38 バイトの情報誌
未来は生徒会室に来た。
「おじゃましまーす」
「おや、久しぶりだな。どうした」
「えっ、自分のこと覚えているのですか?」
「もちろんだ。一年で生徒会室に来る者はまだあまりいないのでな」
う~む、だとしても一回こっきりだったんだけどなぁ。
むしろこの人ならいっそ新入生全員の顔と名前を憶えていると言われても驚きはしないが…。まぁいいや。
「また活動報告書をみさせてもらっても良いですか?」
「それは良いが、家庭菜園部に関しては何も増えてないが」
「あ、いえ、今回見たいのは喫茶店部と、購買部、裁縫部と
あとは木工部もお願いしたいです」
「なるほど分かった、ちょっとそこで座って待ってろ」
パイプ椅子に、座って待つ。
やっぱり副会長は凛としていてかっこよいなぁ。
・・・そういえばふと思ったが生徒会長は誰なんだろうか。
前回と今回、二回とも副会長が相手をしてくれているが、
生徒会長もそうだが他のメンバーがいるところを見ていない。
まぁタイミング的にたまたまかもしれないが。
「副会長!」
生徒会室へ一人の女生徒が駆け込んできた。
制服をピシッと着ているところを見ると生徒会のメンバーかもしれない。
「あ、こんにちは!副会長さんなら、自分がお願いして準備室で活動報告書を探してもらっています」
話しかけるとこちらに気づいたようで、
「こんにちは、ありがとう。一年生かな?」
「そうですよ~仮入部期間中なので、活動報告書を読ませてもらいに来ました」
よく見てみると今なら分かる、この人が来ている制服は去年のモデルだから、
おそらく二年生に違いない!えっへん、さすが自分、裁縫部経験者。
「私は二年で生徒会の会計をやっています。この学園にようこそ、この三年間はきっと貴方の人生の糧となるでしょう」
会計さんは胸に手のひらを当てて笑って言う。
そう言い切れるのはよっぽど自信があるんだなぁ。
髪も長くてキレイだし、細目だけれど、細目は強キャラと相場が決まっている。
上級生はやはりかっこよい存在だ。
「あだっ!」
副会長が後ろから持っていた活動報告書で会計さんの頭を叩く。
「ふくかいちょーファイルで人を叩いちゃダメじゃないですか~」
「それは去年の私の言葉だ。覚えていたことは褒めても良いが、新入生に言うからにはそれだけの仕事をしないとな」
「はいっ」
前言撤回しておこう。なんかノリが小倉先輩と焔先輩に似ているところを見ると、
二年生にとっては三年生はいつまでも目の上のたんこぶなのかもしれないなと思った。
「活動報告書だ。できればこの生徒会室か、
そうだな、喫茶店部でこれから会計と話すのでそちらで閲覧してほしい」
喫茶店部で話をするのか。人に聞かれても良い仕事の話なのかな?
でもここでじっと文字を読むよりも快適には違いない。自分一人だと寝てしまいそうだし。
「それでは喫茶店部で読むことにします」
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そうして本日みたび喫茶店部に顔を出す未来。
副会長と会計の人と一緒に来たらなんだか小倉に意外そうな顔をされた。
もちろん彼女たちは仕事なので別のテーブルだ。
途中、あちらの方からと、副会長に飲み物をもらった。
変な気づかいしなくていいですよと言ったが、入学祝いだと言ってフッと笑っていた。
良い意味で隙がない完璧超人だなぁ。
自分も来年上級生になったら、あちらの方からって言われて何か奢るのやってみたい。
先ほどの手伝いお駄賃のケーキセットはせっかくなので活動報告書を読み終わってから堪能することにしよう。そう小倉には伝えておく。
さてさて、まずは喫茶店部から。
前に小倉と話した通りで、食材費や設備費等いくつか項目ごとに分けて書いてある。
売り上げと部費からそれらを引いて、貯蓄をした余りを分配、と。ふむふむ
分配金額も書かれているが、活動時間は昼の一時間と放課後の四時間ほどだから、
時間で割ると…なんと外でバイトするよりはほとんどの月は給料が良さそうだ!
なにより同じ構内で働けるというのが移動の手間も省けて良い。
しかしここで一つ気が付いた。そういえば自分は免除されていたが、休み時間も仕込みとかで様子見に来ると言っていたな。それらの時間を入れるとどうだろうか。
次は購買部だ。
購買部は売り上げから仕入れと人件費を引いたあまりを貯蓄に回している。
喫茶店部とは違い人件費が固定費となっている。
その人件費はAが何人Bが何人という風にランク別に金額が分かれている。
それがおそらく先輩が言っていた、人によって給料が違うということなのだろう。
それと品種別に売り上げを折れ線グラフでデータ化してある。
そのデータを読み解くと、大体大まかには毎年似たような推移をしている。
特別なモノに関しては注釈がついている。4、5月などは制服だったり、
秋には美術の授業で普段使わないような文具の売り上げが伸びる。などなど。
ちょっとこれは面白いかもしれない。お金の流れからどういう事が起こったのかが分かる。勉強もこういう楽しみ方に応用できるのかもしれない。いや現実でも、近い将来のこととかまで予測が可能だったりするのかも?
・・・そういう事が実際にできるのがあの副会長なのかもしれないなとふと思った。あくまでそういう予感をしただけである。
次だ次、裁縫部は、っと。
ああ…、四月五月は忙し過ぎるせいだろう、すごい殴り書きで書かれている。
読みづらい文字を分析すると、売り上げの収入が入ってくる前に材料を調達する必要があるため、部費を一年分一括で生徒会から配布されている。これは生徒会側からの配慮だろう。
そこから飲食費、材料費を引いて。部員の頭数で割って制服の売り上げを配布している。
・・・うん?制服の売り上げの分配は一見多いように思えるが、
授業中に寝て、夕方起きて、そこから朝まで作業していたよなぁ…。
時間で割ると…えーと。
「うわっ、すっごいブラック部活!」
思わず声に出してしまった。金額が上がってもそれを材料費とかに回してるんじゃなぁ…。それはともかく、社会で問題になっている外国人労働者の賃金とかの問題はこういう事なのだろうか?
まぁそれはともかく部活動に関しては好きにやっているからと言うことでこういうことがまかり通ってしまっているのだろう。お金を稼ぐことが部活の目的ではないのでこれはこれでいいのかもしれないが。
今自分が思いつく解決策は3つほど、金額を大幅に上げる、材料費を極端に落とす、
そして納期を遅らせる。
副会長もおそらくその辺りは何とかしたいと思っているのが、部費で優遇していることで分かってくる。
おお、やはりお金の動きで人の考えていることがわかる。
しかし、制服の期間以外はさほどお金の動きはさほどなさそうだ。
しいて言うなら、秋の文化祭のあたりくらいであとはちょこちょこと単独で別注品等の売り上げくらいか。
と思ったら、他にも夏や冬に特殊な注文があるようだ。アニメとかゲームとか書いてある。
何にしても、一年間の動きが制服に照準を合わせた流れになっていることは間違いない。
そういえば購買部、喫茶店部と違い貯蓄をしていないなぁと思い調べてみる。
先ほど見たように、制服に関しては事前に部費が支払われるので問題はない。
その他の注文に関してはというと、なるほど、注文を受けた時点である程度の金額をもらってそれを材料費に充てるんだな。特注のものが多いので、注文をもらった時点では材料費等の金額が出しにくいのもあってある程度というくくりになっているのだろう。
でも購買部だったら絶対その時点で最終的な値段をお客さんに提示していると思う。その辺りは販売重視の部活動と製作重視の部活動の違いだ。これはお客さんとしては最初から分かっている方がもちろん良いが、入部する側としてはどこに重きを置くかという面においては良し悪しだなぁ。そんなことを未来は思った。
ひとまず比較としてお金だけで言えば購買部、喫茶店部、裁縫部の順だなぁ。もちろんそんなことでは決めないが。
なんだかバイトの情報誌を見ている気分になってきた。




