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太陽が真上に昇っていた。昼という時間だ。
森では木の実が採れて、川では沢蟹も見つけることが出来た。
家に帰って火をおこすと、鍋の中に野菜とカニを放り込んだ。味噌を溶かすとかに汁になった。
僕は味噌に印刷された数字を読む。消費期限のことだろう。一体今が西暦の何年で、何月何日なのかわからないが、この味噌はいつまで使えるのだろう。随分前に世界は滅んだはずだが、祖父は時々真新しい食品や調味料をどこかから見つけてきた。
かに汁が出来るまで、再びラジオをいじった。電源を入れ、ダイヤルを回す。すると、かすかに音楽が聞こえる局を見つけた。
僕は慌てて音量を大きくする。音楽だった。あのカセットテープの音楽とは違った。音楽はたくさんの種類がある。どんな種類の音楽があるのか、それがどのような広がりを持っているのか、想像さえ出来ない。だから楽しい。
楽器という物を演奏すると、色々な音を出せるらしいが、何をどうしたらこんな音がするのだろうといつも不思議に思う。牛の鳴き声や祖父のいびきよりもよほど美しい。虫の囁きや、ガラスに響く音と同じくらい美しい。
たまに、物を叩いてみると似た音がして、楽しくなって色んな物を叩いてみた。
人の声が聞こえてくる局が無いか探したが、見つからなかった。仕方なく、音楽が聞こえた周波数に合わせてみたが、もう音楽は聞こえてこなかった。それでも諦めきれずに、音楽が聞こえた局に合わせたままノイズを聞いているうちに、いつの間にか眠ってしまっていた。
目が覚めるともう随分日が傾いていた。じっとりと汗をかいて気持ち悪かった。水浴びがしたくて小川へ向かった。
祖父もおじさんたちも風呂が嫌いだった。夏の間は小川に入って、寒くなると山の上や海のそばの温水が沸いている場所に行った。
小川は冷たくて、気持ちよかった。
足の間を魚が泳いで行く。彼らが泳いで行った先には僕が仕掛けた罠がある。きっとそれにかかるだろう。




