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「GPSという便利な物があるのだよ」
病院のベッドに寝ている少年に、キツネ目の刑事が自慢げに言った。GPSが何なのか少年はわからなかったが、刑事が自慢げに説明した。
「そんな便利な物があるなら、もっと早く来てくれたら良かったのに」
少年が呟くと、刑事は珍しく黙ってしまった。作戦中は不潔だったのに、今は初めて出会った頃のように身綺麗になっていた。
「彼女はどこですか。この病院にいるんでしょう?」
少年が尋ねても、刑事は答えなかった。病室の外に立っている護衛は、彼とは口を利かなかった。誰も、彼女のことを教えてくれる人はいなかった。
少年は病室から飛び出した。隣の病室、その隣の病室ーー片っ端から病室の扉を開いた。だが、どの病室にも彼女の姿は無かった。
「無駄だ」
戻ってきた少年に、刑事が言った。いつも通り厳しい表情ではあるが、声が震えている。
「彼女をどこに隠した」
少年が刑事に食ってかかり、声を荒げた。刑事は彼の目をまっすぐに見て、もう一度言った。
「無駄だ」
少年は刑事を乱暴に突き放す。刑事は絞り出すような声で言った。
「すまない」
少年はその場に泣き崩れた。
「すまない」
少年を見下ろし、刑事がもう一度言う。
「やめろ、そんな言葉が聞きたいわけじゃ無い」
少年が嗚咽交じりに叫んだ。涙と鼻水が、床に水たまりを作った。いくら殴ってみても、床は動じなかった。
「すまない」
再び、刑事が言う。握った拳から血が滴る。
「やめろって言ってるんだ」
少年が叫んだ。
「すまない」
刑事の目から涙がこぼれた。