表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
滅んだ世界より愛を込めて(旧版)  作者: よねり
第二章 本当のディストピア
51/71

51 本当のディストピア




 その少年の『帰還』は爆発的な話題になった。何しろ、大昔に誘拐されたとされていた子供が十三年も経って姿を現し、あろうことか『危険地帯』からの生還者でもあるのだ。さらに失踪した国民的歌姫を携えて、とあればお祭り騒ぎに火がつくのも当然と言ったところだ。

 少年は連日連夜取材に追われた。テレビ局では、カメラが怪物に見えたと言って皆を驚かせた。少年が最も興味を示したのは、ラジオの取材だった。彼はラジオ局に転がっていた、古いポータブルラジオを気に入り、嬉しそうにそれを持ち歩いていた。時折、ラジオを聞いては愛おしそうになでいてた。

「人の声が聞こえるんです」

 ラジオが好きな理由を問われ、彼はこう答えた。その答えは、世界中の人を涙させた。

 彼が好意的に受け入れられる一方で、そうでないものも少なくなかった。彼がこちら側に入ってきたことで、あの病気が流行するのではないかと危惧したものたちだ。カストリ雑誌はこぞって彼を取り上げ、下品な記事を書き立てた。いつの間にか、彼には護衛がつくようになった。

 少年とともに危険地帯から帰還した歌姫は、少年の様子をいつも気にしていた。再び芸能界に復帰した歌姫は、少年のでている雑誌や番組をすべて蒐集していた。会いたいと言えば会えたはずだが、あえて彼女はそうしなかった。彼がつらいことを思い出してしまうと思ったからだった。

 少年もまた、歌姫の曲をラジオで聞くことが密かな楽しみだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ