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朝のニュースではただの交通事故として報道されていた。少女はすべての局をチェックして新聞も読んだが、詳細はわからなかった。
それから何日も、刑事も少年も少女の前に姿を現さなかった。心配になった少女は警護に訊いてみると、彼らは顔を見合わせ困ったような表情を見せただけだった。
それから、何か大きな事故があるたびに、少女は気が気でなかった。徹底的に調べたが、事情はわからなかった。
数日後、事情がわかったのは、キツネ目の刑事が現れたからだった。
「ずっと何も教えてくれないで、私ばっかり協力している気がするわ」
「そりゃあ、警察の情報を安易にくれてやるわけにはゆかないのでね」
刑事は唇の端をゆがめて、嫌らしい顔で笑った。ほんの数日前とは違い、気力に満ちあふれているように見えた。作戦がうまくいっているのだろう。わかりやすい男である。
「さて、お嬢さん。悪い知らせと、とても悪い知らせ、どちらから聞きたい?」
とても、と言ったときの刑事はとてもサディスティックで楽しそうだった。
「とても悪い方から」
少女は覚悟が出来ていた。あの夜から今日まで、何度も最悪のケースを妄想したのだ。
刑事はわざとらしく咳払いをする。
「君のマネージャ、あれは魔物の母親だったらしい」
少女は悲鳴を上げた。想定していた最悪の事態を、斜め上に飛び越した。
「嘘でしょう」
「私もそう思いたい」
少女は信じられなかった。あんな子供が壁の内側にいると言うことは、故意に連れてこられて捨てられたと言うことだ。その子供が、魔物になるなんて、そんな残酷なことがあって良いのか。
それに、やはり魔物の正体は人間だったのだ。海さんが魔物のようなものに成り下がったところを見たが、本当にそういうことが起こるのだと言うことがショックだった。
「もう一つは」
「もう一つはたいしたことございません」
刑事が軽く笑う。
「まるで、パスタに添えられる粉チーズのように、あっても無くてもよろしいものです」
「良いから、早く教えて」
少女は胸騒ぎがした。
「君の大好きな少年君が、重傷です」
少女は立ち上がって彼につかみかかった。何日も風呂に入っていない臭いがした。
「それのどこがたいしたことないのよ!」
刑事は少女が取り乱している姿を見て楽しんでいるようだった。
「どこの病院?」
刑事の胸ぐらをつかんだまま彼女が言う。
「君には、その前にマネージャさんに会ってもらう」
「どうして。私なんて言っても何の役にも立たないわ」
「先方がご所望なんだ」
急に、いつもの厳しい雰囲気に戻った。それに怯んだ隙に、つかみかかった手をほどかれた。
意外だった。マネージャがそんな場所に少女を呼ぶことが考えられなかった。彼女は少女に対して、過保護と思うほど大切にしていた。養母からの信頼も厚かった。
少女は戸惑った。自分の知らない彼女に会う気がして、恐ろしかった。




