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滅んだ世界より愛を込めて(旧版)  作者: よねり
第二章 本当のディストピア
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 朝のニュースではただの交通事故として報道されていた。少女はすべての局をチェックして新聞も読んだが、詳細はわからなかった。

 それから何日も、刑事も少年も少女の前に姿を現さなかった。心配になった少女は警護に訊いてみると、彼らは顔を見合わせ困ったような表情を見せただけだった。

 それから、何か大きな事故があるたびに、少女は気が気でなかった。徹底的に調べたが、事情はわからなかった。

 数日後、事情がわかったのは、キツネ目の刑事が現れたからだった。

「ずっと何も教えてくれないで、私ばっかり協力している気がするわ」

「そりゃあ、警察の情報を安易にくれてやるわけにはゆかないのでね」

 刑事は唇の端をゆがめて、嫌らしい顔で笑った。ほんの数日前とは違い、気力に満ちあふれているように見えた。作戦がうまくいっているのだろう。わかりやすい男である。

「さて、お嬢さん。悪い知らせと、とても悪い知らせ、どちらから聞きたい?」

 とても、と言ったときの刑事はとてもサディスティックで楽しそうだった。

「とても悪い方から」

 少女は覚悟が出来ていた。あの夜から今日まで、何度も最悪のケースを妄想したのだ。

 刑事はわざとらしく咳払いをする。

「君のマネージャ、あれは魔物の母親だったらしい」

 少女は悲鳴を上げた。想定していた最悪の事態を、斜め上に飛び越した。

「嘘でしょう」

「私もそう思いたい」

 少女は信じられなかった。あんな子供が壁の内側にいると言うことは、故意に連れてこられて捨てられたと言うことだ。その子供が、魔物になるなんて、そんな残酷なことがあって良いのか。

 それに、やはり魔物の正体は人間だったのだ。海さんが魔物のようなものに成り下がったところを見たが、本当にそういうことが起こるのだと言うことがショックだった。

「もう一つは」

「もう一つはたいしたことございません」

 刑事が軽く笑う。

「まるで、パスタに添えられる粉チーズのように、あっても無くてもよろしいものです」

「良いから、早く教えて」

 少女は胸騒ぎがした。

「君の大好きな少年君が、重傷です」

 少女は立ち上がって彼につかみかかった。何日も風呂に入っていない臭いがした。

「それのどこがたいしたことないのよ!」

 刑事は少女が取り乱している姿を見て楽しんでいるようだった。

「どこの病院?」

 刑事の胸ぐらをつかんだまま彼女が言う。

「君には、その前にマネージャさんに会ってもらう」

「どうして。私なんて言っても何の役にも立たないわ」

「先方がご所望なんだ」

 急に、いつもの厳しい雰囲気に戻った。それに怯んだ隙に、つかみかかった手をほどかれた。

 意外だった。マネージャがそんな場所に少女を呼ぶことが考えられなかった。彼女は少女に対して、過保護と思うほど大切にしていた。養母からの信頼も厚かった。

 少女は戸惑った。自分の知らない彼女に会う気がして、恐ろしかった。

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