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Episode25 「Reboot」

お待たしました。

ここから第2章の始まりです。

異世界。

それは万人が夢見る理想郷であり、腐れゆく情報化社会にはない安寧と愉悦のみが蔓延る異質且つ最高の世界である。

しかしそんなものは存在し得ない。なぜなら異世界とは創作によって齎された人間の心を平穏に保つための救済措置だからだ。

だが人というものはないとわかっていながらもそれを追い求め、実現したいという欲がある。

そして今、現実世界には〝異世界に行く方法〟が嘘か誠かウワサされており、10代後半から30代前半までの人間がその理想郷を求めて実行に移している。


やった。成功だ。

眼鏡をかけ、黒髪で真面目そうな顔が似合う少年が木々が芽吹く林の中にてガッツポーズをして喜んでいた。

半信半疑でウワサされていた方法を実行したところ、まさか本当に異世界に行けるなんて。少年 杉山正晴は思いがけない幸運に興奮を抑えきれずにいた。

「でもこういうのって最初は強すぎる武器とか能力なんてのを渡されるものだけど、今の俺にそういうのなによな……。」

すると空から黒と金色で構成された西洋風の刀剣が降ってきて、そのまま地面に突き刺さった。

自分の願いが届いたのかは不明だが、正晴は剣の柄を両手で持って引き抜き、その反動で腰を抜かして尻もちをついた。

「すげぇ……。本物の剣だ……。」

日光に照らされて光り輝く刀身を見つめていた正晴は、近くの茂みから音がするのを耳にする。普段なら気にしないくらいの小さな音だが、異世界にきたからには注意しなければいけない音のように感じ、震える手で剣を握って身構えた。

「おや、いましたね。」

木の影から現れたのは銀髪でショートヘアの女の子だった。

純白のクラシックタイプのメイドを着ているクールそうな顔付きの女の子は、正晴に近づき、彼の手に持っている剣を見た。

「その武器を見るに、あなたが私の待っていた〝転移者〟のようですね。」

「転移者……?」

困惑している正晴をよそに女の子は片膝をつき、敬服するように頭を下げた。

「あなた様こそ私の待ち望んでいた存在。どうぞ、この世界のために戦ってはくれませんか?」

気持ちの整理が落ち着かない正晴だが、悪い気分ではなかった。

何故ならこれが正晴を始めとした現実逃避主義者の願望の果てであるからだ。正晴はこの気を逃したら一生後悔すると思い、彼女の申し出に応じた。

「わかりました!俺でよければやりますよ!」

そう答えた正晴に対して女の子は感謝の意を述べ、立ち上がった。

「ありがとうございます。私の名はリルス。私と共に世界を救いましょう。」

木々の中を進むリルスはこちらへと誘いをかけ、正晴は後を追いかける。

林の中を抜けると馬車があり、オーバーオールに麦わら帽子で目元を隠している御者が手綱を握りながら待っていた。

「どうぞ。」

リルスに促されて正晴は荷車に乗る。

正晴はリルスとは反対側の座席に腰をかけ、御者は馬車を走らせた。

振動する室内の中から見える緑豊かな草原と雲ひとつない青空に魅せられた正晴は、異世界に来たんだと再度認識した。

「どこ行くんですか?」

「この世界を束ねる王の元です。」

「ああ、謁見みたいなもんですね。でも、もし敵とかにあったらどうすればいいんです?」

「ご安心ください。その剣があればどんな敵であろうと倒せます。たとえあなたが素人でも、剣が戦い方を教えてくれますよ。」

リルスは惚けるような笑顔を見せた。

出会って数分しか経ってない素性すら不明な少女の微笑みだったが、女性の免疫があまりない正晴にとっては思わぬご褒美であるため、思わずニヤけてしまった。

「そろそろですね。」

人気のない草原の中に佇む趣のある屋敷の前で馬車は止まった。

荷車のドアが自動的に開き、正晴は恐る恐る降りて地に足をつけた。

同じく荷車から降りたリルスの後を追い、正晴は屋敷の前まで歩を進め、腰につけている剣の柄を握りながらリルスが開けてくれた扉を潜った。

「予定より早かったね。もう少し寄り道してから来るかと思ってたけど。」

待っていたのは低身長の男だった。

白髪と白衣がトレードマークらしいその男は正晴に問いかけると、そのまま先導して屋敷の一室である応接間のようなところへと案内された。

「いきなり異世界なんかに呼ばれて驚いてるかい?でも安心してくれ。君は呼ばれるべくして呼ばれたんだ。」

男と正晴はテーブルを挟んだ両側に設置にしてあるソファに座った。

「僕はエイジ。この世界の王だ。君を呼んだのは他でもない。現在、世界に蔓延る5人の闇の戦士を倒し、世界を救ってほしいからだ。」

「俺が世界を……?」

「そう。既に君のように異世界に呼ばれ、実務に取り組んでいるものもチラホラいる。まあ、それでも正直なところ、あまり良い異世界転移者がいなくてね。困り果てていたところに偶然リルスが見つけたのが君だったというわけだ。」

テーブルの上にリルスが運んできた紅茶が置かれ、正晴はそれを一口だけ含んだ。

「リルスによればあの黒い剣を持っているんだろう?あれは認められた者の前にしか姿を現さない伝説の剣なんだ。それに加えて、君はその剣を扱うことができた。これはもう列記とした伝説の勇者の誕生だよ。」

「俺が……?」

「そうさ。だが、伝説の勇者といっても君はまだ戦い方を知らない。そこで君には近辺に生息している敵の末端兵の討伐を依頼したい。連中を練習相手に使って、来たるべき5人の戦士との戦いに備えてほしいんだ。」

不信感が残っている正晴だが、自身を肯定してくれているエイジの語りに乗せられて正晴は首を縦に振る。

それからは楽しい日々が続いた。異世界なのになぜか銃器を持つ敵を幾度と倒していき、剣の扱い方に慣れていく自分に達成感を覚えながらリルスと2人きりの生活を堪能していた。

リルスもいい女だった。万能で容姿も美しく、何より自分の言うことを必ず実行してくれるその忠誠心が気に入っていたからだ。

そんな毎日が違和感がなくなるほど過ごし、そしてリルスとある程度の関係を築けたところで正晴のリセプトに通信が入った。

「ま、正晴君かい!?今、例の敵に襲われている!!早く助けに来てくれ!」

それは焦りに焦ったエイジの声だった。

リセプトに搭載されているGPSによりエイジの場所を特定できた正晴は、リルスに声をかけて救出作戦を実行することにした。


GPSがさしていたのは古ぼけた廃城だった。

辺り一面の家屋は倒壊しており、かつて街であったことが思わされる。

それでも入口には〝アンジュ〟と刻まれたプレートが残っていたため辛うじて街の名称は判明し、このアンジュの街に正晴の倒すべき敵がいるのだと思いながら足を進めた。

「リルスはここで待っていてくれ。ここは俺1人で行くよ。」

「承知しました。」

リルスは頭を下げ、正晴はひとりでアンジュの城へと入っていった。

城の中は激しい戦闘の痕跡が残されており、正晴は生きている階段などを利用してエイジのGPSを頼りに奥へと進んでいく。

10分ほど歩いた後、大きな広間にたどり着いた。まるで教会のようなステンドグラスが飾られているその広間の奥にある祭壇の前にエイジが立っていた。

「エイジさん……?一体どういうことです?」

「ここが君の終着点だよ。もはや必要ない。」

エイジが手を掲げると、正晴の胸にはいつの間にか光り輝く刃が刺さっており、困惑の目でエイジを見つめながら倒れた。

「君は十分すぎるほど役割を果たしてくれた。まあ、雑兵の始末という単なる作業だがね。」

「お、俺の役目はまだ終わってません……!敵を……!5人の敵を倒すことじゃ……!」

「そこまでの領域に達していない人間が何を言う?最初は見込みのある人間がきたと期待していたが、やはりこの程度か。所詮はなんの才能もないただの人間が、彼らを倒せるわけがない。」

「じゃあ……!全て嘘だったっていうのか……!?」

今まで堪えていた笑みがこぼれ始め、ほくそ笑むエイジは胴体から円状に血液が広がる正晴を見下しながら言った。

「当たり前だろう?ここが異世界だから何でも思い通りになると思ったら大間違いだ。そもそも、異世界が理想郷だと思い込んでいるのは君の先入観じゃないのかい?楽に生きたいからって、自分達の都合で勝手に生み出した空想の産物の舞台を異世界に設定したんだから。ひとつ言っておくが、人間という種がある限り、そこに理想郷ができるなんてありえない。」

正晴を嘲笑うため顔を落とし、笑顔で真実を話し続けるエイジに正晴の心境は絶望から怒りに変わったいった。

残った力を全て振り絞り、剣を現形させて油断していたエイジに切りかかった。しかし突如としてワイヤー式の鋭利な紐が背後から仕掛けられ、正晴は首を絞められて再度地に這いつくばった。

「よくやった。リルス。」

「リルス……?」

広間に入ってきた入口には光に反射して煌めくワイヤーを持ったリルスがいた。

「君の成長度を見定めるための監視役としてリルスを置いていたが、正解だったようだ。同時にアークの性能実験にもなったしね。」

「マスター・エイジ。被検体012の対処は?」

「好きにして構わない。」

そう言ってエイジは背を向けた。

そんなはずはない。自分と良好な関係を築いていたリルスが裏切るわけがない。それに俺は選ばれし異世界転移者なんだ。こんなとこで死ぬわけがない。

そんなことしか考えることのできなくなった正晴は、ハンドガンを取り出して銃口を向けるリルスに対して笑った。

「死にたくない……。」

正晴の心境とは裏腹に無情にも弾丸は発砲される。

まるで人形のように冷たく、感情のない表情をしたまま──。

ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

また1週間以内の投稿を目標に執筆していこうと思います。

今後ともよろしくお願い致します。

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