23
洞窟を出ると、夕方だった。いつの夕方だろうか。随分気を失っていた様にも思えるし、ほんの数分のような気もする。あの中にいると時間の感覚がまったくなくなる。
以前、僕が乗っていた軽トラが洞窟の外に駐めてあった。後ろの荷台に、トイレットペーパが積んだままだった。やはり、盗んだのは彼らだったのだ。あのとき図書館で会った男も、この洞窟のどこかにいるのだろうか。
どうも彼らは僕に殺す気はまだ無いらしい。友好的な性質なのかと思ったが、そもそもこういう扱いを受けているだから、友好的では無いだろう。魔物、という呼び名から想像した姿よりは人間に近いことだけ、ホッとした。
僕は荷台に放り投げられた。顔をぶつけて鼻がツンとしたが、それに構う事無く、大男は運転席に乗り込む。あの体格で運転席に収まるということに驚いた。
彼はまるで玩具のミニカーに乗っているみたいに窮屈に見えた。シートベルトが締められないので、警告音が鳴り続けている。
町に着くと、大男は僕の足の紐を外した。手の紐は外さず、腕を捕まれた状態で、電池を探させるつもりだ。
僕は諦めて、旅館を目指した。あの旅館に、同じようなラジカセがあったのを憶えていたからだ。
旅館に着くと、すぐにラジカセを見つけた。試しに電源を入れてみる。使えるようだった。そのラジカセから電池を抜くと、大男に見せた。彼は納得したのか、頷いた。彼が満足して振り返った隙を見計らって、ラジオの隣にあったペンライトをズボンのポケットに押し込んだ。
旅館を出ると、おじさんがいた。
「おじさん、助けて」
助けを請うが、おじさんは僕に向かって唇に指を当てた。
「冒険は常に危険と隣り合わせだ。だがなあ、運命って奴ぁ自分で切り拓くもんだ」
大男が僕の様子に気付いておじさんの方見たが、おじさんは脱兎のごとく逃げ出した。大人のくせに役に立たない。
大男はしばらくおじさんのいた方を見ていたが、おじさんの逃げ足に敵わないと思ったのだろうか、それとも追いかける価値がないと判断したのだろうか、何事も無かったかのように僕の背中を押した。
再び軽トラの荷台に放り込まれると、車が発進した。荷台から見上げた空は綺麗にグラデーションかかっていて、とても綺麗だった。見つめていると、そこに溶け込んでしまいそうだ。溶け込んだらどんな色になるだろう。マーブルの一部くらいにはなれるだろうか。あのグラデーションの中に、祖父も溶けているだろうか。祖父は空の上で元気にしているだろうか。