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国民的アイドルの少女が死んだという報せは、瞬く間に世の中に広まった。彼女の死を嘆いたのは、少年だけでは無かった。国中の人間が、彼女の死に涙し、人によっては後を追った。現実を受け入れられずに暴れる者もあった。だが、誰よりも悲しんだのは少年だった。
少女の亡骸は、病院の霊安室にあった。少年と、少女の養母と養父が彼女の遺体を確認した。
「これからって言うときに、役立たず」
養母が吐き捨てるように言った。その言葉に、養父は彼女の頬を張った。
「何をするの。裏切ったあなたに、こんなことをする権利は無いわ」
「死んだんだぞ。それがこの子にかける言葉か」
「そうよ。どれだけお金をかけてきたと思っているの。まだまだ、この子には稼いでもらわないといけないのよ」
言い争う彼らを横目に、少年は少女の頬を撫でた。冷たく弾力がない。まるで冷たいゴムを触っているようだった。彼女の姿を形取った人形なのではないかと思った。
不思議と涙は出てこなかった。
養母が部屋を出て行った。それを追うように、養父も出て行った。刑事は少年の肩を叩くと、何も言わず部屋を出て行った。
部屋に残されたのは少年と、少女の亡骸だけだった。
「もう何時間かしたら、君はみんなとお別れをするんだって。まだ、僕とだってしていないのにね。君には、もっと見せたいものがあったのに。一緒にしたいことだってたくさんあった」
少年が彼女の手を握る。
「あんなに壁の外に出たいと思っていたのに。僕は間違っていたのだろうか」




