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人違い異世界紀行  作者: よほら・うがや
1/5

朝イチ召喚

4月1日。

三浪したあげく、晴れて大学生身分を取得したその日。

朝、目が覚め、目を開くと、部屋が一瞬、まばゆい光に包まれた。


………


「ゆうしゃ、さま。ゆうしゃ、さま」

年老いた男の声で、僕は、はっと我に返った。

僕は、冷たい石のような床の上に寝ころんでいた。そして、冷たいはずだ。僕は、真っ裸だった。

え?確か、上下トレーナーを着ていたはずだが?

「ゆうしゃ、さま。この世界に来てくださって、ありがとうございます。さっそくですが、ゆうしゃさまのお力で、この世界を危機から救ってください」

えっ?

話が、まるで見えない。

…というか、むしょうに小便がしたい。

「あ、あの、トイレはどこですか?」

僕は、話しかけてきた老人の男に尋ねた。

その老人の男は、まるで古代世界の神官のような姿で、頭には袈裟けさのようなものをかぶっていて、魔法使いのおばあさんが持っているような杖をついていて、いかにもな感じで腰が曲がっている、小柄な人物だ。

老人男は、おかしな表情をして黙ってある方向を指さした。

指さした方向には、しかし何もない。

「?」

けげんな顔をしていると、老人男のそばに控えていた年若い女子が

「あそこの隅で用を足してください」

と、ささやいてきた。

その、見たところ十代前半くらいの小柄な女子も神官のような姿だが、頭に何もかぶっていず長い黒髪がさらさらと流れ、そしてそのお胸はなんとも見惚れるほどのご立派な…。

おっといけない、小便がもれそうだ。


立ち上がった。

女子神官がさっと手で顔を隠す。一瞬何をしてるんだと思ったら、あ、そうか、僕は真っ裸なんだった。

歩き出す。

建物は、古代の大きな神殿みたいな場所。

ふと振り返ると、僕が寝ころんでいた場所に魔法陣のようなものが描かれていた。

しかし僕の脳内は、小便洩れる、小便洩れるであふれかえり、深く考えることもなかった。

建物の隅の壁に向かって、ジャアアアアア~~~ッとぶっかけた。

アルコールの臭いにおいが、一気に立ち込めた。

そういえば昨夜、大学進学祝いでビールをがぶ飲みしたんだっけ。


ジャアアアアア~~~~ッ

ジャアアアアア~~~~ッ

ジャアアアアア~~~~ッ

小便は、えんえんと続いた。

アルコールの臭い臭いにおいが、建物内に次から次へと立ち込め…。神官2人が、せき込み始めた。

この建物、窓がないのか?


ふうーっ

僕はようやく小便を出し終えて、神官たちのほうへ戻ろうとした。

そのとき、床の魔法陣が突然光り輝いた。

「え?」

「え?」

2人の神官が、驚きの声を発した。

やがて、魔法陣の中から、筋骨隆々の背の高い、僕と同年代くらいの男子が、真っ裸で現れた。

ちなみに僕は、身長175センチだが、体重は110キログラム…。要するに、デブである。とてもじゃないが、筋骨隆々じゃない。というか、筋骨が肉に隠れている。元はスリムだったんだが、二浪した後にふてくされアルコール依存症になってしまったツケである。


2人の小柄な神官が、ひそひそと声を低めてなにやら話している。

やがて

「お、お二方。いまから、ゆうしゃ検査をします」

と老神官がのたまった。

一抱えもありそうな大きな水晶のような玉が運ばれてきた。

「お二方、自分の名前をフルネームで名乗り、それに手を触れてください。それでは、そちらのかたから」

と、老神官が僕を指さした。


真っ裸で、水晶玉の前に立った。

女子神官が、手で目を覆う。

結社ゆうしゃ二朗じろう!」

僕は名乗ると、その水晶玉に手を触れた。

………。

老神官の表情が、さっと変わった。なにやら僕を、おかしな表情で見ている。


次に、筋骨隆々青年が、真っ裸で水晶玉の前に立った。

女子神官はとみると、あ?目を手で覆っていない。やつの股間をガン見してやがる!なぜ、差をつけるんだよー?

ま、それはいいとして。

山田やまだ二朗じろう!」

やつが水晶玉に手を触れた。

ピカーーーッッッ!!!!!!!!

水晶玉がまばゆく輝いた。


「?」

突然、誰かに後ろから布のようなもので目隠しされた。

と思ったら、僕の体、110キログラムもあるのに誰かにひょいと持ち上げられ、どこかへ運ばれていく…。


だんだん体が熱くなってきた。

うー!熱い!なんだこれは?熱い!

なにかの熱源に体を晒されてるよう…。

ふと、目隠しが外された。

「うわ」

目の前が、真っ赤だ。

やがて、目が慣れてきた。かまどのようなものがある。木がくべられ、めちゃくちゃ中が燃えている。

「351番!おまえの名前は、今から351番だ。おまえは、ここで一生、風呂 きをする!」

「え」

先の見通しゼロで始まりました。さて、どうなることやら。わかりません。

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