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Episode 16「プレデター(後編)」

続きです

ウォードの使用人二人に屋敷の裏側にまで連行されたシスティは、使用人達から発せられる殺気に近い気配を感じ、その場で足を止めた。

「どうしました?早く歩いて下さい……。」

背中に押された銃口で、この使用人達が只者ではないと感じたシスティは足を踏み出すフリをして、右足で黒いハンドガンを所持していた使用人の足を払った。

だが、もう一人の使用人が隠し持っていたテーザー銃がシスティの肩に命中し、その電流によってシスティは気絶した。

「処刑しなければ……。処刑しなければ……!!」

ナイフを突き立て、気絶しているシスティへと振り下ろす使用人だったが、突然飛来したダガーに弾かれて、そのダガーが飛んできた方向へとハンドガンの銃口を向ける。

「やめなさい。あなたが殺しても、何も変わらないわ。」

ブーメランのように戻ってきたダガー状の特典アイテム 〝ヴァン〟を、フウカはキャッチして白衣の内側へと収納した。

「今頃、あなたの当主は私の仲間と戦ってるはずよ。それに上手くいけば、あなた達がここに縛られる理由もなくなるわ。」

「あの転移者から解放される……!?」

銃口を下げ、驚きの表情で使用人はハンドガンを手からこぼす。

「そう。だから無駄な殺しはやめて、仲間と遠くへ逃げなさい。今なら、私も目を瞑るわ。」

二人の使用人は咄嗟に屋敷の裏口へと入り、フウカはシスティの肩を揺さぶって起こした。

「大丈夫?私が来なかったら殺されてたかもね。」

「なぜ私を助けたのですか……。私はクラーク家を乗っ取ったあなたを嫌悪していたんですよ。」

フウカはシスティの肩に腕を通して立ち上がらせる。近くの階段までシスティと共に歩き、ゆっくりと下ろした。

「あなたをここで見殺しにすれば、私の同盟相手であるユウスケの信頼を失うわ。」

「ただそれだけですか?私には……。」

「まあ、半分くらいは情のために動いたのかもしれないけど。……けどこれだけは覚えといて。私も転移者の一人。あんまり期待しないで。」


レイはチェーンソー型の特典アイテム〝プレダトゥール〟を片手で振り回し、テーブルの残骸を破壊して舌打ちをした。

「一人ずつゆっくりと殺してこーと思ってたのに、邪魔者が入ったかぁ……。まっ、転移者の邪魔者ならまだいい方か。」

「ユウスケ。お前の従者はフウカが確保しているところだろう。安心して戦え。」

ソウジはレイにS&W M500に酷似した特典アイテム〝アンパクト〟の銃口を向けながら、鋭い目付きで威嚇する。

「お前に一つだけ問う。なぜ転移者となった?教えろ。」

「どーしてぇ?」

「ただの興味本位だ。答える気がないのなら、この引き金を引いてお前を殺すまで。」

「うーん……。まあ、どうせバトルに支障は出ないし、いいわ。答えてあげる。」

まだ破壊されていなかったダイニングチェアに座り、プレダトゥールを床に突き刺した。

「私がこの世界に転移したのはあの忌々しい誘拐事件が関係してるの。あれは私が高校生だった頃、私と妹の麗奈が学校から家に帰ると、突如現れた強盗にパパとママが殺されて、麗奈と私はそいつに誘拐された。」

黙々と話し続けるレイに、ユウスケは思い出したかのように目を見開いた。

「知ってる……!その事件、確か犯人は2年くらい捕まらずに最期は隠れ家で……!」

「そうよ。その2年間、私はあの男のあらゆる屈辱に耐えてきた。いつか麗奈と一緒に逃げられるチャンスを掴むために。……けど、チャンスなんて訪れなかったわ。挙句の果てには私があいつの気を害したとかいう理由で、麗奈は私の目の前で殺された。それからマトモな食事すらも与えられず、私はいつか目の前の麗奈の死体に手を伸ばすようになったの。」

「そのせいで人を食うようになったってわけか。」

ソウジは銃口を話に集中しているレイに向けながら、ユウスケの腰をつつき、小型で灰色の固形物を数個、こっそりと渡した。

「仕方なかったのよ。生きるためにはね。……それから数日後、私の前にエイジという不思議な男の子が現れた。彼こそがこのバトルを仕組んだ統率者で、私を転移させた張本人だった。エイジは私に一本のナイフを渡してこう言ったわ。〝そのナイフで、この窮地を脱出できたのなら、願いを叶えるチャンスをあげよう〟って。」

(エイジ……。そいつが俺を転移させたヤツの名前か……。)

レイは足を机の上に乗せ、欠伸をして床に刺していたプレダトゥールの持ち手を掴む。

「私はナイフを手に取り、あいつを誘うフリをして首元を切り刻んであげたわ。それを見ていたエイジは私を認め、この世界へと転移させたってわけ。……これが私の過去。全部話したところで、じゃあ。」

ダイニングチェアから立ち、レイはプレダトゥールを再起動させる。

「続きを始めましょうか?」

戦闘を再開させたレイは、ユウスケ達がいる方向へと走っていき、ソウジはユウスケの耳元で何かを囁いた。

「……手筈通りやれ。」

足元のダイニングチェアをレイ目掛けて蹴り飛ばすが、古びているその木製の椅子はプレダトゥールの刃によっていとも簡単に砕け散る。

「今だ!」

ソウジの言葉でユウスケは頷き、背後にある二階へと続く階段を登った。追いかけようとしたレイだが、アンパクトの弾丸がレイの頬を掠めて、溢れ出した血が頬を伝って顎から垂れる。

「お前の相手は俺だ。」


三十段はあったであろう階段を登りきり、ユウスケはソウジとレイが戦っている丁度真上まで来ていた。

(とりあえずこいつを……。)

先程、ソウジから受け取った灰色の固形物 BEC-05というパイプ型の爆弾を床に設置する。


(ユウスケ、まだか……?)

息を切らし、レイに追い詰められてしまったソウジは頬を伝う汗を手の甲で拭う。

(こいつの恐れを知らない行動はまるで読めない……。そのせいで無駄な動きを使い、体力がなくなっていく。)

「なぁんだ。もう終わりなの?案外あっけないものねぇ……。」

横に薙いだプレダトゥールがソウジの目の前まで迫っていくが、突如として走る脇腹の激痛に思わずよろける。

「なに……?」

「ようやく追い詰めたぞ……。貴様があの時、俺の部隊を殲滅させた犯人……!」

グロウの隊服に身を包み、アトリビュートというH&K HK416酷似した漆黒のアサルトライフルを構えているチェスターが、鋭い目付きで睨みながら、装着してあるドットサイトを覗いてレイに照準を定めていた。

「あら?もう来たのかぁ……。」

脇腹に二発の銃弾を受けながらも倒れることはなく、チェスターはアトリビュートの引き金をもう一度引いた。

「悪いけど、あなたじゃ私は倒せないわ。」

プレダトゥールで銃弾を切り裂き、レイはチェスターへと迫っていく。

「おい!そこのグロウ!!早く逃げろッ!」

ソウジは叫ぶが、チェスターはレイから発せられる妖気のようなオーラに圧倒されてアトリビュートのトリガーから指を離してしまう。

「あなたの部隊、どうして殺したか教えてあげよっか?……それはね、私のお腹が空いてたから。だから、私がここであの時殺し損ねたあなたを殺して、全て終わらせてあげる。」

プレダトゥールを振り上げて、チェスター目掛けて振り下ろすも、突如として横から現れたソウジがチェスターを庇い、プレダトゥールの斬撃を肩に受けた。

「ぐっ……!!離れていろ……!」

プレダトゥールに付着した血液が刃の中へと吸収されていき、レイは恍惚とした表情を浮かべて口の中に溢れる血を味わうように舌を動かした。

(このままでは、俺の体力も危うい……!)

その時、天井から爆発音が聞こえて屋敷全体が揺れた。ソウジはそれを合図と受け取り、アンパクトの弾丸をレイに向けて連射した。レイを先程の爆発によってヒビが割れた天井の真下まで誘導していき、割れている部分をアンパクトで狙う。

「なに考えてるかわかんないけど、全部無駄なことッ!!」

レイがソウジに切りかかる寸前に、閃光が発生してレイの視覚からソウジの姿が消えた。

「これでいいんだろう!?」

フラッシュバンを投擲していたチェスターは壁によりかかりながら、ガンベルトからスモークグレネードを外して、ピンを抜いて投擲した。

「終わりだ……!!」

ヒビが発生している中心部をアンパクトの弾丸で撃ち抜き、天井はガレキとなって崩れて真下にいたレイに襲いかかる。ガレキに潰されたレイを見て、ソウジは傷を負った右肩を抑えながら、気を失いかける。

「大丈夫か!?」

二階から既に降りてきていたユウスケがソウジを支え、肩を抱いて屋敷の出口を目指してゆっくりと歩き始めた。

「アンタも早く外に出た方がいい。いつ崩れるかわからないから。」

チェスターはアトリビュートを肩に担ぎ、ユウスケの後へと続いた。

「どうやらフウカの言っていたことも満更ではないらしい。今回は、お前が居たおかげで勝てたようなものかもな。」

「俺もソウジが人を庇うなんて思ってなかった。どうやら俺はソウジのことを勘違いしてたみたいだ。」

ソウジは顔を背けて溜息をつき、茶色のウエスタンハットを左手で下げて顔を隠す。

「……見ていたのか?」

「タイミングを図るために床の隙間から。……けど、攻撃的な転移者にも哀しい理由で転移してきたヤツもいるんだな。」

「たとえどんな理由があろうと、バトルに手を抜くわけにはいかない。それが転移者同士のバトルと言うものだ。」

ここまで読んで下さり、ありがとうございました。

次回はシュウサイドです。

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