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滅んだ世界より愛を込めて(旧版)  作者: よねり
第一章 旧世界のディストピア

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 家に戻る頃には、すっかり体が冷えていた。気を抜くと風邪を引きそうだ。

 食事は缶詰を開けることにした。

「この缶詰、消費期限は大丈夫なのか」

「消費期限って何ですか」

「いや、なんでもない」

 家の前で火をたくと、缶詰を温めた。僕はこうやって食べるのが好きだった。冷たい缶詰は、油が固まっていて苦手だった。

 海さんは温めすぎたのか、缶詰を一つひっくり返してしまった。

「もったいない」

 もう一つ缶詰を出してきた。まだ在庫はあったが、旧時代に作られたものが、いつなくなるかわからなかった。

 食事のあと、僕は自分の部屋で寝ることにした。彼女はソファが良いと言った。海さんは祖父の部屋が良いと言っていたが、あまりそこに人を入れたくなかった。まだ悲傷する心が癒やせないでいる。

「俺はどうしてもこの部屋が気に入ったんだ。駄目かな」

 海さんは僕の肩を掴んだ。その力が強すぎて、肩が痛んだ。眠かったし、海さんの気迫が恐かったので僕は彼の提案を呑んだ。

 自分の部屋に入ると、寝台に横になった。今日は随分と疲れた。この寝台で寝るのは久しぶりだ。長い長い旅をしてきたようだ。

 目を閉じると、そのまま眠りに落ちた。

 夢を見た。僕は何かから逃げていて、壁に囲まれた大地を右往左往していた。途中、彼女が手招きする方へ行くと、抜け穴があって、そこを通ると町が広がっていた。振り返ると穴は無くて、彼女も目が見えていて、町には人が溢れていた。

 目が覚めたとき、まだ夢の中にいるような気がした。何か夢を見ていた気がするが、忘れてしまった。

 部屋の外から物音がした。そっと部屋から出る。音は祖父の部屋からだった。何かを探すみたいな音だ。

「あった」

 海さんの声だった。そっとのぞいてみると、海さんが手にしていたのは祖父の日記だった。それを見るまで、僕は祖父が日記を書いていたと言うことすら忘れていた。彼は愛おしそうにそれを胸に抱きしめると、不気味に笑った。まるで、別人のようだった。

 海さんが部屋から出てきそうだったので、僕は慌てて隠れた。彼は隠す気はないのか、足音も気にせずに家を出て行った。勝手口から出て彼の行った方向を窺うと、家の前で何やら呟いていた。手には何か黒い板のようなものを持っていて、それに向かって独り言を呟いている。何やら「見つけた」とか、「これで事実を確認」と言うことを言っていた。

 彼は板を近くの岩の上に置き、祖父の日記を開いた。そして、ポケットから煙草の箱を取り出した。祖父が喫んでいたものだ。部屋に喫みさしが残っていたのだろう。

 海さんが日記の内容の一部を読み上げる。

「三月四日。また、本土から奴らが来た。俺たちを見て驚いたが、すぐに俺たちが何者かわかったらしい。案内するふりをして、いつも通り処理した。何の感情も無く、あんな残酷なことが出来るなんて、奴らは本当に魔物と呼ばれるにふさわしい存在だ。だからこそ、こういったことには適任なのだ。万が一にも、俺たちがここにいることが、外の連中にばれては困る。あの子のこともある」

 そこで一旦息を継ぎ、煙草の煙を吐いた。細く長い紫煙が、彼の唇から伸びる。太くゴツゴツした指先で、灰を落とすと再びフィルタをくわえた。

 彼が語った祖父の日記、一体どういう意味だろう。祖父が何者だというのだ。それに、処理とはーー祖父は魔物を使って何をしていたというのだ。祖父は魔物は悪いものだから近付いてはならぬと言っていた。自身は彼らを使って何かしていたというのか。あの魔物が、人間の言うことを聞くとも思えない。

 海さんが続ける。

「これで確信が持てましたね。やはり奴が、調査を妨害していたんです」

 海さんが本を地面に投げ捨てた。僕はびっくりして尻餅をついてしまった。

「誰だ」

 海さんが鋭い声で叫んだ。

「君か? 出てきなさい」

 今度は、うさんくさいほどに優しい声音だった。海さんが近付いてくる。心臓の音がうるさい。足が震えて逃げられなかった。

 なぜだか、今ここで見つかってはいけない気がした。とてつもなく悪いことが起こりそうな予感。もし、海さんが悪者だったとして、僕は彼に戦いを挑んでも勝てないだろう。風呂で見た彼の体を思い出す。

 海さんがあと数歩のところまで迫っていた。

 何かないかーー逃げようと思って手をついたところに、何か柔らかいものがあった。

「チュー」

 思わず声が出そうになった。ネズミがそこにいた。

「ちっ、ネズ公か。さっき落とした缶詰を狙ってきやがったな。薄汚い盗人め」

 海さんが慌てて逃げて行く。その隙に僕も家の中に入った。

 一体、何だったのだろうか。僕の知らない祖父の顔があるようだ。それが何か、海さんには聞けないだろう。あの人は怪しい。

 僕は再び部屋に入って眠った。疲れていたのだろう。すぐに眠ることが出来た。

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