19 購買部へ
「森野先輩、次の部活はなんですか」
三日間の喫茶店部の仮入部が終わった次の日の朝、
登校して早々、机に突っ伏して寝ていた森野に未来は問いかけた。
それを受けて、森野はむくりと頭を上げる。
「…お前なぁ、見てわかんねぇのか?眠いんだよ俺は」
「いつも大体寝てるじゃないですか!なんですか、成長期ですか?」
「大人にはいろいろ事情があんだよ」
「一つしか変わらないでしょ!」
自分が昨日まであれだけ頑張って働いていたというのに、無茶な条件を突き付けてきた当の本人はこの有様だ。
部の活動もきちんとせずほぼプー太郎なのに…。お前は猫か!と言いたくなる。
森野はおもむろに教室の中を見回し、今いるクラスメートの一人に目をつけると、「おーい、清水」と声をかけた。
清水と呼ばれた先輩がこちらに来ると、森野は自分を突き出し、仮入部させてくれるように頼んだ。
その先輩は自分を頭のてっぺんからつま先までじぃっと見ると、
「運動…できる?」
と聞いてきた。舐められたもんだなと思った。確かに背は低いけど、けど!こう見えても中学の頃はばりばりの体育会系だったんですよ!
「運動なら得意です!中学の時は陸上部でした!」
胸を張ってそう言うと清水先輩はふむ、と言った。森野も意外な目でこちらを見ている。やっぱり背が低いって、高い人と比べて印象のアドバンテージが…。未来は心で泣いた。
とりあえず次の休み時間に業務説明するから、その時になったら購買部まで来てくれと言われた。
購買部?運動と何の関係があるんだろうか…。自分が想像するのは窓口に座って、生徒に物を売るイメージだけなんだけども…。
その疑問を森野に投げかけようとした時に、先に質問を投げられた。
「そういや、お前喫茶店部の方はちゃんとこなせたのか?」
ちょっとだけ、ムッとなった。
「もちろんですよ!小倉先輩とまではいかないけど、自分なりに頑張ってやりました!これもいただいちゃいました!」
と言うと昨日もらった食事無料券を森野に見せた。
「お、それならおれも持ってんぞ」
「え?」
森野は未来に同じものを見せる。もしかして、森野先輩もたまに手伝いに行ってたりするのだろうか…?ちゃらんぽらんに見えて意外と頑張り屋なのだろうか。森野にそれを言ったら、意外、は余計だと言われそうだ。
ともすれば、喫茶店部はこんなに大変なことしている部活もあるんだぞと、私に教えてくれるために仮入部させたのか?獅子は千尋の谷に我が子を突き落とすと言うが、親心でそうしたのかもしれない。森野への尊敬の念が高まった。
「森野先輩も喫茶店部を手伝っているのですか?」
「あ?授業中の早弁がばれそうになった時にごまかせって買収されてんだよ俺は」
…尊敬の念はなかったことにした。0×XはXがどんな数字でも0になるよね…。尊敬の念がいくら二倍三倍に高まろうとも、最初からなければ存在しないよね、うん。自分にそう言い聞かせて、間違いを犯した自分を許すことにした。
「あら、未来ちゃん」
「おう、小倉か」
「あ、おはようございます~」
「おはよ~。森野君、未来ちゃんの次の仮入部先は決まったの?」
「さっき決まったぞ、ちょうど清水がいたから購買部にした」
「え…」
小倉が怪訝そうな顔をする。購買部…何か悪い噂でもあるのだろうか?
そう、例えば…。校内の美少女を盗撮した生写真を陰で売りさばいてるだとか、はたまた怪しい薬だとか、ラブレターを代筆、下駄箱に投函するだとか。
小倉にその妄想、いや想像をぶつけてみたら、ラブレター投函くらいならやってるんじゃないかなぁと返事が返ってきた。なんかぎこちない返答なところを見ると、実際にラブレターを下駄箱にもらったことがあるのではないかと疑ってしまう。
「まぁなんだ…、私が今言えることは、ダッシュ&ランだよ!」
…意味がわからなかった。
「それ意味わからないんだが…」
森野とかぶった!!
「何となくノリだよノリ!しっかし森野君もドSだね~」
結局購買部の全貌がわからず、「?」が頭に浮かんだままだが授業が始まるので教室に戻ることにした。小倉のドSだね~の言葉だけがやたらに耳に残っていた。




