Episode21 「最後の転移者」
遅くなってしまいすみません!
続きです!
「あなたを追ってきました。」
「フッ……。」
ユウスケは素っ気ないシスティの言葉に思わず失笑した。
「それはエイジの命令か?それとも、お前自身の意思なのか?」
「アークとしての使命からです。」
ヴィユーを向けていたシスティは憂うような顔をして、ユウスケから銃口を背けた。
「ですが、できることならば逃げてください。その代わりとしてグランディールをもらいます。あなたを殺したという証拠のために。」
「なんのつもりだ……?」
「私はヨウやイユといった普通のアークとは違います。人のDNAとアークを掛け合わせて造られた、いわばクローンのような存在です。だから、システィとしての部分があなたを殺すことを躊躇っているのかもしれません。」
苦悩しながらもシスティは叫んだ。
「早く!勘づかれる前に……!!」
しかしその願いは届かず、システィの脇に銃弾が撃ち込まれた。
「システィ!!」
ユウスケはシスティに駆け寄ろうとするも、彼の後頭部に銃口が押し付けられる。
「何の連絡もないから来てみれば、このザマだ。やはり君は欠陥品だったようだね。」
どこからともなく現れたエイジはシスティを嘲笑した。
「ユウスケ君。ひとつ教えておいてあげよう。先程、ディユにてソウジの特典アイテムの反応が消えた。意味はわかるだろう?」
「死んだってことか……!?」
「そうさ。これで残る転移者は6人。最後の1人を入れてね。」
エイジはユウスケに目を向けると、胸に強烈な苦しみを感じ、地面にうずくまって動けなくなった。
「君も気づいているだろ?未だに出てこない最後の転移者は君の中にいるとね。」
「俺を……蝕んでいるのか……!!それでも……!!」
「もう不可能だ。ここまで侵食されれば抵抗など無意味さ。……だが、その前にひとつ聞ききたいことがある。なぜ君は現実世界に戻りたいと願うんだ?」
ユウスケを見下げながらエイジは言った。
不平等で不完全で負の感情が羅列する世界など邪魔なだけだ。そうは思わないか?」
「確かにそうだ……。既に手遅れなほどに現代社会は腐っている。けど、そんな中でも俺を必要としてくれるヤツはいる……!あの時のフウカのように、俺がいればまだ救うことのできる命があるんだ……!!だから、そんな人々のために、俺はあの世界で生きてみたい……!!」
ユウスケは腕に力を入れて立ち上がろうとするも、やはり体を起こすことはできない。
「もったいないな……。君ほどの器があれば、世界を掌握するなど容易いことなのに。やはり君を手に入れるには、この方法しかないか……。」
エイジの掲げた手によって苦痛が増大する中、ユウスケは苦し紛れに笑みを浮かべた。
「なぜ笑う?気でも狂ったか?」
「いや、ようやく俺の思い通りになりそうだと思ってな。お前が俺に注視してくれて本当によかったよ。」
その言葉を受けてエイジはシスティが倒れていた場所へと目を向ける。
血痕は残っているが既に姿はなく、ユウスケはそれに対して安堵の表情を見せた。
「これが目的か?自らを犠牲にして、あんな失敗作を逃がすだなんてつくづく君という存在は理解できないな……!!」
エイジはユウスケの腹部を踏みつけ、抉るように踵を押し付けた。
システィは体を這って移動していた。
9mmパラベラム弾によって撃ち抜かた傷跡による痛みに耐えながら、その身を削って体を動かしていた。
(誰か……!ユウスケ様が……!!)
しかし視界は出血による意識低下のせいで霞んでいき、思うように動けない。
「見つけましたよ。裏切り者のシスティ。」
背後から声がし、振り向くと青髪の少女 イユがいた。
「まさかマスターに反感を覚えるアークがいるなんて考えもしませんでした。あのような偉大な方を崇拝できないとは、あなたにもはや生きている価値はないですね。」
紫色の大きな鎌を出したイユは、両手で柄を持って振りかざした。
「死んでください。」
鎌はシスティの顔めがけて振り下ろされるが、その巨大な刃は.308ウィンチェスターの弾丸によって弾き飛ばされる。
その隙を逃すものかと2発目の弾がイユの右胸に直撃し、その場に倒れた。
「おい!負傷者を運べ!!」
赤と黒のコントラストで構成された軍服を着ている茶髪の男 チェスターが隊員2名を指揮してシスティの肩を持つ。
システィの止血をしていると、DSR-1に酷似したスナイパーライフル 〝シヴァ〟を背負いながらシュウが姿を現した。
「あなたは……!!」
「アンタ確か、ユウスケと一緒にいたメイド……?」
システィは無理に体を起こして、シュウに対して言った。
「お願いです!ユウスケ様を助けてください!」
「やっぱりワケありなんだ。このアークに追われてたから助けたけど、アンタにもなんかあるの?」
シュウの鋭い眼光に嘘はつけないと感じ取ったシスティは、素直に事の顛末を話した。
自身がアークであること。
ユウスケがフウカを殺したこと。
そしてエイジの策略でユウスケは〝最後の転移者〟によって、破滅へと追いやられていることを口にした。
「ユウスケ……。あの殺人鬼と戦った時に居合わせた転移者か。従来の転移者とは闘争心のない男だったが、まさかエイジの手中にいるとは……。」
チェスターが状況を整理しようとしている中、シュウは間髪入れずに質問した。
「じゃあさ。その〝最後の転移者〟があいつの中で目覚めたらどうなるの?」
「……ユウスケ様の意識はなくなり、全ての転移者を倒すためなら誰であろうとも殺害する存在へと化します。」
「それはちょっと困るな……。」
マガジンを取り出し、シヴァの残弾数を確認するシュウはそう呟いた。
「でも疑問があるな。アンタ、アークなんだろ?信用しないわけじゃないけど、どうしてそこまでアイツに仕えるの?意味なんてなくない?」
「確かに、当初はベイカー様の言いつけとエイジの命令で動いていました。しかし、今は違います。彼に〝カノン〟という大切な人が現実世界にいると聞き、私はこの人を現実世界へ帰さねばならないと思いました。」
アークの超人的な治癒能力によってシスティの傷は治っていき、支えなしで立てるようになった。
「私の元となったシスティという人物は、過去に将来を誓い合った幼馴染がいました。ですが、親の転勤でその地を離れ、更には父親の経営不振によって家族は離散し、システィは路頭を彷徨うこととなりました。そして、それを拾ったのがベイカー・ルースター様だったんです。」
「つまりアンタは、過去の自分と同じ思いをして欲しくないから、あいつを助けたいってこと?」
シュウがシヴァを背負い、立ち上がってそう言った。
「そうかもしれません。ですから頼みます……!!ユウスケ様を助けられるのは、同じ転移者であるあなただけなんです……!!」
懇願するシスティに対して、チェスターも「助けてやれ」とフォローした。
「……わかった。やる。でもひとつ条件がある。もしも助けられない状況とかだったら、殺すつもりで戦うけどそれでもいい?」
シュウはシスティに問うと、葛藤した末に回答を出した。
「そうなった場合は私が……。」
フウカの屋敷前にて、ユウスケはいつの間にか右手に装着されていた指輪型特典アイテム グランディールから放たれる闇に包まれていた。
「君に渡したそのグランディールには特殊な細工をしていてね。僕の作った最高傑作であるアークを1体だけ粒子化させて入れておいたんだ。その証拠に、君がそれをつけた時、体に異常を感じただろう?」
ユウスケはエイジの言葉を聞いた瞬間、記憶がフラッシュバックしてこの世界に来たばかりの時を思い出していた。
ブラストとの戦闘時に初めてグランディールを填めた時に全身を駆け巡ったあの激痛は、自身の体にそのアークが入り込んでいたからだったんだとユウスケは思った。
「それから君は〝誰かを倒したい〟と願った時だけ、力を解放させて捩じ伏せてきたはずだ。だが君の役目はこれで終わりだ。今から君の体は最後の転移者 〝ネガ〟によって支配され、全てを破壊する存在と成り果てるんだからね。」
ユウスケの半身が闇によって侵食されていき、右眼が茶色から塗り潰された黒へと変貌する。思考回路さえも喪失し始め、やがてユウスケは意識を保っていることしかできなくなっていた。
ネガの誕生を確信して鼻で笑うエイジだったが、そんな彼の頬を対物ライフルの弾丸が掠めた。
「ほお……。これは意外だ。」
エイジに弾を命中させたことでユウスケのネガへの変貌が止まり、エイジは少し驚いたかのように笑った。
「アンタの顔面吹き飛ばそうとしたけど、なんかの補正かかってんだね。照準がズレたよ。」
弾丸の主であったシュウは岩上にスタンドを立てかけて設置していたシヴァをそのまま放置し、フォンスのみを携帯したままエイジの前に現れた。
「前にも言っただろう。何者であろうが僕を傷つけることはできないとね。……だが、これは逆に都合がいい。完全とは言えないものの、支配に成功したネガの実力を図るための絶好の機会だ。」
既にユウスケとは思えないオーラを纏っている〝それ〟は、黒く染まったグランディールから刀身を伸ばして斬撃を放つ。だが、シュウは瞬時にフォンスをブレードモードへと展開させ、斬撃を切った。
「さあ、まずは彼を殺せ。君の力を思い知らせるんだ。ネガ。」
ここまで読んで下さり、ありがとうございます!!
これからももしかしたら私情で遅れることがあるかもしれないので、最新投稿から1週間ほど経過してしまったらTwitter等で言います!
これからもどうぞよろしくお願いします!!




