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兄、試験を受ける ①

遅くなってすみませんでした。


「……どうしてこうなった」


 とある森の中で魔物と戦いながら肩を落としため息を吐くカリル。


「えへへ、お兄ちゃんと一晩テントの中で二人っきりだなんて、カップルみたいだね! あぁ、早く夜にならないかなぁ」


 それに随伴し、カリルの腕に抱きつきながら何やら思いを馳せているアリナ。


 因みに、ベタベタしないという約束を二人とも忘れている。


 その理由と森に来ている理由を話すには、少し時を遡る必要がある。


…………

………

……


 適性を見てもらったカリルに、受付の女性が試験を行うと告げた。


「内容は、魔物が生息する東の森で三日間過ごすというものです。もちろん試験管が同行するので、命の危険はありません。が、本当に危険な場合のみしか試験管は動きませんのでご了承ください」


 まぁ、冒険者をするのだから危険を伴うのは当たり前だ。


 そうカリルは納得する。


「試験管は、ダイヤモンド冒険者のルーカス様が担当されているので、到着し次第、紹介いたします」

「ルーカスって、あの〝双剣のルーカス〟のルーカスですか?」


 アリナが訊ねる。


「さすが、勇者様はご存知ですね。そのルーカス様です」


 受付の女性がアリナを褒める。


 カリルは気になってアリナに訊ねた。


「知り合いなのか?」

「うん、まぁ、そんな感じかな……。あ、決して彼氏とかじゃないからね!? 私は今までもこれからも、お兄ちゃん一筋だからね!?」

「……」


 カリルの顔から一瞬にして表情が無くなる。


 兄一筋と宣言するこのブラコン(いもうと)が世界を救った勇者だとは、世間の人達は知らないだろう。


 カリルは落胆する。


 いや、妹に好かれるのは兄冥利に尽きるのだが、アリナの場合その度合いを超えている。


 先程も、カリルと夫婦になった時の妄想をなんの恥じらいもなく口にしていた。


 そのことから考えると、カリルへの想いが強いことは明白だ。


 できれば普通に彼氏を作ってもらいたい、とカリルは思った。


 ◆


 それからしばらくすると、腰の左右に剣を提げた妙に豪華な鎧を着けた金髪のイケメンが現れた。


 そして、受付の女性からルーカス・ホルセインであると紹介を受ける。


「おぉ、勇者様、またお会いできるとは光栄の至り。どうです? この後食事でも」

「結構です。すでに何人も女侍らせてる野郎と食べたくはありません」

「これは手厳しい。しかし、私はあらゆる女性を等しく愛しております。勇者様のことも然りです。決して疎かにしないと誓いますよ?」

「私にはこの人がいるので結構です」


 そう言ってアリナはカリルの腕に抱きつく。


 えっ、なんで俺? と、口に出さないまでも驚くカリル。


「男に興味はありませんが、そちらの男が今回冒険者になる方ですか。勇者様とはどのようなご関係で?」

「彼し……」

「妹と兄です!」


 アリナの言葉を遮るようにカリルが慌てて答えた。


 遮られたアリナはムスッとしている。


「なるほど、勇者様のお兄様でしたか。通りで似ていらっしゃると思いましたよ。改めまして、ルーカスと申します。勇者様を私にください」


 なんとも直球な申し出に、カリルは戸惑う。


 そんなカリルをアリナは不安そうに見詰める。


 カリルは、アリナに普通に彼氏を作ってもらいたいのであって、すでに何人も女を侍らせているらしい男にやる気は毛頭ない。


 それに、本人が嫌がっているのに勝手に〝いいですよ〟とは言えない。


 ここは断ろうとカリルは判断した。


「お断りします」


 言いながら頭を下げるカリル。


「それは、なぜでしょうか? 私ならばそこらの有象無象よりは勇者様を幸せにできると自負しております。私に預けることこそ、勇者様の幸せ……」

「……決めつけるな」

「……はい?」

「妹の幸せを勝手に決めつけるなって言ったんだよ、自惚れ野郎。お前みたいなやつには絶対にアリナは渡さない」


 そう言いながらアリナを抱き寄せる。


 アリナは今までカリルがここまで怒ったことが無かったため驚いていたが、抱き寄せられたことでそれも忘れて顔を真っ赤にさせた。


(お、お兄ちゃん!? こ、こんな公衆の面前で、大胆すぎるよ……!)


 カリルが聞いたら確実に「お前が言うな」とツッコミを入れられそうなことを思うアリナ。


 その間にもカリルとルーカスの話は進む。


下手(したて)に出ていれば随分と生意気なことを言うじゃないか。まだ冒険者にもなっていないクズの分際で……!」

「アリナの兄として、親代わりとして、当然のことを言ったまでです。アリナの幸せはアリナ自身が決めることです」

「そうです! 私は今までもこれからもお兄ちゃん(ひと)す、むぐっ!?」


 公の場でとんでもないことを公言しようとしたアリナの口をパシッという音をたてながら塞ぐカリル。


 今のをすべて聞かれていたら、確実に勇者として凛としたイメージを持たれているアリナのイメージは崩れ去るだろう。


 カリルはその事を知らないが、反射的にアリナの口を塞いでいた。


「ともかく、貴方みたいな人にアリナは渡しません。お引き取りください」


 カリルが言い放つと、ルーカスは身を震わせ始め、次の瞬間腰に提げた二本の剣を抜き放った。


「もう殺す! オレに逆らったことを後悔しながら死ねぇぇ!!」


 そう言いながら二本の剣を振りかぶってものすごいスピードでカリルに向かって突っ込んでいくルーカス。


 一瞬にして振り下ろしたら斬られるというところまで迫ってきたことに死期を悟るカリル。


 そしてルーカスが二本の剣を振り下ろす。


 もうダメだと目を瞑るカリル。


 しかし、数秒経っても斬られる気配がない。


 その代わり、ドゴォンッという大きな音が聞こえてきた。


 恐る恐る目を開けると、隣にいたはずのアリナが目の前におり、目の前にいたはずのルーカスはいなくなっていた。


 よく見ると、建物に人形の穴ができている。


「お兄ちゃんに手を出せば私が黙ってないから」


 キリッとした表情でちゃっかり決め台詞を吐くアリナ。


 それから心配そうな表情でカリルの方を向く。


「お兄ちゃん、大丈夫!? 今日、一緒に寝てあげようか!?」

「子ども扱いするな。アリナが一緒に寝たいだけだろ?」

「ぶぅ……ケチ、一緒に寝てくれてもいいじゃん」


 そう言って頬を膨らませるアリナ。


 周りの人達は目の前の光景に付いていけていない。


 あの勇者様が〝兄のこととなると暴走気味になる〟というこの事実を全く呑み込むことができないのだ。


「というか、試験管吹っ飛ばしたらダメだろ。試験どうするんだ」

「それなら、良い方法がある」


 そう言って現れたのは、このギルドのギルド長であるザック・ホグラントであった。


 そのザックが提案する良い方法とは、アリナを特別にダイヤモンド冒険者にして試験管をしてもらうというものだった。


「勇者様ならば安全は約束されたも同然だし、お兄さんと誰にも邪魔されずに一緒にいられる。やりますか?」


 ザックがアリナに訊ねる。


「やります!!」


 即答だった。


 そして、この時のアリナの頭の中は、誰にも邪魔されずにカリルと一緒に三日間、如何に過ごすかということしかなかった。


 ――そして、冒頭に至る



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