Episode23 「共に生きる」
遅くなってしまい申し訳ありません。
続きです!
「俺を追っていただと?お前ごときがか?」
通常の人間ならば即死は免れない傷でも平然と立ち、口をきくネガはシュウを捨ててブラストに目を向けた。
「俺の特典アイテム 〝ジェノサイド〟の副武装である自律型偵察機〝センチネル〟によって、貴様らの行動は全て読んでいた。」
そう言うと、今まで口を閉じていたエイジが前に出てきた。
「ブラスト。君が来ることは想定内ではあったが、なぜこの男を助けた?」
「なぜそう解釈する?俺がいつ救出に来たと言った?」
「言わなくてもわかるさ。どうせ君は道中にティアラ・ハワードに会って、助けを懇願されたんだろう。でなければ君がわざわざ戦線に出てくることなんてないからね。」
ブラストは眉をピクッと動かし、左腕に高熱を帯びた剣〝ショーブル〟を展開してエイジに向けた。
「ひとつ言っておく。俺はこの男を助けるのは決して情けではない。今、ここで死なれては俺の計画に支障が起きるが故の致し方ない行動だ。」
「それ、僕を倒すっていう計画だろ?君は完璧に溶け込んでいたつもりだったろうが、僕には全てお見通しさ。君がわざと転移者となり、アークによる世界の独裁を阻止するために動いていたことなんてね。」
クスクスと笑うエイジはふと茂みの中を見ると、倒れていたシスティがいなくなっていることに気づいた。
「ああ、なるほど。そういうことか。ネガと殺り合うにしては殺意があまり感じられないとは思っていたが、君の狙いはシスティとシュウを連れてここから逃げることだね?」
「今更遅い。」
瀕死のシュウを担いでブラストはフラッシュグレネードのピンを抜く。
ネガは阻止するべく地を蹴るが、落下速度には敵わず、眩いほどの閃光が辺りを包んで、晴れた時にはブラストとシュウの姿は消えていた。
「僕としたことが判断を見誤ったか。だが、シュウは復活の兆しはあるものの、システィは既に手遅れだ。」
声が聞こえてくる。
だが内容は聞き取れず、音としてしか認識できない。
体も横たわっていることは理解できたが、まるで体が鋼でできているかのように重く、四肢を動かすことは不可能だった。
それでも瞼の自由は効くようになり、彼はゆっくりと目を開けた。
「どうやら気がついたようだな。」
目を覚ましたことに気がついた様子のチェスターは、朧げながらも音を言葉として捉えられるようになってきたシュウに言った。
「……どこ?」
まだ端的でしか話すことのできないシュウは、瞳を動かしながら周囲を確認した。
「グロウの隠れ家だ。記憶にないだろうが、お前はあのネガとかいう転移者に敗れ、間一髪で駆けつけた転移者 ブラストに窮地を救われここにいる。」
シュウはそれに対し、驚きと悔しさを兼ね備えた苦悶の表情を浮かべた。
「しかしお前を治療するのは困難だったぞ。グロウの医療チームでも手の施しようがなく、諦めかけていたところに姫様が現れてな。姫様は体に秘めていた魔力を放出し、お前とシスティを治したのだが……。」
チェスターはシュウから目を逸らし、グロウの兵士が2人ほど扉の脇に立っている部屋を見つめた。
「システィだけは、もはや数時間の命らしい。たとえアークの治癒能力をもってしても、あれだけの致命傷を回復させることは姫様の魔力でも不可能だと言っていた。」
「それ、たぶん俺のせいだよ。あの時、俺が応急処置を行っていれば、幾分か生存確率は上がったんじゃないかな。」
「だがお前はネガと戦っていたんだろう。お前がシスティに気を取られていたら、お前諸共システィは殺されていた。つまり、この結果は覆せぬ必然的なものだったということだ。」
ぶっきらぼうながらもフォローをするチェスターは、ハンガーにかけてあったシュウの軍服をとって彼に投げた。
「姫様が奥のテラスで待っている。動けるなら行ってこい。」
完全とはいえないが、基本的な身体活動に影響はないほどにまで回復していたシュウは上着を羽織ってベッドを下りる。更には体が復活してきた証拠なのかはわからないが、シュウの脳内に特典アイテムであるシヴァがベッド下のライフルケースに収納されていることが伝わってきた。
まだ重いシヴァを持てるだけの体力を有していないシュウは、護身用に机の上にあったフォンスを携帯し、ティアラの待つテラスへと歩を進めた。
「それとブラストが言っていたが、いずれこの隠れ家は連中に感知される可能性が高いらしい。必要な物資を次の拠点へと運ばせているが、お前が姫様との話が済んだら、システィを連れて移動する。」
「なら動きながら話すよ。」
「俺もそうしたいが、この場で対話を望んだのは誰でもない姫様本人でな。2人きりでしか話せぬ用との言伝だ。」
シュウはそれを受けてコンダクターを見た。
あれから7時間は経過しているのを確認したシュウは、エイジが特典アイテムに信号を埋め込んでいることを思い出した。恐らくそれを見越して〝シヴァ〟はブラストが保管し、療養と逃走の時間を作っているに違いない。
そう推察しながらシュウはテラスに到着した。
「来てくれて感謝します。シュウ様。」
純白のドレスに身を包んだ銀髪ロングヘアーの少女 ティアラはいつになく真面目な顔で言った。
「俺に用らしいけど、その前に言っとくよ。……助けてくれて、ありがとう。」
少し照れくさそうに顔を背けて言うシュウにティアラは微笑み、その似合わなかった表情が崩れた。
「笑うなよ……。」
「ごめんなさい。でも、シュウ様に御礼を言われる日が来るとは思いませんでしたので……。」
ティアラは再度、顔を戻してシュウに手を差し伸べた。
「私の手を握って下さい。」
シュウはなんの戸惑いもなくティアラの白く柔らかい手を握った。
「これからあなたに、私の魔力を譲渡します。」
ティアラの全身が光り輝いた後に腕を伝って指先に光が集約されていくが、その光景と突然の宣告にシュウは思わず手を緩めてしまった。
しかしティアラはもう片方の手でシュウの手を掴んだ。
「申し訳ございません。ですが、こうするしかシュウ様があの者達に勝つ方法はないのです。」
ティアラから発せられる光が弱まっていき、逆にシュウの体が光で満たされていく。
「これが成功すればシュウ様の戦闘能力は格段に向上し、必ずや倒すことができるでしょう。」
一切の躊躇いのないティアラにシュウは涙を流した。
こんな醜くてただの戦闘兵器でしかない自分に世界で唯一の魔力を渡し、更には精神を押しつぶされぬように慈愛の目でこちらを見てくるティアラに対して感情が溢れてくる。
「俺は……!!」
ティアラは片方の手で目を覆うシュウの体を優しく抱擁し、胸の中で呟いた。
「大丈夫。今はあなたの精神と直接繋がっている状態ですから、言わなくてもわかるんです。……私がどうしてシュウ様のことを好きになったのかと言うと、あなたが本当に優しい人だから。」
シュウもティアラの背中に手を回して肌を撫でた。
「乱暴で不器用な人だけど、本当は優しい心を誰よりも持っている。でも誰もその優しさに気づけず、距離を置いて、あなたを冷酷で血も涙もない傭兵として扱ってしまう。だからその心を隠してしまったんですよね。あの時からずっと……。」
そのティアラの言葉を聞いて脳裏に浮かぶのは、かつて同じ時を過ごした仲間達の姿であった。
「ですから、これからは私が代わりになれるように頑張ります。あなたにとっての理解者になって、永遠の時を過ごすために……。」
シュウは体に魔力が蓄積されたのを感じ、ティアラから離れ、顔を伏せながら振り返った。
「俺もずっと一緒にいたいから、そのために戦う。もう私怨じゃなく、アンタを守るために銃と剣を取る。」
言いながら振り返り、涙の乾いた瞳を見せたシュウは長年見せたことのなかった微笑みを浮かべる。それに安心したかのようにティアラも笑い、城内に戻ろうとするが、シュウは城の近くにある森に目を向けた。
突然シュウはシスティを担いで屋根の上に登ると、先程まであったテラスが漆黒の斬撃によって破壊された。
「シュウ!何事だ!?」
コンダクターから聞こえてくるチェスターの声にシュウは返答した。
「ネガが来た。早くシスティを連れて逃げて。」
「お前はどうする!?」
「ヤツと決着をつける。」
通信を切ると、チェスターの部下が担架にシスティを乗せて正門から出ていくのが見えた。
「私も共にいたいですが、それでは邪魔になりますね。」
「ごめん。……でも必ず帰るから。約束する。」
彼なりの優しい口調で言うと、返ってきたのは頬への口付けだった。
シュウは照れながらティアラを屋根下に下ろし、チェスターに回収させ、ネガがいる方向へと歩き出した。
「これは……。」
しばらくすると絶望や不安といった負の感情を全て消し飛ばす暖かさに包まれ、シュウの心を安定させた。恐らくはシスティは予め残しておいた最後の魔力を使って発動させた加護の魔術だろうと推測し、フォンスをホルスターから抜いた。
ここまで読んで下さり、ありがとうございます!!
ちなみにブラストはシュウを届けた後、別行動をとっており、長らく出ていないレイやカイトもネガの脅威を感じて様子を見ています。
これからも読んで頂ければ嬉しいです!
応援よろしくお願いします!!




