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再び戻った洞窟の中は、先程は気付かなかったがとても湿気っぽかった。それに臭い。
ラジカセに電池を入れると再び曲が始まった。彼らがラジカセに夢中になっている間、僕は洞窟の中を見て歩こうと思った。先程、足の紐はほどかれていたし、ラジカセが鳴っている間は、彼らは僕に注意は払っていなかった。
思えば、このとき逃げようと思えば逃げられたのだろう。そうしなかったのは、恐怖が麻痺してしまっていたのか、好奇心が勝ってしまったのか、またはその両方だろう。元々、僕はこの場所を探し当てるつもりだったのが、手間が省けたのだ。調べられるだけ調べたい。
とはいえ、洞窟にはここの他部屋は三つほどしか無かった。一つは部屋の外からでもわかるほどの異臭がした。トイレだろうか。もう一つは、真っ暗だった。ここも嫌な臭いがした。糞尿の臭いに混じって、もっと嫌な臭いがした。
そっと振り返ってみる、彼らはまだラジカセに夢中だった。ズボンのポケットからペンライトを取り出す。ボタンを押すと、急に部屋の中が照らされた。
最初のうち、それが何かわからなかった。部屋の中央に鎮座した、何かのオブジェかと思った。ただ、本で読んだことがあった。それは人間の脳髄であった。人間の脳髄が、何かの液体の入った容器に入れられていて、そこにたくさんの針が刺さっていた。さらにその針から出ている配線を追っていく。
「ひいっ」
思わず声を上げてしまった。その拍子にペンライトも落としてしまった。配線の先にいたのは、この間図書館で出会った魔物だった。しかし、彼は今ではそのときの彼では無かった。椅子に座らされた彼の頭は開かれ、脳に同じように針が刺さっていた。
腰が抜けてしまい、立ち上がれなかった。手が縛られているので、うまく後ずされない。ふと、後ろに気配を感じた。振り返ると、大男だった。
彼は僕の頭を掴むとそのまま持ち上げた。首が折れるかと思った。アゴが砕け、髪の毛がごっそり抜け落ちるかと思った。彼はそのまま僕をもとの大部屋に連れて行き、地面にたたき落とした。そして、どこから紐を取り出しのか、再び僕の足を縛る。
「ご、ごめんなさい」
僕の謝罪は聞き入れてもらえなかった。それからは、ただ、カセットテープが終わるたびに表面と裏面を入れ替えることだけが許された。