朝イチ召喚
4月1日。
三浪したあげく、晴れて大学生身分を取得したその日。
朝、目が覚め、目を開くと、部屋が一瞬、まばゆい光に包まれた。
………
「ゆうしゃ、さま。ゆうしゃ、さま」
年老いた男の声で、僕は、はっと我に返った。
僕は、冷たい石のような床の上に寝ころんでいた。そして、冷たいはずだ。僕は、真っ裸だった。
え?確か、上下トレーナーを着ていたはずだが?
「ゆうしゃ、さま。この世界に来てくださって、ありがとうございます。さっそくですが、ゆうしゃさまのお力で、この世界を危機から救ってください」
えっ?
話が、まるで見えない。
…というか、むしょうに小便がしたい。
「あ、あの、トイレはどこですか?」
僕は、話しかけてきた老人の男に尋ねた。
その老人の男は、まるで古代世界の神官のような姿で、頭には袈裟のようなものをかぶっていて、魔法使いのおばあさんが持っているような杖をついていて、いかにもな感じで腰が曲がっている、小柄な人物だ。
老人男は、おかしな表情をして黙ってある方向を指さした。
指さした方向には、しかし何もない。
「?」
けげんな顔をしていると、老人男のそばに控えていた年若い女子が
「あそこの隅で用を足してください」
と、ささやいてきた。
その、見たところ十代前半くらいの小柄な女子も神官のような姿だが、頭に何もかぶっていず長い黒髪がさらさらと流れ、そしてそのお胸はなんとも見惚れるほどのご立派な…。
おっといけない、小便がもれそうだ。
立ち上がった。
女子神官がさっと手で顔を隠す。一瞬何をしてるんだと思ったら、あ、そうか、僕は真っ裸なんだった。
歩き出す。
建物は、古代の大きな神殿みたいな場所。
ふと振り返ると、僕が寝ころんでいた場所に魔法陣のようなものが描かれていた。
しかし僕の脳内は、小便洩れる、小便洩れるであふれかえり、深く考えることもなかった。
建物の隅の壁に向かって、ジャアアアアア~~~ッとぶっかけた。
アルコールの臭いにおいが、一気に立ち込めた。
そういえば昨夜、大学進学祝いでビールをがぶ飲みしたんだっけ。
ジャアアアアア~~~~ッ
ジャアアアアア~~~~ッ
ジャアアアアア~~~~ッ
小便は、えんえんと続いた。
アルコールの臭い臭いにおいが、建物内に次から次へと立ち込め…。神官2人が、せき込み始めた。
この建物、窓がないのか?
ふうーっ
僕はようやく小便を出し終えて、神官たちのほうへ戻ろうとした。
そのとき、床の魔法陣が突然光り輝いた。
「え?」
「え?」
2人の神官が、驚きの声を発した。
やがて、魔法陣の中から、筋骨隆々の背の高い、僕と同年代くらいの男子が、真っ裸で現れた。
ちなみに僕は、身長175センチだが、体重は110キログラム…。要するに、デブである。とてもじゃないが、筋骨隆々じゃない。というか、筋骨が肉に隠れている。元はスリムだったんだが、二浪した後にふてくされアルコール依存症になってしまったツケである。
2人の小柄な神官が、ひそひそと声を低めてなにやら話している。
やがて
「お、お二方。いまから、ゆうしゃ検査をします」
と老神官がのたまった。
一抱えもありそうな大きな水晶のような玉が運ばれてきた。
「お二方、自分の名前をフルネームで名乗り、それに手を触れてください。それでは、そちらのかたから」
と、老神官が僕を指さした。
真っ裸で、水晶玉の前に立った。
女子神官が、手で目を覆う。
「結社二朗!」
僕は名乗ると、その水晶玉に手を触れた。
………。
老神官の表情が、さっと変わった。なにやら僕を、おかしな表情で見ている。
次に、筋骨隆々青年が、真っ裸で水晶玉の前に立った。
女子神官はとみると、あ?目を手で覆っていない。やつの股間をガン見してやがる!なぜ、差をつけるんだよー?
ま、それはいいとして。
「山田二朗!」
やつが水晶玉に手を触れた。
ピカーーーッッッ!!!!!!!!
水晶玉がまばゆく輝いた。
「?」
突然、誰かに後ろから布のようなもので目隠しされた。
と思ったら、僕の体、110キログラムもあるのに誰かにひょいと持ち上げられ、どこかへ運ばれていく…。
だんだん体が熱くなってきた。
うー!熱い!なんだこれは?熱い!
なにかの熱源に体を晒されてるよう…。
ふと、目隠しが外された。
「うわ」
目の前が、真っ赤だ。
やがて、目が慣れてきた。かまどのようなものがある。木がくべられ、めちゃくちゃ中が燃えている。
「351番!おまえの名前は、今から351番だ。おまえは、ここで一生、風呂 焚きをする!」
「え」
先の見通しゼロで始まりました。さて、どうなることやら。わかりません。