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Episode27 「カノン」

おまたせしました。

20210929時点の最新話です。

「どうして……?」

ユウスケの口から零れたその言葉はあまりにも切なく、寂しいものだった。

確かに会いたいとは思っていたが、それはこの凄惨な戦いを生き抜き、平和な現実に戻ってからの話だ。

こんな死が跋扈する世界で会いたいだなんてこれっぽっちも思っていない。

「ユウスケ?」

息を呑んだ。

何年経とうとも忘れることのできないその声に。

もうユウスケは自身の気持ちを偽ることはできずにいた。自分を幾度と苦難から乗り越えさせ、数十年間ずっと苦楽を共にしてきた人の声を間違えるはずがないし、何よりユウスケを見て安堵したかのように笑って駆け寄ってきたからだ。

「チッ……。マスター・エイジも変なとこで呼び寄せてくれたもんだ。いつもなら生かして転移者狩りのテストをしてもらうが、場所が悪かったなァ。」

ヨウはコンバーと呼ばれるソードオフショットガンを右手で構え、カノンの背中に照準を合わせた。

それに気づいたユウスケはカノンを失うことに対しての絶望が勝ったのか、オルディネールを使うよりも自身の右眼を黒く染め上げ、そこから放たれた衝撃波によってヨウを吹き飛ばした。

「がッ……!」

その隙にユウスケはカノンの手を握ってそこから逃げた。

坂を下り、人通りの少ない路地裏を利用して街から脱出することを計画していたが、時は既に遅く、町人全員と言ってもいいほどの人数がユウスケ達を取り囲むように集まっていた。

「俺はあなた達には何もしない……!そこを通してくれ!」

そう呼びかけるユウスケだが、人々は聞く耳を持たず鉈や鋤を持って2人の前に立ちはだかった。

しばらくすると人混みの中から先程の町長が現れ、転移者であるユウスケに悪意を持った顔つきで言った。

「申し訳ありませんが、転移者は見つけ次第殺すようにディユから命令されているんです。」

「ディユ……!?あのアーロとかいう偉そうなやつの命令か。」

「我々平民がディユに逆らうことは許されない。それに、転移者の目撃情報を挙げるだけで報奨金がもらえ、殺せば更に上乗せだ。しかもここは辺鄙な場所だからと転移者がよく集まってくる。……絶好の狩場だよ。」

町長はアツキを殺した時のような狂気に染まった瞳でユウスケに説明した。

ヨウが追加で来た者達を転移者狩りと称していたが、これではどちらが狩人がわかったもんじゃないな。エイジはこれで既存の転移者の逃げ場をなくし、強制的に戦闘させる方針でいるんだろうが、今いる転移者共はこの程度では靡かないはずだ。

あの残虐非道なレイにとっては食糧がやってきたと喜ぶだけだし、ハルトにとっては手足となる駒が増えたと感謝しているだろう。

「ねえ、ユウスケ。これ一体どういうこと……?」

カノンが恐怖に怯えた表情でユウスケの手をより一層強く握った。

そうだ。とにかく今はカノンを安全地帯まで逃がすことが最優先事項だ。

たとえどんな手段を使おうとも──。

「今は話してる場合じゃない。俺を信じてついてきてくれ。」

連中はもう説得に応じるような心は持ち合わせていない。

ならばここを抜ける方法はただひとつ。

ユウスケは先程と同じように右眼に意識を集中させ、目の前に屯する人間どもを排除するべく力を溜めた。

誰も犠牲にしないと決めたが、カノンがいるとなれば話は別だ。天秤の皿は間違いなくカノン1人に絞られる。

もう迷っている余裕はない。

ユウスケは決心し、瞳から漆黒の衝撃波を飛ばそうとしたその時──。

「やめておけ。その手を汚すにはまだ早い。」

まるで死神の化身のような黒ずくめの格好で現れたブラストがユウスケとカノンを守るように前に立った。

ブラストは右手にガトリング型の武装 ペルマナントを展開して町の連中の足元に掃射した。

「なんで俺達を助ける!?」

「まだバトルにはお前という存在が必要だ。それに、その眼を使えばお前は二度と今のお前には戻れなくなり、ネガに体を乗っ取られる危険性が高まる。」

ブラストはユウスケを見て冷徹な目を向けながら言った。

町の雑踏は弾丸が巻き上げた砂煙によって視界を奪われ、その隙にユウスケはカノンを連れて路地裏に逃げた。

一瞬だけブラストがカノンを見て哀しそうな顔をしたのが見えたが、恐らくそれは気のせいだろう。


ユウスケは逃げた。

たとえ足が痛み痺れ、その弊害によって感覚がなくなろうとも人の気配が脳から消えるまで走った。

一緒に連れているカノンが「待って!」と放った言葉でようやく我に返ったユウスケは、立ち止まって周囲を見渡す。すると、もうサブレイクの街のような砂漠で溢れる景色ではなく、緑豊かで草原で溢れている光景が広がっていた。

その時に初めてユウスケは足の感覚がなくなっていることに気づき、息を荒らげているカノンを見て彼女を座らせた。

「すまなかった。」

「別にいいよ。それより説明して。ここ、どこ……?」

ユウスケは一瞬渋ったが、状況を進展させるために説明を開始した。

ユウスケは自身がこの世界に転移されてきた時から今までのこと、転移者同士によるバトルが行われていること、自身のせいで死ななくてもいい人が死んだことまで全てを話した。

カノンは何も言わずに聞いてくれた。たまにユウスケが苦しそうに話すのを躊躇う時があったが、無言でカノンは彼の背中を手で摩って気持ちを和らげさせた。

「……というわけだ。飲み込めないだろうが、これがこの世界の真実だよ。」

「そうなんだ。でも信じられなくはないよ。あんなに酷い目にあったばっかりだし。」

カノンはそこまで驚いてはいない様子だった。

てっきり絶望して泣き叫ぶものかと思っていたが、何年経とうともカノンの適応能力には感服する。さすが転勤の多い自分と共に引っ越してくれたり、体調を崩せば必ず家に来てくれるだけのことはあるな。

「それよりもユウスケが爆破事件に巻き込まれたって聞いて心配してたんだよ?」

「そりゃ悪かった。」

ユウスケは腰を上げてコンダクターで時間を確認した。

「どこ行くの?」

「エイジの元に行くのが最優なんだろうが、まだ何の準備もできてない。ひとまずは潜伏する予定だ。」

ユウスケはそう言ったが、カノンはそれに対してあまりいい表情はしなかった。

「やっぱり私がいちゃ足でまといだよね。」

「そんなことはない。カノンがいなかったら俺はいつまでも腐ってた。カノンが来てくれたおかげで、俺の心に余裕が生まれたんだ。」

ユウスケはカノンを慰めるのと同時に自分にも言い聞かせていた。

カノンがいることをマイナス方面に捉えてはいけないんだ。カノンがいることによって、着実にシスティやフウカが死ぬ前の自分に戻れている。

これならば自分の中のネガが目覚めることは到底ないだろう。

だが、その分カノンを危険に巻き込む可能性も高くなる。

「だからまずは隠れ家を……。」

「その必要はありません。」

背後から聞こえたその声にユウスケは、カノンを後ろに下がらせて振り返った。

一体どこから現れたのかは知らないが、銀髪のショートヘアに純白のクラシックタイプのメイド服を着ているその少女を見てユウスケは目を見開いた。

「システィ……?」

ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

アーロは序盤にて登場していたキャラクターです。

次の投稿は現在のところ未定です。

1週間以内を目標に投稿したいところですが、私生活も相まって中々執筆できずにいます。

今後ともよろしくお願い致します。

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