17 パスタの二度茹で
「注文よみま~す、ミートソース×3、ナポリタン、デミグラスハンバーグ、オムライス」
「えっと、スパゲティが全部で4つで、ハンバーグが1つ…」
再び昼休みがやってきた、未来は昨日の宣言通りにキッチンにいた。
今日は授業中に早弁したからエネルギーが満タンだ!
昼休み一つ前の授業が、トロそう…いや、優しそうな英語教師の授業だったため弁当を食べることにしたのであった。
でもせっかく教科書で隠していたのに、隣の席の鳥居がそれうまそうだなとか言って、唐揚げを要求してきたせいで見つかってしまったのだ。そして先生が泣きそうだったのでミートボールをあげてなぐさめたのであった。とりあえずあの教師の時にお腹がすいたらこの作戦で行こうと心に決めた。
「はっ!」
そろそろ焼けるな。
キッチンタイマーを見てハンバーグをひっくり返す。
昨日の放課後に少し教えてもらったとはいえ、全部のメニューを把握できたわけじゃないので、
焔と話してハンバーグを鉄板で焼く、パスタを茹でる等のわかりやすい作業をやらせてもらえることになった。
しかし最初のうちは良かったのだが、だんだん量が増えるにつれタイマーが足りなくなったりして、どれくらい焼いたかとか、何個必要だとか頭がこんがらがってきた。
焔がそれを見かねて、というかいつもやっている作業で体が勝手に動くらしく、未来の作業を奪っていく。
結局、最後の方はパスタだけ確実に、注文の数だけ湯槽に落としてと言われ、ひたすら茹でて、引き上げてということを繰り返していた。
それすらも慌てて、パスタを入れて何分か経った網の中にまた新しいのを入れてしまい、混ざってしまったりと、そんな失敗もして自己嫌悪に陥った。
あとキッチンはさながら戦場で、普段と比べ焔がちょっと怖かった。後で聞いたところ、急いでると口調に気を使えないということと、自然と声がでかくなるらしいのだが…。
「ああー、もうだめだめでした…」
ピークも過ぎさり、小倉と今日も洗い物をしながら未来はそう言った。
「大丈夫だって、部長もほんとに怒ってるわけじゃないからね!」
「でも~」
「それに得意不得意は絶対あるから、何か一つ得意なものがあればいいんだよ~」
「むぅ…でもあまりにひどすぎて、森野先輩にお前イラねぇって言われそうで…」
「そんな時は私が森野君を無理やりバッファ…喫茶店部に引っ張って馬車馬のように働かせるから、安心して!」
「それでもし超手際がよかったら、私はどうすれば…」
「ないない(笑)私が知ってる限りだと、いきなり戦力になるのは実家が飲食店とかの人だけだなぁ」
「大体の人が寄り付かないわけですね…」
「そもそも、もうちょっと空いてくれればいいんだけどね~。やりがいはあるけど」
「人気すぎるんですねぇ」
「部長が主体になってから料理にこだわってるから、それで売上げが上がったみたいだよ~、興味あったら活動報告見てみるといいかも」
「ほぇ~、それはすごいですね!」
「私はもうちょっと楽したいから、来年までに食堂に頑張ってもらいたいけどね~」
「食堂はおいしくないんですか?」
「普通かなぁ、こんなこと言うのもどうかと思うけど、うちのがおいしいよ」
「みんな結構正直なんですね(笑)」
「そうだね、もちろんこっちにはないメニューとかもいっぱいあるから、その辺は気分だけど。まぁ料理を変えなくてもうちは来年にはお客さん減ると思うし」
「えっ、どうしてですか?」
「料理手早くできる人がいなくなれば、それだけお客さん待たされるじゃない?」
「うんうん」
「そしたらやっぱり休み時間が減るから、自然とそれが嫌な人は来なくなるって寸法だよ~」
「お~ぐ~ら」
「おわっ」
後ろを振り向くと焔が怖い顔して立っていた。
「あなたはいつも…」
「未来ちゃんごめん退散するわ~(笑)」
小倉はそそくさと去って行った。
「まちなさっ、もう…」
「素早い…」
「ふぅ…でもね、あの子あんなことは言ってるけど、今の現状を真剣に考えてはいるのよ」
「うん、すごくここが好きなのは知っていますよ~」
「それでも、団体と言うか、ひとつの店という立場上、人がいないと成り立たないから…。
今年は幸いに小倉もいるし、佐藤君…昨日いた男の子ね?もたまに手伝ってくれるし、私は運が良かったけど、来年はこのままじゃね…」
少しさみしそうに焔は笑った。
この人もここが好き…というか毎日のようにいれば思い入れもあって当然か…。
「私は…どうしても知りたいことがあって、その縁でたまたま今だけここにお世話になってる身なので、えらそうなことは何も言えませんが。…どうしても小倉先輩が辛そうなときは、いつでもお手伝いに来たいです。小倉先輩の人柄も好きですし、何よりここで働いてるところを見ていたいので」
「司馬さん…」
「だから…安心して卒業してください!」
一瞬、間が空き、そして
「ぶっ、あははっ、来年の話よ。あ~おかしい」
笑ってくれた。
「えへへ」
「まぁその時はよろしくね、司馬さん」
「はい!まかせてください!」
その日の放課後ともなれば手慣れたと言うにはほど遠いが、一つ一つ自分で注文を取り、自分で作ってお客さんに出すと言うこともできるようになった。
もちろん近くで小倉が見ていてくれたり、調理中に新しく来たお客さんの相手をしてくれたり。
しかしなぜか飲み物だけは「飲み物は三年の修行をつまないとおいしくできないんだ!」と言いはって、触らせてくれさえしなかった。
コーヒーとかはともかく、オレンジジュースとかパックから注ぐだけなのに…。
「そういえばふと思ったんですが…」
「なに?未来ちゃん」
「もし、小倉先輩か焔先輩が学校休んじゃったら、ここお昼とかどうなるんですか?」
「い~い質問だねぇ!どうすると思う?」
「お客に手伝わせる!」
「ぶー、はずれー!惜しいねぇ、非常に惜しいよ!」
「え~、学校だからそう言うのもありかと思ったんですけどね~」
「でもそれはそれでいいなぁ…今年誰も部員が入らなかったら来年はセルフサービス、と言うかバイキング形式にしようかな!」
未来の頭の中では、船に乗って角の生えた鉄兜をかぶり、略奪をする図が浮かんだ。
「まぁそれはそれとして、正解は・・・」
「正解は・・・?」
ごくり…と唾を飲み込む。
「休まないでした!」
「えええ!?って全然惜しくないじゃないですか!」
「てへっ」
「てへっじゃないですよ!」
「言ってみたかったんだも~ん」
まったくこの人は…しっかりしてるようでときどき適当なんだから…!
「正確に言うと授業に休んでも、部には出てくるが正しいかな」
「それっていいんですか?」
「もちろんだめだし欠席扱いになるよ~、でもお金の関わる部活はプロ意識を持ってるところが多いから、けっこうみんなそうするみたいだよ」
「大変なんですねぇ…」
「でも、同じクラスの人とかもいるからさ、わりと気を使ってくれるからまだ楽かな」
「そういう助け合いの精神はとてもいいですね~」
「普通のお店だと手伝おうにもなかなか手伝えないしね」
「確かにそうかもしれません…」
「去年風邪ひいたときにさ~、授業は出なかったからずっとここにいてね、そうするとまぁ暇じゃん?」
「休んでくださいよ(笑)」
「いやいや、やることないんだもん。で、唐揚げをタレにつけて、一人前ごとに袋に分けてたんだけどさ。あ、いっぱい注文入ってきちゃうといくつ油に落としたかわからなくなっちゃうって理由でやってるんだけど。でもさ、その作業をするだけで息切れしちゃって、唐揚げ一袋作るたび休んで~って」
「もうなんかバイト募集~って感じでお金で人を釣るしか…」
「まぁ実際お金ももらえるからそれもいいとは思うんだけどね。
なんだろう、この学校の自由なところが好きだからさ、なんか問題になって親とかからなんか言われたくないじゃない。あとはやっぱり部活動だから好きな人に入ってもらいたいって言うのかな、そんなこともあってね、なかなかそこまでは話が進まないんだよ~」
「やっぱり好きじゃないと続けられませんしね~」
「そうそう、お金だけの関係じゃ、人も使う使われるの縛りになっちゃったりするからね~」
「・・・なんかそういう話を聞いている限り、小倉先輩人生経験が豊富そうですね…」
「えっ、そんなことないよ~」
と言いつつ照れているようだ。
「男女関係とかは…?」
「ええっ、ないから!全くないから!」
赤くなっている…誰か好きな人でもいるのだろうか。からかうのはちょっとおもしろい。
「もしかして好きな人でも?」
「もうっ、そんなことを言うのはこの口か!この口か!」
ほっぺを横にびろーんと引っ張られる。
「ほがっ、ひぃやっひゃへっ!」
「何言ってるかわからないなぁ(笑)」
引っ張る感触が気にいったのかなかなか離してくれなかった。
「もうっ、蛙のように伸びちゃったら責任とってもらいますからね!」
「オッケーオッケー!」
むしろどーんと来なさいと言われてしまった。もうっこの人は!
「さ~て、ちょっと遊びすぎちゃった。お客さんも来ないし、仕込みでも手伝ってこようかな」
「あっ、そうだ、もう一つだけ聞いてもいいですか?」
「答えられることなら、な~んでも」
「…小倉先輩が感じている意見でいいんですが、学園長はどうしてこういう校風にしたんだと思いますか?」
未来のいつになく真剣そうな顔に、小倉も握りこぶしをあごに当て、真剣な顔つきになる。
「そうだね…私が思うに、それぞれに好きなことをやらせることによって、小さな社会を作って、意識や経験を積ませているんだと思うな」
なるほど、喫茶店部と言うお金を扱ってる人らしい答えだなと思った。また機会があれば他の人にも聞いてみよう…。
「楽しそうだからって理由な気もするけどね!」
「あははっ、そう言えば楽しそうと言えば、私が面接で…」
その後も話しつつ、お客をさばきつつ、焔の仕込みを二人で手伝った。一人っ子の未来としては、姉がいたらこんな感じなのだろうかと、小倉を見て思った。
それを本人に言ったら、嬉しそうに見えたが、「そうやって悪い道に引きずり込む作戦だぞ!」
と言われ、焔にやめなさいと頭をおたまで叩かれていた。
自分が思うに、照れ隠しなんじゃないかとだんだんと思えてきた。
注)その後おたまはきちんと小倉先輩が洗いました。本人は「何故私っ!?」と言っていたが…。
そうして喫茶店部生活二日目も過ぎて行った。




