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僕が産まれた時には、すでに世界は滅んでいたらしい。
物心ついた頃には「人類は我々をのぞいて一人残らず絶滅した」と祖父が言った。それでも「町」には図書館があったし、過去の遺物から知識は充分に得られたから、不自由はしなかった。畑には充分な作物が実るし、どうして過去の人類は食糧難に陥ったのか、いまいちわからなかった。そんなにたくさんの人間がいたのだろうか。
アリの行列を見て妄想する。例えば、このアリくらい人類はいたのだろうか。それとも、もっと?
祖父が言うには、僕たちの立つこの大地を埋め尽くすくらいの人類がいたらしい。そんなの嘘だろうと思っている。そんなにいたら、地面が崩落してしまう。
我々、というのは僕と祖父だけではない。名前は知らないが、祖父の友達のおじさんがいるし、たくさんの動物と暮らしている。本当は他にも人がいたらしいけれど、みんな死んでしまった。彼らの記憶は、僕には無い。ただ、家から少し離れたところに墓地があって、いくつか墓石が立っているところを見ると、本当に祖父とおじさん以外の人間が存在していたらしいと言うのはわかる。
死ぬのは怖い。死んだら人はどこへ行くのだろう。ある本には星になると書いてあった。また、ある本には天国や地獄へ行くと書いてあった。どちらのことも、詳細は書かれていなかった。ただ、どちらも良いところなのだろう。一度行ったきり、まだ誰も帰ってきていないらしいから。
残った祖父とおじさんは、自分たちは強いから生き残っていられるんだと言った。じゃあ、僕も強いのかと聞いたら、とても強いのだと言っていた。でも、全然強くなんてないことを僕は知っている。祖父のように明晰な頭脳も持っていないし、おじさんのように腕っ節も強くない。二人とも、いつも僕の腕が細いと馬鹿にするのだ。
いつか、祖父もおじさんも死ぬときが来るのだろうか。そうやって人が減っていって、最後に残されるのは僕になるだろう。
僕が死んだ後は、人間はいなくなってしまう。それは寂しいことだ。一つの種が滅ぶことで、地球も涙してくれるだろうか。