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ハッと顔を上げると、楽屋だった。どうやら眠ってしまったらしい。
「よく寝ていたわね」
マネージャが笑った。
番組のスタッフが呼びに来る。マネージャが少女の髪の毛を整えた。
「良い夢でも見たのかしら。幸せそうだったわ」
少女は自分でも素敵な夢を見た様な気がしたが、忘れてしまった。
仕事が終わって、車に乗り込んだのは未成年が働けるギリギリの時間だった。車に乗り込むやいなや、彼女は再び眠ってしまった。目が覚めたのは、強い衝撃を受けたからである。
少女は強い衝撃と、シートベルトの締め付けで咳き込んだ。マネージャが何か言っているが、聞き取れなかった。どうやら、前を走っている車が事故に遭って、急ブレーキを踏んだらしいと言うことだけはわかった。
前を走っていた車はぺしゃんこになって路肩に転がっていた。誰かが爆発するから逃げろと叫んでいた。
少女は見た。道路の真ん中に魔物の子供が立っていた。こちらを見て、ニヤリと笑う。彼が一歩踏み出した瞬間、パトカーのサイレンが聞こえた。
乱暴に開く車の扉。
「こっちへ」
少年の声だった。今度は本物だ。
「どうして?」
「良いから早く」
運転席を見ると、マネージャが車から引きずり下ろされようとしているところだった。
「やめてあげてください。どうしてこんな乱暴な」
少女が言い終わる前に、刑事が彼女に手錠をかけた。
「どうして」
少女は呆然と、彼女が連れて行かれるところを見ていた。そして彼女もまた、少年に引きずられるようにその場を後にした。魔物はいつの間にか姿を消していた。