Episode24 「重装魔術」
お待たせしました。
最新話です。
「さて、もう話は済んだか?」
屋根の上にいるシュウの前に現れたネガは右手に装着しているグランディールを展開した。
「本来ならば君の相手などしている暇はないんだがな。しかし、全ての転移者を潰すという目的上、君を最初に倒すことが1番効率的なんだ。」
「悪いけど、アンタに倒される気はないよ。」
「前回の戦闘を覚えてないのか?お前は俺の手によって瀕死に追い込まれ、ブラストがいなければ死は免れなかった。そこまでの惨敗を喫した癖に、まだそんなことが言えるのか?」
ネガは嘲笑うかのようにグランディールの刀身を撫でながら言った。
「先程、マスター・エイジから言伝を預かってな。転移者であるソウジの持つアンパクトの反応が消えたという内容だ。……つまり、残っている転移者は俺と君を数えて5人だけ。楽な抗争だったな。」
「アンタは本当に俺が前と同じだと思ってるわけ?」
「……なに?」
「アンタがここに来た目的は俺を殺すことだって言ってたけど、ティアラから魔力を奪うことが本当の目的なんでしょ?」
シュウは右手に意識を集中させ、左手に持っているフォンスへと魔力を流し込む。するとフォンスは青白く光り輝き、それを見たネガは撫でるのをやめた。
「それは魔力か……!?ティアラ・ハワードから受け取っていたとは……!!」
「そうだ。つまり、今ここで俺を殺せばアンタの望む力が手に入る。」
それを聞いたネガのグランディールにこもる威圧感がより一層増し、シュウ目掛けて漆黒の斬撃を放った。シュウはフォンスをブレードモードへと変形させ、今まで圧倒的な威力の前に為す術もなかった斬撃を見切り、魔力によって強化されたフォンスにて斬撃を切った。
「どうしてそこまでしてティアラの魔力を手に入れたがるの?アンタ個人の力があれば、時間はかかるけど転移者を全員倒せるでしょ。」
「フッ、今の俺にもはや転移者同士のバトルなど通過点に過ぎん。俺が見ているのはその次の段階だ。」
ネガは再びグランディールに禍々しいオーラを纏わせた。
「バトルに勝てば願いを叶えられんでしょ?それ以上のなにが望みなわけ?」
「確かに、勝利すれば全ての転移者の魂を糧として自らの願望を具現化できる。だがそれでは足りんのだ。俺の目的のためにはな……!!」
ネガは体から今まで感じたことのない圧倒的な威圧感を放ち、屋根の表面を削りながらシュウに迫ってくる。
シュウはブレードモードのフォンスを地に突き刺し、自身の目の前に青白く薄い防御幕を展開させて圧を左右へと受け流した。
「魔力か……!」
「〝重装魔術〟。俺のフォンスに魔力を編んで強化させた。これでアンタの攻撃にも対抗できる。」
「面白い。君の能力、私に見せてみろ!!」
高揚感に包まれたネガはグランディールから3連撃の斬撃を繰り出すも、2撃目までをフォンスにより相殺される。そして残りの1撃は殺さずに跳ね返し、ネガのグランディールへと直撃させた。
「き、貴様ッ……!!」
ネガは膝をつき、脂汗を浮かべながらシュウを睨んだ。
苦しそうに呻き始めるネガを見てシュウは〝ユウスケとの同調率が低下している〟と確信し、追撃を開始した。
しかし彼の前に突如として人影が現れ、シュウは咄嗟に足を止めた。
「アンタは……。」
その人物とはメイド服を赤い血で染めながらも、ユウスケを救うべく参上したシスティだった。既に腹部を貫かれて瀕死の重傷を負っているはずなのに、彼女は腕を広げてシュウの前に立ち塞がった。
「あなたがグランディールに傷をつけてくれたおかげで、ユウスケ様の意識が復活しつつあります。お願いです。私に、最後のチャンスを下さい。」
シュウはこれほどにまでボロボロになりながらも他者のために体を張るシスティを見て、剣を握る腕を下ろした。
「……いいよ。最悪、アンタごとネガを斬るだけだし。」
「失敗したらそうしてください。成功確率は50%ですから。」
笑顔を見せたシスティは振り返り、呻き続けているネガへと歩み出した。
だが、ネガも虚ろげな意識の中で目の前の標的を確認し、力を振り絞ってグランディールにオーラを纏わせた。
「今度は裏切り者か……!死に損ないは消えろォ!!」
斬撃がシスティに迫るも、手の内に隠しておいた宝石 リベルテが発光してシスティの周囲にバリアを形成させた。
「なにッ!?」
バリアによって攻撃は無効化されるも、激昂しているネガは構わずにグランディールを振り続けた。
しかしバリアはそれを粒子化させ、システィは前へと進み続ける。だがバリアも状態を維持させるためのデメリットとしてリベルテが縮小していき、ネガの元へと辿り着く頃には跡形もなく消滅していた。
「貴様、まさか……!!」
ネガの考察通り、システィが手を掲げると魔法陣のようなものがネガとシスティを囲むように出現した。
ネガは動くことができず、黒く染っていたグランディールから闇が浄化されていく。
「限界までアークの進化を遂げたあなたに別のアークを少しでもぶつければ適合率が過剰反応を起こし、そのままエネルギーに耐えきれずに消滅するはずです。」
「自分を犠牲にしてまでこの男を救うのか……!?どこにそんな価値がある!?」
苦痛に耐えながらも体勢を維持するネガはシスティに怒りと憎悪を込めて言葉をぶつけた。
「私はユウスケ様の未来を守りたいだけです。人間としての私が成しえなかったことを実現してもらうために。それに、マスター・エイジの野望を止めるためにはユウスケ様が必要ですから。」
魔法陣の効力によってネガを構成していた黒は徐々に解けていき、右眼もユウスケのものである茶色の瞳が復活してくる。
それに伴ってシスティの肉体が消失していき、ついには顔しか残らぬほどに体を溶かしていた。
「短い間でしたが、お世話になりました。」
そう呟いてシスティは完全に消滅した。
そしてネガから閃光が放出され、残留していた漆黒は跡形もなく消えた。その場に仰向けで倒れたソレはやがて懐かしき茶色の瞳を携えて目を覚ました。
シュウは体内からネガが発する禍々しいオーラが感じれないのを察知すると、フォンスを収納した。
「ねえ、アンタ……。」
「わかってる。ソウジはやられて、システィは俺のために命を張ってくれた。……俺なんかのために。」
記憶だけはハッキリと脳内に残っていたユウスケは力なく言った。
ユウスケは上体を起こすと、指に嵌めていたグランディールを外してコートの内側にしまった。
「なんのつもり?」
「これを付けてると死ななくてもいいやつが死ぬ。だからなるべく使わない。」
「わかってんの?あのメイドはアンタが転移者同士のバトルで勝ち残って、未来を掴んでほしいから命を託したんだ。それなのに、アンタは戦いを拒否するの?」
真面目にそう答えたシュウにユウスケは思わず笑った。
「俺と出会った時とはえらい違いじゃないか。それに君はわかっていない。たとえ最後まで生き残ったとしても、待っているのは理想とは異なる結果だ。エイジはまだ何かを隠している。」
「そんなのは知ってる。でも、それを理由に戦いから背を向けるのは……!」
「卑怯だと言いたいんだろう?それでもいい。俺はバトルとは違った形でエイジを追い、現実世界に帰る。どんな手段を使おうとも。」
既にユウスケの中にはシュウが爆弾事件で会った頃の甘さは消え、逆に闇に生きる氷のように冷たい気質を感じた。
しかしそれでもユウスケをたらしめる優しさだけは残っているように思え、シュウは振り返ってティアラ達を追うべく足を動かした。
ここまで読んで下さり、ありがとうございます。
これにて第1章が終了です。
次回の投稿は1週間以内には行いたいと思っております。
今後ともよろしくお願い致します。




