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滅んだ世界より愛を込めて(旧版)  作者: よねり
第二章 本当のディストピア
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 久し振りの休日に、少女は何がしたいか問われ「遊園地に行きたい」と答えた。少女はジェットコースタが好きだった。モヤモヤした気持ちを、吹き飛ばしたかった。

 少年のことは心配だったが、彼の周辺はいつも屈強な護衛が付いているし、あの刑事もいつも一緒にいるようだ。少女が心配する必要は無いのだろう。半ばすねたような気持ちで、彼から距離を置いていた。

 それにしてもーーあの魔物は何が目的なのだろう。本当に少年に対する復讐だろうか。そして最も不思議なのは、どうやってここまでやってきたのだろう。それに、手引きをしている人間がいるという。わからないことだらけだ。

「ジェットコースタ何回目?」

 一緒に回っているマネージャが息を切らせる。考え事をしていたせいか、同じジェットコースタに何度も乗っていたらしい。やはり、これに乗ると考えが捗る。

 マネージャが限界と言いたそうな顔をしていたので、休憩することにした。飲み物を買って丸いテーブルに肘を突く。テーブルは猫足になっており、バラの模様が描かれていた。以前は真っ白で、綺麗な椅子とテーブルのセットだったのだろう。ここに、白いワンピースを着た少女が座り、カボチャパンツを履いた素敵な王子様とデートを楽しんだに違いない。しかし、今となっては見る影も無く塗装は剥げ、テーブルはざらついている。少女は椅子とテーブルにハンカチを一枚ずつ敷いていた。

 見上げると、休憩所の前にメリーゴーラウンドが回っていた。七色の馬が上下しながら回っている。時折、カボチャの馬車が回ってくるところが気に入っていた。

「あれ・・・・・・」

 少女は息を呑んだ。メリーゴーラウンドに、カボチャのかぶり物をした子供が乗っていた。その姿があの魔物の子供に似ていた。掘られた口元が不気味な笑みを浮かべ、少女をじっと見ている様に思えた。

 少女は思わず立ち上がって、その拍子にテーブルにぶつかったので飲み物をこぼしてしまった。マネージャが慌てて少女の服にハンドタオルを当てた。

「どうしたのいきなり」

 少女を見上げたマネージャの表情が固まった。少女は蒼白な顔で、震える指をメリーゴーラウンドに向けていた。

「どうしたの、大丈夫?」

 マネージャが彼女を抱きしめた。被っていた帽子が落ちる。彼女の顔を見た通行人が、彼女の名を呼んだ。野次馬が次々と集まってきて、メリーゴーラウンドが見えなくなってしまった。

「行きましょう」

 マネージャが彼女の肩を抱いて、その場から離れる。少女はおぼつかない足取りで、マネージャに引きずられるようにその場を離れた。カメラのシャッター音だけがやけに耳障りだった。

 とりあえず、野次馬を巻くために観覧車に乗り込んだ。少女の足はまだ震えていた。

「大丈夫よ。何があったの?」

「あれが・・・・・・」

「あれ?」

「あれがいた・・・・・・」

 少女が自身の肩を抱く。震えが止まらない。たった一度恐い目に合っただけで、やつの姿を見ただけでこんなになってしまうのに、少年は一体どういう気持ちで生きてきたのだろう。恐ろしい魔物や動物と戦いながら生きてきた少年のことを思うと、自然と涙が出た。

「ほら、みて。良い景色よ」

 マネージャが外を指さした。少女はその指先を追って、真っ青な空を見た。

「深呼吸だよ」

 背中をさすってもらって、ようやく呼吸の仕方を思い出したように深く息を吸い込んだ。

 その瞬間。観覧車が大きく揺れた。回転が止まる。

「お客様にご連絡申し上げます。ただいま、強い揺れを感知致しました。安全が確認できるまで、そのままでお待ちください」

 スピーカから、抑揚の無い声で案内音声が流れる。少女にはそれが、まるで地獄からの呼び声に聞こえた。

 再び揺れ。

 各かごから悲鳴が上がる。見下ろした先の地上でもざわついてる。ただ、地上の群衆の視線に違和感があった。他のかごの陰になって見えない。

 瞬間、魔物の子供に羽交い締めにされたときのことを思い出した。子供とは思えない力の強さーーいや、まさか。少女は頭を振る。いくら力があるからと言って、あんな小さな子供が観覧車を揺らすことなどーー。

 再び揺れた。

 少女は叫んだ。マネージャが耳を塞ぎ顔をゆがめる。少女は完全に我を忘れていた。叫びが止まらない。喉が焼けるようにいたいが、声がかすれても、叫び声を上げることがやめられなかった。

「大丈夫、大丈夫だよ」

 マネージャが少女を抱きしめる。必死に声をかけるが、少女は何度咳き込んでも、声が枯れても叫び続けた。

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