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Episode26 「転移者狩り」

お待たせしてしまってすみません。

2021 9/22時点の最新話です。

月夜に照らされた西部の街並みが続く街 サブレイクの街の路地裏にて、埃で汚れた茶色のトレンチコートと黒のブーツを履いた男 ユウスケが散策していた。

光がなく死んだような瞳を携え、ズボンのガンベルトに装着しているホルスターに包まれているハンドガン VP70に酷似したオルディネールと呼ばれる武器だけで治安が悪い裏道を歩いているユウスケは、表通りがヤケに騒がしいのが気になり、好奇心に駆られて物陰からチラッと顔を出して様子を伺った。

「転移者様!どうぞこちらに!」

騒動の原因は青色のマントを羽織って剣やら鎧やらを身につけている勇者然とした男だった。

街の住人から崇められ、まるでRPGの主人公のような扱いを受けている男は町長と思わしき人物に連れられて、街の東側へと向かっていった。

「また〝転移者もどき〟か。」

あの男は転移者じゃない。

この世界にいる転移者全員の顔を知っているユウスケはそう思った。

更に転移者は既に必要人数である9人全員が現界し、これ以上の転移者が現れることはありえない。

故に先程の男は最近巷で噂の〝転移者もどき〟という、圧倒的実力を持つ転移者を名乗り、各地にて高待遇を受けている連中のことだ。

かつて首都であったアンジュ付近の街では転移者は畏怖の対象として恐れられていたが、こういう辺鄙な街では転移者は世界を救う神の使いとして崇められることが多い。

(でもあいつ……。)

今までの転移者もどきは盗賊や傭兵などが金銭を稼ぐために行っていたものだったため、些細なことから戦闘になればその実力が露見され、瞬く間に偽物だとバレてしまうことが多かった。

だが、今のは見た限り実力も転移者とさほど変わりないくらいの男だった。

またバトルの仕掛け人であるエイジが新たな計画でも発案させたのか?

そんな疑問を胸に抱きつつ、ユウスケは男の正体を探るべく連中の後を追っていった。

男と町長含めた数人がこの街において最も大きいと思われる家に入り、ユウスケは彼らの話を聞くために中の様子が見える窓ガラスの側面に張り付き、耳を澄ませた。

「いきなりだが、ここの街に転移者らしき人物がいるという目撃情報を得た。何か知らないか?」

「いえ……。もしいたとしても、如何せん田舎町ですからどういった特徴をしているかなど知る由もないので……。」

「フッ……。そういうことならば、お前達が匿っているというわけでもないらしいな。」

男は腰に差していた剣を鞘ごと抜き、自分の脇に置いた。

「俺は転移者 アツキ。悪いが、しばらくここに住む。怪しいヤツがいたらすぐに声をかけてくれ。」

まずいことになった。

ユウスケは辺境の街で、尚且つ特典アイテムを外しているおかげでエイジに気づかれることなく作戦を練ることができるとタカをくくっていたが、まさか他の転移者と遭遇することになるとは思っていなかった。

更に厄介なのがこいつが顔も知らぬ転移者で、正体もまるでわからない未知数の人間だということ。

サブレイクを安住の地に定めていたが、これでは移動する羽目になる。

(今日の朝方に出発すると仮定して、深夜帯は情報を聞き出すために見張る他ないか……。)

ユウスケはコートの内側にある指輪型の特典アイテム グランディールを取り出して見つめた。

殺すのは最終手段だ。もしここで殺してしまえばいとも簡単に位置がばれ、残りの転移者から奇襲をかけられる可能性もある。

しかも1ヶ月前に他者を犠牲にせずエイジに辿り着くと決めたばかりだしな。

「宿屋はどこにある?案内してくれ。」

アツキは剣を取り、立ち上がって外に出るためのドアの取っ手に手をかけた。

だが取っ手を押す寸前に彼の背中から腹部にかけて鋤の刃が突き刺さり、そのままうつ伏せに倒れた。

「な、なに……?」

「何も知らずにノコノコやってきやがって。転移者と名乗った時点で、てめぇはもう終わりなんだよォ!!」

穏やかだった町長が急に豹変して突き刺した鋤を引き抜き、怒りをぶつけながら再度刺した。

「よせ!よしてくれ!!俺は転移者だぞ!敬われるべき存在なんだ!なのになぜ、殺されなくちゃならない……!!」

アツキは説得と命乞いを混ぜた言葉に出すも、町長の手は止まらず彼の背中を刺していき、最後は断末魔を上げながら絶命した。

「やった……!やったぞ!早くディユに連絡して、報奨金をもらえるよう手配しろ。これでしばらくは安泰だ……!」

指示を受け、町長の近くにいた人物が別の部屋に行く。

そんな光景を窓の傍で見ていたユウスケは驚愕して目を見開き、ホルスターに収納していたオルディネールを引き抜いた。

さすがに想定外だった。まるで殺気などだしていなかった人間がいきなり人を殺すなんて。

それも転移者であるはずの男を──。

「久しい顔じゃねえか。」

屋根の上から声がした。

黒色のハットを被っているスーツ姿の男がユウスケを見下ろし、ユウスケは咄嗟にオルディネールの銃口を向けた。

男は〝久しい〟と言っていたが、思い返してみるとこの男の顔には見覚えがある。確かエイジの傍にいたヨウとかいう青年だ。

「マスター・エイジから新たな〝転移者狩り〟の状況を伺うように命令されてたが、意外なヤツに会っちまったな。」

「転移者狩り……?」

聞きなれない言葉にユウスケは聞き返した。

「バトルを円滑に進めるための措置だよ。ホンモノの転移者を1人殺せば願いを叶えてやると言ってある。渡してある特典アイテムも量産型だがかなり強い。」

「じゃあ、俺やシュウのように現実世界から連れてきたっていうのか?」

「お前の生きていた時代の連中は現実に悲観している奴らが多い。リアルを捨て、異世界を追い求めるバカなロマンチストどもで溢れかえっている。そんな奴らを餌で釣り、狩人に仕立て上げてお前らを追わせる。」

否定したかったができなかった。

ユウスケの生きていた世界にはそういう諦観者が実際多かったからだ。

ほとんどの人間が人生に目的を見い出せず、未来を想像する気力さえもない。

だから自身の思い通りにいく理想郷に手を伸ばすも、叶わず無惨にも潰えていく。

「だが全員が素質のある連中じゃなくてなァ。使えねえゴミにはザコ掃除をやらせ、用済みになったら消す。」

「そうやって他者の人生を弄んでまでバトルを進めたいのか……。」

「別にいいだろ?どうせクソみたいな未来しかないんだからよォ!!」

ヨウはコンバットナイフを逆手に持ってユウスケに切りかかった。

連続で繰り出される斬撃を避けていき、間合いを見計らうために1度後ろへジャンプした。

「その身体能力と反射神経、ネガの細胞が体に残留しているみてえだな。それも適合している。」

「俺にとっては不本意だったけど、こいつのおかげで窮地を救われたこともある。皮肉なもんだ。」

「だがその悪運もここまでだ。アークには転移者を殺す権限は付与されていないが、半殺しなら許可されている。テメェを立つことができなくなるくらい痛めつけ、エイジの元へ連行してやるぜェ!!」

ナイフを片手に地面を蹴ったヨウが走り出した。

ユウスケはオルディネールを向けるが、トリガーを押すことができない。

たとえアークであろうと殺害を躊躇ってしまう体になってしまったユウスケは、気持ちを押し殺して指に力を入れた。

それでも金縛りにあっているように指が硬直して動かず、その隙にヨウはユウスケに3歩ほどで追いつくまでの距離に近づいていた。

「まだ殺られるわけには──!!」

懐にあったグランディールに手を伸ばそうとした瞬間、ユウスケとヨウの前に1本の光の柱が出現した。

その柱を見てヨウは足を止め、その場で立ち止まった。

「こんなところで転移者狩りの召喚だと……!?ありえん……!!」

ユウスケもオルディネールを握ったままその柱を見た。

ヨウの反応を見るに、こいつは転移者狩りをこちらへ呼び出すための前触れなのだろう。

何もなかった柱の中に人間のものと思われる皮膚と衣服が現界し始め、やがて赤色の髪の毛が空に現れる。

ユウスケの心臓の鼓動が跳ね上がった。何故ならその色は自分が最も大切にしている人と同じ色だったから。

偶然だと思い、光景を見続けるユウスケだったが、腰まで届くほどのロングヘアーと吸い込まれてしまうくらい綺麗な蒼色の瞳を見て鼓動は更なる高鳴りを始めた。

「どうして……?」

似ているだけの別人だと自分を納得させるが、ユウスケの気持ちを吹き飛ばす証拠が目の前にさらけ出される。

かつて自分がプレゼントした銅色の指輪。それが右手の薬指に嵌っていることを見た瞬間、ユウスケの思考は停止した。

そう。今自分の前にいるのはこの世界を生きるための希望であり、現実世界に帰りたいと思わせる唯一の存在。

星崎 カノンそのものだったからだ。

ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

カノンを登場させるかどうかは最後まで悩みましたが、ユウスケの成長と葛藤のために登場させることにしました。

次回の投稿は1週間後を目安にしてますが、もしかしたら2日ほど延期するかもしれません。

その場合は申し訳ありませんが、Twitterにて告知させて頂きます。

今後ともよろしくお願い致します。

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