Episode18 「王都崩壊」
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時は少々遡り、ツバキの死とアンジュの炎上が発生する約1時間前──。
「どうかしたかな?エレン隊長?」
エレンに呼ばれ、グロウの隊長室まで足を運んだエイジは、白衣のポケットに手を入れて、部屋に設置してある薄茶色のロングソファに腰を下ろした。
「今更、畏まらなくてもいい。……君なんだろう?転移者同士のバトルを仕組んだ張本人は。」
エレンから告げられた話によって、エイジの目が険しくなり、同時に不敵な笑みを一瞬浮かべた。
「どうしてそんなことを聞くんだい?グロウである君には関係のないことだろ?」
「確かにその通りだ……。」
エレンの表情が引き締まり、隊服の内側からUSP45に酷似した黒のハンドガン〝ルドゥー〟を引き抜いて、エイジに銃口を向けた。
「けどね。転移者のせいで俺やチェスターの部下は死んでいる。つまり、部下が死んだのは君のせいでもある……!」
トリガーに指をかけているエレンに対して、エイジは薄ら笑いを浮かべてソファから立ち上がった。
「それは思い違いだよ。僕はただ力を与えてあげただけ。転移者達が何をしようが、僕には一切関係のないことだ。だから、僕に当たるのは思い違いだってことさ。」
エレンの肩を叩いて、デスクの椅子に座るエイジは、エレンの向ける銃口に怯むどころか、彼に対して嘲笑してみせた。
「フッ……。それに君なんかが僕を撃てるはずがない。君は、とても優しいグロウの隊長さんだからね。」
「……どうかな。」
ルドゥーの銃口から弾丸が発射され、エイジの右腕を貫通した。唖然として撃たれた自身の腕を見つめているエイジだが、痛がる素振りは見せずに驚いた。
「へぇー。まさか撃つとはね。けど、何度撃とうが僕には通用しない。」
白衣の内側からリモコンを取り出して、赤色のボタンを押した。すると、エイジの体は薄くなっていき、全身にノイズが走っていく。
「今の僕はここにはいない。それより、銃弾を発射したのにどうして君の部下は駆けつけに来ないのかな?」
エレンは耳を澄ましてみると、部屋の外で微かにだが悲鳴や銃声が聞こえてくるのに気づいた。そして次の瞬間、隊長室の扉が勢いよく開かれて、頭から血を流している角刈り頭の隊員 モルガンが入ってきた。
「エ……!エレン隊長……!!」
「モルガン!一体なにが……!?」
既にダメージの限界を迎えているモルガンにエレンは近づく。
「俺以外の隊員は一人残らず全滅してしまいました……!隊長、気をつけて下さい……!俺達を嵌めたのは……!!」
言い終える前にモルガンの背中に散弾が炸裂し、うつ伏せでモルガンは床へと倒れた。
「これで最後かな。まったく、逃げるなんて面倒なことしてくれちゃってさぁ。」
モルガンの背後にいたのはレミントン M1892のソードオフをモチーフとした黄土色の木製ショットガン 〝コンバー〟を片手で構えているヨウだった。ヨウは銃口をモルガンからエレンに向け、エレンの正面まで歩こうとする。
「ま……待て……!」
しかし、まだ辛うじて意識のあったモルガンは、ヨウの右足を掴んで行動を阻止しようとした。這う力すら残っていないと思われたモルガンの握力は強く、ヨウはその場から動けずにいた。
「ウザイんだよ……!!」
左足の踵でモルガンの手首を踏みつけ、コンバーの銃口をモルガンの脳天に押し当てる。
「やめろ!……ヨウ。僕の許可なしに、彼らを殺すことは許さないよ。」
「すみませんでした……。マスター。」
ヨウは銃口を脳天から外し、モルガンの横腹を左足で蹴り飛ばした。掴まれていた手は解かれ、モルガンは部屋の隅まで転がっていった。
「ヨウ……!君は……!!」
「エレン隊長。とりあえずその銃を置いてくれますかねェ。」
コンバーの銃口をエレンの顔面に向けているヨウは、エレンにルドゥーを捨てるよう促し、近くにあった丸テーブルの上に置かせた。
「なぜ君がエイジに従っている……!?君はグロウの隊員じゃないのか!?」
「彼は僕の下僕さ。最初からね。」
エイジは机の上に足を乗せ、右手の爪をいじりながら上目遣いでエレンを見た。銃口を向けながらエイジ側へとゆっくりと移動を開始したヨウは、エイジを一瞬見てからエレンを嘲笑した。
「マスターエイジの命令で貴方や転移者達の動向を見ていましたが、もうする必要がないとの命を受けましてね。それに、これを気にマスターはグロウを全滅させて、このアンジュを掌握するつもりでいます。だから、貴方には消えてもらわなければ……。」
エレンはエイジやヨウに悟られないように、腰に隠してある小型で灰色のFP-45に酷似したハンドガン 〝プティットゥ〟に降伏するフリをして両手を伸ばした。
「そろそろよろしいでしょうか?マスター。」
「うん。あと少しでハルトがツバキかシュウを倒し終える頃だろうし、レイの方もカタがつくはずだ。もうエレン隊長には消えてもらっても構わない。」
「では……。」
トリガーに指をかけ、歯を見せながらヨウが笑い、エイジは手を顔の前に上げて、親指と中指の指腹を重ね合わせた。
「それと最後に一つ。教えておいてあげよう。僕もヨウも、君たちとは全く違う世界の〝未来〟から来た人間なんだ。」
エイジが指を鳴らす動作をすると同時にコンバーのトリガーと、隠し持っていたプティットゥのトリガーが引かれた。腰だめで放たれたプティットゥの弾丸はヨウの腹部を掠り、逆にコンバーのスラッグ弾はエレンの右肩を貫いた。
「ぐ……!あッ……!!」
吹き飛ばされ、壁へと激突したエレンは口から血を流し、右肩の血流を左手で抑えながら歯を食いしばって耐えていた。
「まだ意識があるのかよ……。貴方もしぶといっすね……!!」
ヨウは勢いよくエレンの右肩を左手ごと踏みつけた。痛みに苦悶するエレンの表情を蔑みながら、ヨウは醜悪な笑みと共に踵で傷口を何度も何度も蹴っていく。薄れゆく意識の中、エレンはガンベルトに残っていた小型のフラググレネードが手に触れた。
全身の力を振り絞り、右手でヨウの足元にピンを抜いたグレネードを投擲した。数秒後にはエレンの目の前で爆発が起こり、ほんの僅かしか残っていなかったエレンの意識を完全にかき消した。
アンジュへ向かう中、ユウスケとシュウの眼前にグロウから爆発が起こるのが写った。
「アンジュが……!!」
ユウスケがそう呟くと、シュウは速度を上げてグロウのある区画へと走り出した。
「私とソウジは別ルートから行くわ。……くれぐれも気をつけて。」
そう言い残してフウカとソウジは城の裏側に行くように遠回りを開始した。
「システィ。君はどうする?」
「共に行きます。ユウスケ様がこのような状況ならば、私がサポートするべきでしょう。」
システィはヴィユーを片手に持ち、それに応えるためユウスケは頷いた。
「俺もできる限り戦う。もしこの先にバトルの統率者がいるなら、俺はその人に聞きたい。なぜ、こんな戦いを仕組んだのかを……。」
ユウスケが呟くと、なぜかシスティは俯いて寂しそうな顔をした。
まるで進んでほしくはないかのような表情を浮かべているシスティを見たユウスケは、若干の疑問を持ちながらもグランディールを嵌め直す。
物陰に隠れながら移動し、2人は街中に辿り着いた。しかし、アンジュの街に降りたユウスケが見たのは悲惨な光景だった。
何の罪もないであろう市民が老若男女問わず幾人も殺され、家屋は崩壊していた。人々の手を見ると武器を持っている人もいたが、それでも敵わなかったようであり、城の前には死体が散乱していた。
「ひどいな……。」
ユウスケは足の踏み場を探して城内に入ると、青髪で赤縁のメガネをかけている少女が立っていた。
「……転移者か?」
服装が現代チックだ。グレーのワイシャツに黒のネクタイ、赤色のスカートを履いているやつなんてこの世界にはまずいないだろう。
すると少女は微笑んだ。
「さすがマスターが一目置くほどの転移者ですね。雰囲気といい見た目といいすっごいイレギュラー。だからお気に入りなんでしょうけど。」
「なんの話しをしている?」
「申し遅れました。私はイユ。このバトルを築いたマスターの遣いです。あなたの考えている通り、この先にマスターはいます。どうぞこちらへ。ご案内しましょう。」
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