10 怪盗ホワイトキャットあらわる!
「失礼しまーす」
ガラガラーと勢いよく扉を開ける。
「なんだ、お前また来たのか。何度も言うが入部は受けつけていないぞ。さっき見てただろうからわかると思うが、水やりするだけの仕事だからな、二人もいらん」
「いやいや、それはもういいんですよ、あはは」
気付かれていたのか…。目つき悪くて性格悪くて頭も悪そうだが、あんがい動物的な鋭敏な感覚は持ち合わせているのかもしれない。
「じゃあ何の用だ?俺は忙しいんだ、早く出て行ってくれ」
「水やりが忙しいんですか?」
未来は決死の覚悟で嫌味を言ってみると、じろりと睨まれた。
「まぁまぁ、そんな邪険にしないでくださいよ、今日は迷惑かけたおわびにこれを…」
と言うと、水ようかんを差し出した。家に余っていたものを何かに使えるかなと思い持ってきたものだった。
「・・・」
無言で返されたが、これはきっと、そ、そんなモノに、つられると、思わないでよね!といういかにもツンデレチックな反応の裏返しと未来は判断した。
「・・・俺が」
さぁ、言うんだ!恥ずかしいセリフをな!
「こういう甘いものが好きだとでも思ったのか?」
・・・アレ?
言い方によっては、これでもホントは好きなんだろう?と思えるかもしれないが、森野の反応はひどく冷静であった。
「そうでしたか…今度はしょっぱいものを持ってまいります」
「いいから来るんじゃねぇよ…」
ちょっと落ち込んだふりをして部室を出て行った。
「くっくっく、ばかな奴め、水ようかんはおとりよ!」
実はそっちに目を向けている途中で部室の窓のカギをクイっと開けておいたのだ。
これにうまいこと気付かれなければ、森野が出て行った後に窓から忍びこむと言う寸法だ。
「どうせ、あの先輩のことだから、きっと窓のカギとか確認しないですよね」
仕事は終わったと楽観をし、喫茶店部にお茶をしに行くことにした未来であった。
余談だが、後日、喫茶店部でゼリーを嬉しそうにほおばっている森野を見て、これは水ようかんでなく、ゼリーにすればよかった、ゲル選に失敗したなぁと思った未来がいた。
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「ふっふっふ、私は怪盗ホワイトキャット」
日が落ちて、すっかり暗くなった校舎を歩きながら未来はテンションが上がっていた。
廊下の角に差しかかるたびに、陰に隠れ、手鏡で角の向こうに敵がいないか確認し、時には赤外線を潜り抜ける動作をしていた。もちろん校内にそんな防犯システムはない。
体育会系の部や、文化系の部活の一部(先ほどまで滞在していた喫茶店部も含まれる)などの中にはまだ残っている生徒もいるが、ほとんどの生徒はもう校舎にはいなくなっていた。
そのため、校舎を独占している気分になったのだろうと思われる。
「あとは中庭を進めば、ターゲットはもう間近ですね…」
そして当たり前だが、何事もなく家庭菜園部の部室にたどりついた。
「こちら、ホワイトキャット、応答願う、ただ今、二〇:〇〇をもちまして進行を開始する」
架空のトランシーバーで現状を誰かに報告する。
そして、辺りを一度見まわした後に、窓を開ける。
「…う、あ、あかない?」
おかしいなぁ、こんなはずじゃと思いなおし、一回仕切りなおした後にもう一度窓を開けようとするがやはり開かない。
「なんてこった…」
作戦のすべての軸であった鍵開けが、森野大魔神に阻まれていたのであった。正直閉まっているとは一ミリたりとも考えていなかった未来は途方に暮れてしまった。
「どうしようどうしよう」
こうなったら石で窓を割るという実力行使もせざるを得ないか…と、諦めが悪いと言うか、半ば意地になっている未来が、何の気なしに部室の入口のドアに手をかけると、
ガラっ
思わぬ手ごたえにむしろ本人が驚いてしまった。
「ええっ…鍵閉めましょうよ…」
と、思わず常識的な言葉を口走ってしまった。そのおかげで侵入できるということよりも、窓は閉めて扉閉めずという間抜けさに、森野の将来の心配をしてしまった未来であった。
「…お邪魔しま~す」
声をひそめながら、そう口にして入る未来。
部室の中はすりガラスで月明かりはなんとか入るものの、ほぼ真っ暗であった。
だが、悪いことをしているという自覚はあるので、明かりをつけて見つかったら、弁解のしようがないと判断し、家庭菜園部の部室内を思い出しつつ、目が慣れるのを待つことにした。




