ソ、ソファが欲しいです! 2
「それで、何を作ってほしいんだ?」
スケッチのキリが付いたのか、用務員さんが話しかけてくる。
自分はというと、よだれを垂らして眠りの海に引きずり込まれていた。
いかんいかん、こんな姿とても女子高生とは思えない。
というか、木陰はずっとじっとしているとむしろ寒い。木陰から日向へ少し動きつつ、
「ああ、そうでした。実はソファが欲しくて」
さも寝てませんよといった風を装い、伸びをしながらそう発言した。
「ソファか。部の設備として必要なのか?」
「かて…」
素直に言ってしまいそうになったが、ちょっと待てよ。
家庭菜園部の設備にしてはおかしいよなぁ。
早朝に活動するための泊まり込み用?その言い訳もなんだか怪しすぎる。
活動内容を考えたときに怪しまれないようにするのがベターである。
「ええと、個人的に、個人的に欲しいんですよ!」
結局部室に置くという前提の良い返答は思いつかなかった。
「ふむ、そうか。他に希望はあるか?
というのもだ、目的や置く場所などによって作りを変えることもある」
ふう、なんとか疑われずに済んだ。
未来はそこで寝られるように大きめなのがいいことと、見た目よりも丈夫さがある方がよいことなどを伝えた。
「では、ゆったり休息を取るためのものということだな。
一つ懸念があるのだが、自分はソファ内部の構造は大体分かるから木枠は作れるが、布やレザーの張りは全くの素人だ。
そうなると知り合いの椅子屋に張りを依頼しなくてはならないし、張る材料も金銭がかかると思うが大丈夫か?」
「う…」
個人的にと言った以上、家庭菜園部の名前は出せない。
まぁ仮に出したところで、予算なんてないのだから全くもって意味はないのであるが。
(以前予算について聞いたら、未来の着ぐるみと普段のメンテナンス、プレハブ増築で完全にすっからかんだそうだ)
自腹かぁ…。
制服代もまだ貯まってないし、
喫茶店部か購買部のバイトを増やすかなぁ…。
そうなると家庭菜園部が主に夜の活動が多いから、放課後から夜までバイトをして、
そこから活動して、授業中寝る。完璧だ!
アレ、これってほぼ裁縫部と同じじゃないか?
やばいやばい完璧でもなんでもないやと未来がうんうんうなっていると、
「わかった、とりあえずいくらになるかだけ聞いてみるとしよう。それからでも遅くはないだろう」
「うう、ありがとうございます」
ちなみに拓にもらった球技大会の賞品の金券は、買い食いで一瞬にして消え去った。
お金に足が生えているのでおあしであるという話は本当かもしれない。
でもね、深夜まで活動するとお腹が空くんですよ、しょうがないんですよ。
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数日後のこと
「先方の椅子屋に聞いてみたところ、余って使わない張地。…ああ、布やレザーのソファの表面の材料だ、それを張地と呼んでいる。そういう材料ならただで譲ってくれるそうだ。
チップとウレタンという、中身の柔らかい部分の材料も端材ならくれるということなので、
見よう見まねで良ければ自分が張るがそれでどうだろうか?
縫製なんかは裁縫部に頼んでも良いだろう」
「おお…。ほんとにありがたい話です」
「それでな、せっかくなので良ければだが、木枠は自分で組んでみるか?内部の構造がわかって面白いかもしれない」
「それはぜひご指導ください!」
どのくらい難しいのかはわからないが、全く知らないことを知れるというのは興味が惹かれる。
かといって普段の授業は眠くなるし、まったく楽しくはないのだが。
やはり体を動かすのが自分には合っているのだろうか?
「今から材料を切ったりなんかするが、しばらくは機械加工だから見てなくてもいいぞ?」
「ちょっと興味があるので可能なら見させてください」
「わかった。機械によって、見るにも危険な位置があったりするので、
そこは指示するので絶対従うように」
その言葉には、用務員さんのいつものフワッとした雰囲気とは違って、
緊張感を感じた。
用務員さんは材料置き場に立てかけてあったふすまとか扉くらいの大きさの木の板を取り出した。
アレはベニヤ板だな。ホームセンターとかテレビとかで見たことがある気がする。
しかしでかいなぁ。自分が仮に作業をするとしたら持てるだろうか?
「前に畑中さんが使ってたような材料とは違うんですね」
「そうだなあれは無垢材でこれは合板だからな。
木には木目の方向があって方向によって強い弱いがあったり、伸びたり縮んだりもするんだが、
その目の方向によって同じ木でも収縮率などが変わってくる。
なので使う木材を、合板という縦に繊維が走るものと横に走るものをサンドイッチのように組み合わせ、
ある程度、安定して使いやすくしたりする。
あとは長方形なので加工しやすいという利点もあるな。
無垢材という木から直接切り出したものより歩留まり、つまりこの材料がこれくらいあれば足りるな。とそういう算段が立てやすくなったりもする。ま、色々だ」
その合板をパネルソーという機械にのせ、縦横、目的のサイズに切っていく。
切ったもののいくつかを横切りという機械で、斜めに切り落とす。
用務員さんが、これは背もたれの部分の傾斜をつけているところだという説明をしてくれた。
今回はゆったり座る用のものだから結構角度をつけているが、
飲食店の店舗だとゆったりするというよりは前かがみで食べるから、角度は比較的90度に近い。なんてことも教えてくれた。
そしていくつかの部材は昇降盤という丸ノコの刃がついた機械で、カッターという分厚い刃に変えて、
溝を掘ったりして材料は整ったようだ。
しかしあれだな。パネルソーという機械は刃物が表に出ていないのでそこまで怖くはないが、
横切りと昇降盤という機械は、丸ノコの刃がむき出しになって高速回転しているので、
げに恐ろしいと感じてしまう。
用務員さんのように木材を切れと言われても、泣きわめいて嫌だと言ってしまうかもしれない。
そう思ったという話もしたが、
「大丈夫だ、まず機械で作業しろなんてことは言わないし、
例えやらないと死ぬような状況があったとしても、
ゆっくり落ち着いて、刃物の線上に手が行かないようにすることと、ここに置いておけば安全だという位置があるので、
そういうことを頭に入れてやれば大体は問題ない。
まぁ極端に小さい木っ端を切りたいときなんかはどうあがいても危なかったりすることもあるので、細心の注意を払って工夫してやったりするがな」
ひぇっ、やはり考えるだけでも恐ろしい。
用務員さんなりの冗談なのだろうが、やらなきゃ死ぬような状況とは一体…。
無人島で一人で漂流したとか?その状態で機械があるとか、電気が通っているとかかなり特殊すぎる状況だなぁ。
「だがこういうのは、どういうわけかケガする人は何回もケガしたりするが
ケガしない人は一生ケガしなかったりする。ま、一回ケガしたらそこでアウトなんだが…」
と言いつつ、知る限り一番ひどかった人は、指が五本しかない人がいたぞと付け加えられた。
両手で五本ね。そんなんでも仕事がすごい出来るから、人間ってすごいとか言っていた。
緊張をほぐすために言ってくれたのかもしれないが、最早身震いしかしない。
・・・一生木工機械は使わないことを心に決めた未来であった。




