15 トルコライストラップ
初めての喫茶店部でのお昼の仕事が片付き、談笑していたのも束の間、
昼休み終わりのチャイムが鳴り、急いで各々のクラスに走って行くことになった。
未来はというと、授業には間に合ったが、うっかり例のハートでレースのエプロンのまま教室に戻ってきてしまったため、クラス中から奇異の目で見られた。
「司馬~、そのエプロンはなんだ?」
自分で気づいて外した時に鳥居に質問を投げかけられた。そりゃこんな人がいたら、自分でも何だろうって思うよ…。
「えっと、かくかくしかじかで、今喫茶店部に仮入部していて…」
「へぇ~、そんなものがあるんだな~」
かくかくしかじかは文章中の表現などではなく、本当にそう言葉を発したのだが鳥居には見事にスルーされた。まぁその方が都合がいい気もするが。
鳥居の他にも、よく話す人たちに何事かと聞かれた。喫茶店部と答えるたびに『そんなのあるんだ』という反応が見受けられる。
まだ一年には浸透していないのかな?だとすれば良い宣伝になったかもしれない。でも昼にはちょっと来ないでほしいなぁと、心の隅で祈っておく。
疲れと空腹で、その後の授業はほとんど頭に入らなかった。
そして放課後。
「ムシャムシャッ、ゲフッ」
「未来ちゃん、よく食べるねぇ」
「そりゃそうでしょ…」
罪悪感を感じた小倉と焔が喫茶店部でご飯を出してくれた。
トマトピラフに目玉焼き、ナポリタン、ハンバーグになんとエビフライ!それとオレンジジュースもつけてくれた。こんもり盛ったピラフには小倉が旗をさしてくれた。見たところ明らかにお子様ランチである。
それに対し子供扱いしないでください!と未来が抗議をすると、
だまされたな、これはトルコライスだグハハ!と小倉が言いはり、結局のところ空腹に負け、トルコライスという名のお子様ランチにむさぼりついた。
「しっかし、おいしそうに食べるなぁ…、部長ー、このお子様ランチメニューに加えたらどうですか?」
「ふぁっぱり、おこはははんひじゃないですか!」
「うわっ、未来ちゃん口に入った米粒飛んでる飛んでる」
と言うとテーブルを拭く小倉。
「これはしつれい…」
謝りつつも、ちょっと不満気である。
「あのねぇ…、お子様ランチって言うのはどの店にとっても大体はサービス商品なのよ」
「えっと…つまり?」
「お子様にも喜んでもらえるメニューがあるよ~って家族を釣るためで、…そうね、司馬さんが今食べてるの、ごはんとおかず何品ある?」
「ピラフに、目玉焼きでしょ?あとナポリタン、ハンバーグ、エビフライに旗で6品かな」
「旗なんて食べませんよ!キリンじゃないんですから」
「まぁ旗はともかく、目玉焼きもつけ合わせとしても、ピラフ、ナポリタン、ハンバーグって言う目玉料理が入ってるじゃない?」
それを聞いた未来が、まぐろの目玉がごろごろしている料理を想像した。DHAたっぷりだなぁと思った。キリンは完全に流された。
「お子様メニューで値段も手軽にしなければならないのに、キッチンはハンバーグを焼いて、パスタを茹でる手間があって、ピラフは盛るだけではあるけど、仕事量と、おかずの種類での費用、と、総合的なコストパフォーマンスは高いのよ。一般メニューに比べ量が少ないとしてもね」
「確かに…。一品メニューの方が、つけ合わせとかはあるけど作る側は楽ですね~」
「そうそう、あとここは生徒や先生相手だから、家族連れってわけじゃないし、まぁあったらあったで需要ありそうだけど、値段はちょっと高めに設定した方がいいかしらね」
「ふむふむ、参考になります」
小倉が熱心にメモを取っている。仕事に関してはしっかりしているなぁ。
「でも、正直ランチタイムに私は作りたくないから、やるなら来年小倉が計画してね」
「ええっ、そう言われると私も二の腕踏んじゃうなぁ~」
「二の足ね」
「てへっ」
二の腕踏んだら痛そうだ。と未来は想像した。
「まっ、頑張るんだね」
焔はそう言うと、ちょうど今入ってきた客の接客をし始めた。
それを見て小倉もおっといかんといった調子で追って行く。が、いったん引き返して、
「未来ちゃんは食べ終わって一休みしたらでいいから手伝ってね。新しい仕事教えるからさ」
「かたじけないです!」
小倉はひらひらと手を振って、部長をキッチンに押し込んで、客の注文を取りに行った。
未来がオレンジジュースを飲みながら食休みをしていると、ちょこちょこと生徒が喫茶店部に流れてきていた。
とは言っても昼とは違い緩やかであり、注文も飲み物やデザートが中心でのんびりできる喫茶店的な空気が漂っている。
焔と小倉の二人でも十分余裕で仕事が回っているようだ。なるほど、昼にいた男の人はピーク用の人員なんだなと思った。
客を見渡すと、本を読みながらお茶している人や、クラブでの話し合い…いや、見覚えのある副会長がいるところを見ると、生徒会の会議かな?あとは大人の人もいるなぁ、先生かな?
「よう、何やってんだ?」
森野先輩だ!相変わらずこの人暇そうだなぁ!
「いえ、ちょっとお昼食べ損ねたので…」
「ああ、喫茶店部は昼食べてる暇なさそうだしな、小倉のやつもいつも早弁だし」
そう言うと、森野は未来が食べてたものに興味を示した。
「お前、それ何頼んだんだ?」
「えっ…」
お子様ランチとか言ったら馬鹿にされるに違いない!
「トルコライスです!」
「なんだそれ?メニューにそんなもんあったか?まぁいいや、おい小倉ー!」
こちらに小倉が気付くと、パタパタと小走りで駆けてくる。
「ごめんごめーん、気付かなかったよ~、注文?」
「ああ、こいつと同じのを」
「お子様ランチだよ?」
「…あ?」
「おぐらせんぱ~い~」
せっかくだまってたのにプンスカ!
「あ、もしかしてお子様ランチって言うの内緒にしたかったの?」
そう言うと小倉はにやにやしている。
何とかして一矢報いたい!
「森野先輩がお子様ランチ食べたいらしいですよ!」
森野をいじめて憂さをはらすことにした。
「あん?なんかコイツが別の名前言うからよ」
「ああ、トルコライスかな?」
「それだ」
「う~ん、でもさっき未来ちゃん用にサービスで作っただけだからなぁ…」
と言った後に何か閃いたらしく、手をポンって打った。
「同じのでいいんだね?」
「お子様ランチと言う名前には不服だが…」
「大丈夫大丈夫、見た目はアレだけど、頭の中はお子様でしょ!」
「大丈夫ってなんだよ!」
「あははっ、未来ちゃんちょっとおいで」
「あ、はい~」
そう言うと小倉は未来をキッチンに連れて行った。




