表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
滅んだ世界より愛を込めて(旧版)  作者: よねり
第二章 本当のディストピア
69/71

69


「GPSという便利な物があるのだよ」

 病院のベッドに寝ている少年に、キツネ目の刑事が自慢げに言った。GPSが何なのか少年はわからなかったが、刑事が自慢げに説明した。

「そんな便利な物があるなら、もっと早く来てくれたら良かったのに」

 少年が呟くと、刑事は珍しく黙ってしまった。作戦中は不潔だったのに、今は初めて出会った頃のように身綺麗になっていた。

「彼女はどこですか。この病院にいるんでしょう?」

 少年が尋ねても、刑事は答えなかった。病室の外に立っている護衛は、彼とは口を利かなかった。誰も、彼女のことを教えてくれる人はいなかった。

 少年は病室から飛び出した。隣の病室、その隣の病室ーー片っ端から病室の扉を開いた。だが、どの病室にも彼女の姿は無かった。

「無駄だ」

 戻ってきた少年に、刑事が言った。いつも通り厳しい表情ではあるが、声が震えている。

「彼女をどこに隠した」

 少年が刑事に食ってかかり、声を荒げた。刑事は彼の目をまっすぐに見て、もう一度言った。

「無駄だ」

 少年は刑事を乱暴に突き放す。刑事は絞り出すような声で言った。

「すまない」

 少年はその場に泣き崩れた。

「すまない」

 少年を見下ろし、刑事がもう一度言う。

「やめろ、そんな言葉が聞きたいわけじゃ無い」

 少年が嗚咽交じりに叫んだ。涙と鼻水が、床に水たまりを作った。いくら殴ってみても、床は動じなかった。

「すまない」

 再び、刑事が言う。握った拳から血が滴る。

「やめろって言ってるんだ」

 少年が叫んだ。

「すまない」

 刑事の目から涙がこぼれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ