世界最強(いもうと)はブラコン
ノリと勢いで書いたものです。
生暖かい目でお読みください。
イマイチ、ブラコン力が足りないかもしれません。そこは、書いているうちに向上させられればなと思っています。
最初だけ一人称視点であとはすべて第三者視点の予定です。
俺(カリル)の妹(アリナ)は世界最強だ。
なぜなら、勇者の力を持って産まれ、12歳という若さで魔王討伐を成し遂げて帰ってきたから。
魔法、スキル、体術などあらゆる面で規格外な妹。
そんな妹に少々問題がある。
超が付くほどのブラコンなのだ。
どこに行こうとしても付いてこようとし、寝るときもお風呂に入るときなども一緒にいようとする。
極めつけは、魔王討伐の功績を称え貴族の称号を与えると言われた時に、魔王を討伐したのは俺に危険が及ばないようにするためで国の為ではないと断言して授与を断ったこと。
これには国の重鎮の方々は唖然とされた。
12歳に爵位が与えられること自体異例だったけど、断ることの方が前代未聞だったからだ。
しかしそこは勇者であることを考慮され爵位授与の話は無かったことになった。
そしてさらに、妹が15歳になった頃、邪神が降臨し、勇者である妹が徴収された。
妹は無事邪神を葬り去り、名実共に世界最強となった。
そして今度こそと爵位の授与の話が出るが、またしても世界最強は俺の為に邪神を討伐したと断言し、授与を断った。
全部、後に本人から聞いた話なのだが……。
◆
それから1年経ち、16歳になったアリナは18歳のカリルから一時も離れようとしない。
そろそろ思春期に入っていてもおかしくないのに、その兆候すらない。
その証拠に、未だに風呂も一緒に入ろうとするし、一緒に寝ようとする。
こうなったら家を出るしかない。
そう思ったカリルは、家を出て冒険者をすることにした。
報告すると絶対に付いてこようとするだろうし、アリナには言わないでおこう。
という妥当な判断をした。
そしてある日、今日で最後だからと一緒に寝ることを了承し、翌日の早朝こっそりと家を出た。
ここから王都まで1日はかかるけど、冒険者になるのだから歩いて行こう。
はたして、冒険者になることを胸に、カリルは王都に向けて出発したのだった。
◆
一方、寝ていたアリナが目を覚ますと、最愛の兄であるカリルが居なくなっていた。
「お兄ちゃん……?」
目をゴシゴシと擦りながらベッドを降り、リビングに行ってみる。
しかしそこにもカリルは居らず、リビングは静まり返っていた。
アリナは一気に覚醒し、家中を探し回る。
それでもカリルは見つからない。
「ま、まさか、誘拐!? 私に力を貸してほしい悪党が、お兄ちゃんを人質に!?」
この世界最強、ブラコンでありながら妄想癖もある。
「今助けるからねっ! お兄ちゃん!」
意気込んだアリナがスキル《追跡》を使い、カリルにスキル《マーキング》で付けておいたマーキングを探す。
アリナにとってカリルとはこの世で何よりも替えがたい至高の存在。神に等しい人。
いや、神そのものだ。
何人たりともカリルを害することは許されない。
その為、万が一の時の為に、カリルにマーキングを付けておいたのだ。
そのマーキングが《追跡》に引っ掛かり、ここと王都の間に居ることがわかった。
居場所がわかればあとは転移させるだけだ。
スキル《磁石の共鳴》でカリルを引き寄せた。
この《磁石の共鳴》は、設定した相手や物を自分のもとへ転移させることができるスキル。
カリルの作戦は失敗に終わったということになる。
「あれ? なんで家に……? というかなんで目の前にアリナが?」
「お兄ちゃん! よかった! 怪我はないっ?」
急に目の前にアリナが現れ困惑するカリルに、アリナはペタペタとカリルの体を触り怪我を負ってやしないかと必死に確認する。
カリルはこれだけは理解した。
失敗したのだと。
魔王を倒し邪神まで倒したこの世界最強からは逃れられないと。
それならいっそのこと、というわけで、カリルは正直に話すことにした。
「アリナ、俺は家を出て王都に行って冒険者になりたいんだ」
「そうだったんだ、だったら一緒に……」
「だから、邪魔しないでくれ」
ズバッと言った。
アリナは、邪魔しないでくれの一言で撃沈した。
世界の終わりみたいな顔をしている。
「な、なんで? 私も連れてってよっ、役に立つから!」
涙目になりながら懇願するアリナ。
役に立ちすぎるから嫌なんだ、とカリルは心の中でツッコミを入れる。
魔王と邪神を倒した世界最強が役に立たないはずがない。
そもそも、一時も離れなさすぎなアリナから脱するために家を出て冒険者になりたいのに、ここでアリナを連れていったら本末転倒だ。
絶対に連れていくわけにはいかない。
「アリナとじゃなく、他の人とパーティーを組んで冒険がしたいんだ」
「で、でも、そしたら私は、何に縋って生きていけばいいの!?」
縋るってんな大袈裟な……とカリルは呆れる。
「やだよ……お兄ちゃん……一人にしないで……お兄ちゃんがいなきゃ、生きていけないの……」
「アリナ、お前もう16歳だろ。そろそろ独り立ちしてくれ……」
「いやっ、お兄ちゃんと一緒にいるの! ずぅーっと一緒にいるの!」
幼児退行したような口調でカリルに縋り、カリルの胸板に額を擦り付け、いやいやと首を横に振る世界最強。
カリルからため息が漏れる。
こんな可愛いことをされてグッとこない男がいるだろうか。否、いない。
お世辞、贔屓目抜きでもこの妹の容姿は可愛いのだから。
そしてカリルは本心ではアリナを嫌っているわけではないし、自重してほしいだけで、離ればなれになりたいわけでもないのだ。
「……わかった。一緒に行こう」
「ほ、ほんと!?」
「ただし……一緒にお風呂に入るのも一緒に寝るのも無しだ。もちろんベタつくのもだ。これが守れないなら、一緒には行かない」
アリナにとっては生命線と言っても過言ではない行為をやめなければならないとわかり、アリナは究極の選択を迫られていた。
受け入れて付いていくか、大人しく家で待ち帰ってきたときに存分にベタついたりするか、という二択に。
しかし、やめてほしいと言ったいうことは、帰ってくるか怪しいところだ。
そうなると、カリル成分が補給できない。
常に傍にいられるなら我慢をするべきか、とアリナは妥協した。
「うん、わかった。約束する。だから、一緒に行ってもいいよね?」