいつで忙しいからな、しょうがない」
水神はそう言って頭を搔いた。
その時にふと耳にピアスがついているのが目に入った。
正直彼のイメージとは違うなぁと未来は思ったが、はて、他にもどこかで同じようなことがあったような…。そんな考えが飛来した。結局このときは思い出せなかったが。




