4 家庭菜園部?
登校するや否や、隣の席の鳥居学が真剣な顔で話しかけてきた。
「俺、ミステリー部に入ることにしたんだ」
「え?でも、まだ仮入部期間だし、そもそも運動部を見に行ったんじゃ?」
「いや~、あの後ちょっと奇跡って言うか、生きがいを見つけちゃってさ~」
自分が小倉先輩と出会って、いろんな話を聞いたことと同じようなことが彼にもあったのだろうか?人生は一期一会と言うけれど、この学校で出会った不思議と同じように、感動もその辺にゴロゴロと転がっているのだろうか?
「何かいいことでもあったのですか?」
そう聞いてみると。
「おっ、よく聞いてくれた!実はあの後、絶世の美女を発見してさ!」
ダメな人間の香りがした。
「その子を追ってみると、何やらミステリー部に入りたいって言うじゃない!そしたらもちろん同じ部に入ったほうが会話のきっかけにもなるし、何よりいつも一緒にいられるだろ?だからミステリー部に入ることに決めたんだ!」
「そ、そうですか…」
そう返事をするのが精いっぱいな未来であった。
うん…人の価値観なんてそれぞれだよね…とそう自分に思い込ませて。
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入学二日目の今日は授業はほぼ先生の自己紹介で終わるものの、普通の時間割が割り当てられていた。そのためお昼休みをはさむこととなった。
「ふ~、中学と違って早弁もできるし、どこで食べてもいいって言うのは気が楽ですねぇ」
未来は校舎の屋上で、風を感じながらお弁当を広げていた。昨日迷ったということもあったので、上から学校全体を見てみたかったという理由もあった。
「向こうが校門で、校舎がコップみたいな形をしていて、お、中庭もちゃんとあって、うん?」
コップの形をした校舎に囲まれた中庭を見た時に、チラッと人影が目に入ったような気がした。それは昨日見た着ぐるみのクマだったような?
ふと「人生を楽しむんだ、若人よ!」という小倉の言葉を思い出した未来は、大急ぎで弁当箱をしまい、中庭に向かうことにした。
「この辺だったような?」
先ほど人影…いやクマ影が見えた辺りに来てみたが、どうも実際に中庭に来てみると上から見てるよりも広く感じ、さらに木々に囲まれてるため位置関係もわかりづらい。まぁクマがその場所に居続けるとも考えにくいが。
「目の錯覚か、それとも遅すぎたかなぁ…」
そんな風にぼやいていると
「なにやってんだ、お前?」
と突然声をかけられた。
「ほぇ?」
声が聞こえたほうを見えると、茶髪で目つきの悪い男子生徒が立っていた。
「ふ、不良…!」
思わず、思ったことを口に出してしまった。
「誰が不良だ。まったくいきなり失礼なやつだ」
「あああ、失礼しました。えっと…この辺でクマを見かけませんでした?」
恐る恐る聞いてみることにした。
「あ?クマ?何言ってんだ、寝ぼけてるのか?」
どうやら知らないらしい。ついでにもう一つ疑問を投げかけてみる。
「あの、この辺りは人通りすくなそうですがなんでなんですか?」
屋上から見た時にそう感じていたのだが、人通りがまったくと言っていいほどない。もしかしたらクマが出るからかと思ったが。本物のクマとは違うし、なによりも着ぐるみのクマが人に危害を加えるならば、昨日、校舎で出会ったときに傷つけられてもおかしくはないだろう。
「ああ、校舎が中庭を囲んでるだろ?わざわざ中に入ってまで通り抜ける必要もないしな、いや中に入ってというより外に出て、か?まぁいいか。あとはハイキング気分で飯を食うにも木が多すぎるんじゃねぇか?蚊も多いしな」
「なるほど~」
意外ときちんと答えてくれたところを見ると、見た目に似合わずいい人なのだろうか?だとしたら失礼なことを言ってしまったかもしれない。
「そろそろ予鈴なるから俺は教室行くぞ。お前も授業に遅れんなよ」
「あ、はい」
そう言うと、目つきの悪い男子生徒は去って行った。
「心配してくれたのかな?」
そう呟いて、ふと先ほど男子生徒が来た方を見てみると、ぽつんと一つプレハブ小屋が立っていた。
近づいてみると、入口の横に『家庭菜園部』と書かれていた。
「…家庭菜園部?」