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滅んだ世界より愛を込めて(旧版)  作者: よねり
第一章 旧世界のディストピア
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 陸にたどり着いた僕は、息を切らせながらも、彼女を抱えて堤防の上に登った。彼女の体はとても軽かった。長い髪の毛は、思っていたよりもずっと長くて、彼女の腰のあたりまであるのでは無いだろうか。汗をかいた顔に張り付いている。

 自分以外の子供を初めて見た。僕よりもずっと小さい。物の本によると、女の子は男の子よりもずっと小さいらしい。だから、小さな子供に見えても、もしかしたら僕より年上かも知れない。

 日陰に寝かせると、僕は再び彼女に話しかけた。丸まっている間に、彼女は眠ってしまったようだ。彼女が目を覚ます気配は無かった。そっと胸の音を聞いてみる。鼓動が聞こえた。

「おっ、やったな。いきなりお前の目標が達成されたわけだ。ラッキー」

 おじさんが口笛を吹く。

「僕の他に誰も人間はいないんじゃなかったの?」

「そりゃあ、これだけ広い世界だ。一人くらいはいるんじゃあねえの?」

「一人もいないって言ったろ」

「そんなこと言ったっけなあ」

 おじさんが口笛を吹く。

「誰かいるの・・・・・・?」

 不安そうな声で、彼女が呟いた。

「気がついた?」

 彼女は薄く目を開けた。

「ここはどこ?」

「ここは・・・・・・海だよ」

「・・・・・・海?」

 深く考え込むように、彼女は眉間に皺を寄せた。

「お父さんとお母さんは? あなたは誰?」

 状況が少しずつ理解できてきたのか、声音が怯えを帯びてきた。

「わからないけど、君は一人でボートに乗っていたんだよ」

「ボート・・・・・・」

 それきり、彼女は喋らなくなってしまった。何を聞いても、悲しそうな顔をするだけで反応が無かった。

 海の向こうに太陽が隠れようとしていた。

「とりあえず、僕の家においでよ」

 僕は家のある方を指さした。「こっちだよ」

 歩き出したが、彼女はついてこなかった。

「混乱するのもわかるけど、ここにいたってお腹は空くし、僕の家なら寝台もあるよ」

 彼女は黙って僕の方を見ていたが、やがて起き上がった。

 僕は再び家の方へ歩き出す。しかし、彼女はやはりついてこなかった。

「まだ何か嫌なことでもあるの?」

 僕はだんだんイライラしてきた。今までは、祖父やおじさんが僕の言うことを聞いてくれていたが、子供の相手をするのは初めてだった。

 彼女は怯えたような顔で僕の方へ手を差し出した。

「手を繋いで欲しいの?」

 相手は小さい子供だということを忘れていた。僕だって、彼女くらい小さいときは祖父に手を引いてもらっていた。

「おいで」

 僕も手を差し出した。しかし、彼女は近付いてこようとしない。

「・・・・・・の」

 彼女が何か言っているが、聞き取れなかった。

「なに?」

「目が、見えないの」

 虚空を見つめ、彼女が言った。

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