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Episode20 「凪」

ようやく20話までいきました!

「マスターはこちらにいらっしゃいます。」

青髪の少女 イユは鮮血に塗れている死体を踏みつけながら目的の部屋へと歩き続けた。

「俺の記憶が正しければ、君はあの白い空間で僕とシュウに語りかけてきた声の主だろ?」

「ああ~。あれ、マスターが作成したAI音声なんです。でも私の声を基盤としてますから、半分は正解ですかね。」

イユは微笑みながら言うと、床に落ちていたハンドガンを拾い上げて振り返った。

「しかし意外だったでしょう?異世界だというのに、銃や電子機器が発達しているだなんて。」

「そうでもない。景観や建物の構造とかは、よくある異世界ファンタジーのテンプレそのものだからな。それにそのマスターって人が近代兵器を作っているなら、多少の納得はいくよ。」

ユウスケは右手につけている指輪 グランディールをイユに見せつけた。

「この〝特典アイテム〟だってウォードやブラストのものは規格外だった。これほどのものを作り出せるなんて、君たちは本当に人間か……?」

「フフッ、人間ですよ。まあ、純粋で不完全な人間ではなく、人造され完璧な人間ですけどね。」

右手に持っているハンドガンの銃口を自身の左手に押し付け、なんの躊躇なくトリガーを引いた。

「なっ!?」

「これは一例です。普通の人間ならば致命傷にもなりうるでしょう。しかし、私たちにとっては……。」

流血していた左手の傷口は、まるで早送りしているように瞬時に修復された。イユはなにもなかったようにハンドガンを捨てて歩き始めた。

「人間の持つ自然治癒の能力を極限にまで高めた結果です。このように、私たちは人間の能力を究極にまで進化させており、多少の傷では致死には至りません。」

「……これ警告なのか?これほどの戦闘力を保持しているから、お前らは逆らわずに大人しく戦い続けろと。」

イユは一瞬笑い、辿り着いた扉に手を触れた。

「あなたの望む答えは全てマスター・エイジが答えてくれるでしょう。私の役目はここまで。では、あとはごゆっくり……。」

イユは黒い煙となって消え、ユウスケは扉のノブに手をかけてそのまま開けた。

「どうも、はじめまして。ユウスケ君。」

部屋は洋風の重厚感ある造りで、茶色のクローゼットや机が置かれていた。

エイジと思われる白髪の男がその机の椅子に座り、ユウスケの全てを見透かしているような瞳で見ていた。

「君がエイジか?このバトルを統率している人物だと?」

あまりに拍子抜けだとユウスケは思った。

こんな戦いを仕掛けたやつなのだから、覇気のあってガタイのいい大男だとばかり思い込んでいたが、まさか背の低い人柄の良さそうな人だとはとても考えられなかった。

「疑っているのかい?」

「いや、信じることにする。」

「ならよかった。この部屋の持ち主を殺し、グロウを壊滅させた甲斐があったというものだ。」

エイジは机に立てかけてあったプレートを指で摘んだ。

プレートには〝エレン〟と刻まれており、恐らくエイジの言う机の持ち主なのだと推察できる。

「エイジ。なぜ君はグロウを壊滅し、アンジュを死の街と変貌させた?俺やシュウを誘き寄せるためだけじゃないはずだ。」

「深い意味はないよ。単にいらなくなったから処分しただけ。アンジュも今の段階では不必要な存在だからね。」

「罪のない人々を殺す理由になってないぞ……!」

多少強気にでるユウスケを見て、エイジは不敵に笑う。

「今、僕の周りには誰もいないから高圧的になっているのかな?でもね。これから君の味方はいなくなるんだよ?」

「何言ってるんだ……。俺にはシスティやフウカがいる!」

そう言うと、後ろにいたシスティが携帯していたスプリングフィールド M1903に酷似した〝ヴィユー〟をユウスケに向けた。

「システィ……!?」

「ユウスケ君、君はいい駒だったよ。システィの存在になんの疑問を持たずにいてくれたからね。おかげで全て上手くいった。」

トリガーに指をかけるシスティは無言で銃口をユウスケの後頭部に押し付けた。

「システィとイユは僕が造った人工生命体〝アーク〟だ。各転移者の近くに置き、動向を見張らせていたが、1番都合よく動いてくれたのは君だったよ。」

「なら噛み合わない点がある……!ルースター家の前当主 ベイカーさんとシスティは旧知の仲だった。俺はそんな昔からお前がこの世界にいたとは思えない。それはどう説明するつもりだ?」

「そんなの簡単だよ。本物のシスティを消して、システィを模造したアークと入れ替えさせただけさ。」

平気でそんなことを言ってのけるエイジにユウスケは言葉を詰まらせた。

「この世界はもはや僕のものだ。どう扱おうが僕の勝手だよ。それに、アークの模倣する性格や癖は本物と同じだからバレはしない。ましてや一般市民なんかにね。」

「本気で思っているのか……!?」

「現にそうだろう?……それでは、本題に入るとしようか。」

エイジが言うと、部屋の一角に姿は見えないが何者かの気配が出現した。

確実に人だと断言できるほどハッキリしているその気配は、ユウスケの方へとゆっくりと歩を進めていた。

「さようなら、ユウスケ君。」

ユウスケの眼前にまで歩み寄ってきた瞬間、何処からか飛んできた2本のダガーが小さな竜巻を起こし、それに乗じてフウカがユウスケを担いで逃げ去った。

システィは姿を消し、入れ替わりとしてイユが現れた。

「よろしかったのですか?」

「どこへ逃げようとも、特典アイテムを持っている限り追跡は可能だ。ヨウを回収して、ここから退散するとしよう。」


ユウスケはフウカと共にアンジュから遠ざかり、クラークの屋敷があるオーヴィルまで来ていた。

屋敷の庭に着陸したフウカは2本のダガー 〝ヴァン〟を不可視状態にし、ユウスケに話しかけた。

「危なかったわね。」

「助かった。……そういえばソウジはどこに?」

「現状ヤバいのに人の心配?まあいいわ。ソウジはディユに向かった。このバトルとディユが密接に関わっていると推察して、情報を集めに行ってるの。」

フウカが周囲を確認しながら屋内に入り、ユウスケもそれに続いた。

「結果から言うと、アンジュを占領したのはバトルの統率者 エイジだ。しかもアークっていう強力な人工生命体を作り、更にはシスティがそのアークのひとりだった。」

ソファチェアに座りながら聞いていたフウカは困惑した声で言った。

「ちょ、ちょっと待って!つまりシスティは敵ってこと!?」

「わからない。ただ、エイジが言うにはシスティは既に殺され、今のシスティはアークがコピーした存在だと言っていた。」

ユウスケが説明すると数分間沈黙し、フウカは再び口を開いた。

「……大体わかったわ。けど、あなたにシスティと戦えるだけの覚悟はあるの?」

「いや、システィとは戦わない。俺はシスティはエイジに操られていると思ってる。だからエイジを倒せば、システィを解放することができるはずだ。俺はそう信じたい。」

真剣な眼差しで宣言するユウスケにフウカは自然と口角が上がった。

「な、なんで笑うんだよ……?」

「今どき珍しいのよ。そんな正義感持ってる人なんて。」

「そうか?俺の周りには普通にいたけど。」

ユウスケは何気なく返答するも、フウカはその答えに対して顔を俯かせた。

「私、ここでクラーク家の当主なんてやってるけど、現実世界でも本当に財閥の令嬢なの。だから周りにいる人もきっちりしてて、根拠のない行動なんてしない人達ばっかりだった。」

「それで俺が珍しいってことか。だとしたら少し疑問が残るな。そこまでのやつがどうして死んだりしたんだ?」

不躾な質問だとは思ったが、ユウスケはどうしても聞いてみたかった。

しかしフウカは拒絶することなく、素直に質問に乗じた。

「つまらなすぎたのよ。私は普通の女の子みたいに友達と話すこともできないし、自由に出掛けることすら許されない。なのに全てを求められ、もう耐えることができなくなって自殺しちゃったってわけ。情けない話でしょ?」

「そんなことはない。あの社会では誰もがストレスを感じ、どこか遠い理想郷へと旅立つことを願っている。」

「あら、ソウジと同じことを言うじゃない。……もしもあなたかソウジと現実世界で会えたなら、結果は変わっていたかもしれないわね。ほんと後悔してるわ。」

落ち込むフウカにユウスケは何かを閃いて言った。

「なら俺と一緒に帰らないか?エイジの全てを暴けば、絶対に現実に帰れる道筋が見えてくるはずだ。ソウジが情報収集をしてくれているなら、それを待って3人で帰るんだ。」

3人で帰るという言葉を聞いてフウカの心境にモヤがかかるも、ユウスケのために表情を変えずに話し続けた。

「システィやルースターはどうするの?」

「エイジを倒せばシスティだって戻ってくる。そうしたらシスティも連れて、現実世界でルースター家を復興させればいい。なにもこの世界に拘る必要はないしな。」

ユウスケは希望溢れる声で話すも、途中で軽い目眩に襲われて何度も目を瞬きさせた。

「随分と自信あるじゃない。そういえば聞いてなかったけど、そこまでして帰りたい理由ってなに?」

「あっちで待たせてるやつがいるんだ。もう2年も会ってないけど、俺がここに来る羽目になった爆弾事件さえなかったら、今頃会えていたかもしれないのに。」

「じゃあルースター家を復興させる余裕なんて本当はないじゃないの。たとえベイカーがあなたの命の恩人だとしても、お人好しが過ぎない?」

フウカとの会話を継続させるためにユウスケは思考を無理矢理回転させるが、眠気のようなものが脳を遮って上手く動作しない。

「ベイカーさんは命をかけてまで俺を助けてくれた。それだけで理由は十分にある。それに、これは誰かを目の前で失うなんてもう見たくなかったのに、みすみす見殺しにしてしまった俺への懲罰でもあるんだ。」

ユウスケは一瞬だけ意識が飛び、その隙に何者かに自分の精神を乗っ取られたような気がした。

すると何故か自分の意識とは裏腹に手が動き始め、それと同時にフウカは背を向けて立ち上がった。

「正直なことを言うと、帰りたいなんて思ってもみなかったけど、今までの話を聞いてあなたと一緒なら帰ってみたいって思えてきた。だから……。」

想いを告げようとするも、フウカは背部に激痛を感じて血を吐いた。

背中にはその心を壊すかのようにグランディールの刃が突き刺さっており、ユウスケであるはずの存在は彼女から剣を抜いた。

「ユウ……スケ……?」

トドメを刺すために成長したグランディールがフウカに迫るも、フリーズしたように停止してユウスケは意識を取り戻した。

ユウスケはすぐに指につけていたグランディールを外して放り投げ、血に塗れているフウカに駆け寄った。

「フウカ……!!」

「よかった。やっぱりアレはあなたじゃなかったのね……。」

フウカは掠れゆく声を絞り出して言った。

血で染まっている自分の手を見て息を荒らげるユウスケを宥めるように、フウカは彼を抱擁した。

「自分を責めないで……。私を傷つけたのはあなたじゃないから……。それと、コレを……。」

フウカが渡したのは腕時計のような形をした装置だった。

「このコンダクターにソウジから連絡が入るはず……。受け取って……。」

持ちうる気力全てを使ってユウスケにコンダクターを渡した。

閉じていく瞼で自身の終わりを感じ取ったフウカは、最後にユウスケの耳元で囁いた。

「絶対に、生き残って……。願いを、叶えて……。」

項垂れて命が失われたフウカの体を見て、ユウスケは叫びたい気持ちを抑えた。ここで叫んでしまえば、フウカを傷つけた存在に負けてしまうような気がしたからだ。

ユウスケは屋敷の外に人の気配を感じ、おぼつかない足取りでグランディールを拾わず外に出た。

「なんだ……。お前か……。」

庭の先には自身を探していたらしいシスティがヴィユーを両手に持って立っており、自身を慈しむような目で見ていた。

ここまで読んで下さり、ありがとうございます!!

当初はフウカは終盤までいる予定でしたが、様々な都合により20話にて退場となりました。

ユウスケを蝕んでいる謎の存在は一体なんなのか。ここからストーリーは加速していきます。

これからもどうぞよろしくお願いします!!^^

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