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Episode 15「プレデター(前編)」

続きです

Episod15 「プレデター」


世界の中心 アンジュの更に中心に存在するハワードの城。そこの一角にあるグロウのアジトの隊長室で、エレンは書類整理をしていた。

「エレン隊長。これ、報告書です。」

扉を開けて入ってきたチェスターは書類整理に夢中なエレンに報告書を手渡した。

「んー。……囚人の護送はどうなってる?」

「今、現地を出発したとコンダクターで連絡がありました。それと、もう少しでヨウだけ帰還するそうです。」

チェスターは部屋のソファに座り、ダルそうに背中を伸ばす。

「シュウが帰ってこないってことは、何かあったのかな?」

「また転移者絡みじゃないっスか?今度、騒ぎを起こしたらどうします?」

「謹慎処分かな。……けど、彼は何の目的もなしに戦ってるわけじゃないと思うんだ。これは俺の予想だけど、彼は何かを遂げるために転移者同士のバトルに臨んでいる……。」

何か納得しなさそうな表情をしているチェスターに対してエレンは微笑んだ。すると、扉をノックする音が聞こえ、エレンは入室を許可した。

「今、戻りました。調査の結果、プリュスには異常はありません。それと、シュウは何者かと共に隣村のプロスへと向かいました。」

「プロス……。あの村も確か、我々の管轄外だったはずだ。けど、今は廃村状態だったと聞いてるけど……。」

「シュウの意図はわかりませんが、彼のことです。何か理由があるのでしょう。それと……。」

ヨウはエレンの目の前にあるデスクに手紙らしきものを置いた。

「グロウのポストにありました。」

封を解いてみると、手紙の内容はウォード家の招待状だった。差し出し人は不明だが、招待客はエレンのようだった。

「貴族様からの招待状か。たまにはこういうのも悪くはないかも……。」

横で目を通していたチェスターは文章の最後に押してある赤いカラスのような紋章を見て、血相を変えて招待状を奪い取った。

「これは……!!」

「チェスター、どうしたの?」

「この紋章は……!俺の部下を殺したヤツが残した紋章と同じものです……!!」

「なんだと!?」

「俺、行ってきます!!」

エレンの静止すらも聞かずにチェスターは飛び出した。困惑しながらもう一度手紙を見ていたエレンの後ろで、ヨウは静かに笑みを浮かべた。


「ウォードの屋敷はこの先ですね。」

石畳で整備された道を5キロほど歩いているユウスケとシスティは、招待状に同封されていた地図を頼りにウォードの屋敷を目指していた。

「とりあえず休憩しないとな。もう昼過ぎだし……。」

木陰に移動して昼休憩を挟もうとした時、遠くの方で怒号が聞こえた。声のする方向へユウスケとシスティは走っていった。

「待て!!逃げられはしない!!」

軍服のような格好をしている角刈りの男が、灰色の作業着で髭面の男を追いかけるが、その差は一向に縮まらず、奥の手として軍服の男がジャケットの内側からH&K USP45に酷似した銃を作業着の男に向け、後頭部に狙いを定めていた。

「システィ!」

ユウスケが名前を呼んだと同時くらいに、システィは透明な石 リベルテをロープに変形して投げ、作業着の男の足をロープで捕まえると男は後頭部から倒れ込み、そのまま気絶した。

「た、助かった……!君たちがいなかったら、最悪の手段をとるところだったよ。」

軍服の男は銃を収納し、システィに対して握手を求めてきた。

「いえ、お気になさらず。……グロウの方ですよね。」

男の手を握り、システィはロープを元の透明な石に戻した。

「ああ。アンジュから囚人を護送するために馬車でここまで来てたんだが、囚人の一人が脱走してしまってね。君たちは……?」

「この先にあるウォードの屋敷へ。あちらの当主に招待されたので。」

「なるほどね。そういうことならばウチの馬車に乗っていくといい。囚人を捕まえてくれた恩返しも兼ねてね。」

「ですが、お仕事の邪魔では……。」

グロウの男は部下と思わしき、軍帽を深く被った男に合図して呼んだ。

「囚人の護送は部下に任せる。君たちは護送用とは別の馬車に乗っていくといい。」

すっかり足腰を痛めて疲れていたユウスケ達にとってこれほど嬉しい提案はなかった。ユウスケはシスティに乗せていってもらおうと言い、システィはその旨をグロウの男に伝えた。すると、男は馬車をユウスケ達の前まで移動させて、馬車の荷台部分に設置してある客車の扉を開けた。

客車の中に設置してあるソファ型の長椅子にユウスケとシスティは対面するように座り、馬車は動き出した。

「幸運でしたね。」

「ああ。というか、グロウってなんだ?この世界における警察みたいなもんか?」

無意識に元の世界の単語を織り交ぜたため、システィは困惑していたが、大体の質問の意図はわかっていた。

「ケイサツというのはわかりませんが、グロウは市民の安全を守るために結成された組織のことです。現在は世界の中心にあるアンジュの街を統率しているハワード家直属の組織ですが、現在のハワード家当主 ティアラ・ハワードの意向で幅広い地域において活動しているんですよ。」

「直属とかそういうのは違うけど、大体は同じなんだな。俺も元の世界で市民を守る仕事をしててさ。少しの間しか仕事してなかったけど、やりがいのある仕事だったな……。」

現実世界の話をしているユウスケの顔は段々と憂いていくが、気まずい空気になるのを避けて話題を変えることにした。

「そういえば、まだシスティに俺のこと何も話してないよな。なんか聞きたいことあるか?」

とっさに質問の機会を与えられたシスティは、何を質問しようか考えていた。ユウスケが転移した原因である爆弾事件のことは既に聞いたし、元の世界のことを聞いても話についていけないと思ったシスティの頭の中に一つの質問が浮かび上がった。

「では一つ。……ユウスケ様はなぜ元の世界に帰りたいのですか?何か理由が?」

「大したことじゃないんだけど、これかな。」

ユウスケは上着のポケットから木製のオイルライターを取り出して、システィに見せた。

「これは……?」

「ライターって言って、こうやって使うと火を灯せるんだ。」

「その着火装置がどうして……?」

「これが理由だよ。」

ライターの胴体部分をシスティに見せた。そこには筆記体で「Kanon」と彫られた文字があり、システィはその文字がどういったことを意味しているのかわからずに見ていたが、読めていないとわかったユウスケがシスティにその文字の意味を教えた。

「これ、〝カノン〟って書いてあるんだ。」

「カノン……。人の名前ですか?」

「ああ。カノンとは俺が小さい頃からの幼馴染でさ。俺が死んだあの爆弾事件が起こらなければ、あの後にあいつと会う予定だった。……俺はまたカノンに会いたい。だから元の世界に帰りたいんだ。けど、前にも言ったように、そのために他人を犠牲にしていいのかわからないんだ。だから今は、ベイカーさんから受け継いだこのルースターを立て直すために動くよ。」

決意の表情を見せたユウスケにシスティは安堵した。すると、馬車は急に止まり、馬車を操縦していたグロウの男が話しかけてきた。

「お二人さん!到着したよ!」

ユウスケとシスティは荷物を取って客車から降りると、歪んだ何本もの木が隣接している木と絡まっている森の入り口が見えた。

「あの森の先にウォードの屋敷がある。森の中を真っ直ぐ進んでいけば、明かりが見えるはずだから、それを目印にするといい。」

「ありがとうございます。助かりました。」

システィとユウスケは一礼をして、森の中へと進んでいった。


鳥の鳴き声と虫の囁き、そして薄暗く光がささない森の中をしばらく歩いていると、明かりが灯っている屋敷のようなものを見つけた。

「たぶんアレです。」

警戒しながら屋敷に近づくと、ハイライトが薄くなっている瞳が特徴的なメイド服の使用人が小さな声で話しかけてきた。

「……招待状を確認します。」

「あ、あの……。俺たち、クラークじゃなくて、ルースターで……。」

ユウスケは隠し事をしたくなくて打ち明けるが、使用人は驚きもせずに淡々と答えた。

「わかっております……。全て……。」

訝しく思いながらも、ユウスケはシスティが所持している招待状を使用人に見せた。使用人は確かにと了承して屋敷の扉の前まで案内し、屋敷の中へと入ろうとしたシスティを止めた。

「ご主人様の指示で、ここから先へは当主しか入れません。付き人の方はこちらへ。」

システィは使用人に連れられて、ユウスケはより不安感を深めつつも屋敷の扉を開けた。開けた扉の先には栗色のロングへアーと紅色の瞳で、血のように赤いドレスを着用した女性が待っていた。

「ルースター家当主のユウスケね?私の名前はレイよ。どうぞ、よろしく。」

微笑んで握手を求めてきたユウスケは、その笑顔に思わず手を握った。

「ではこちらに。」

長い廊下を歩き、通された場所はかなりの広さを誇る洋風の食堂だった。女性の使用人が装飾が施されたダイニングチェアを引いて、ユウスケはその椅子に座った。ウォード家の当主と思われる女性もユウスケの反対側の椅子に座り、使用人に何かを囁いて下がらせた。

「それで、何の用?」

「その前に聞いておきたいことが。あなたは俺がここに来ることを知っていたようですが、なぜ……?」

「ヒミツ。簡単に教えたら面白くないでしょ?」

「けど……!」

納得いかないユウスケは話を進めようとするも、妖しく光る紅い瞳がユウスケに謎の威圧感を与えていた。

「……わかった。話を戻す。率直に言うと、あなたの力を借りたい。今のルースター家は没落寸前の危機的状況にある。だからここは一つ、ウォード家の力を……!」

「まぁまぁ、少し落ち着いて。これは一貴族の存亡がかかった話なのよ?おいそれと返事はできないわ。」

立ち上がって迫真の勢いでウォードに交渉するも、彼女に宥められてしまい席に戻った。

「うーん……。まあ、前向きに検討しておくわ。」

ウォードは後ろを向き歩き始めた。

「な、なあ……。」

「それじゃ、始めましょうか。」

突然、腕を置いていた肘掛けと足部分から拘束具が出現して両腕と両足を固定された。

「どういうことだ!」

「悪いけど、最初から手を組む気なんてないわ。ルースター家と組んでも、何の利点もないし。」

「ならどうして俺をここまで呼び出して、こんな真似を……!」

ユウスケは腕や足を動かすも、強く縛られていてビクともしない。

「あなたが転移者だから。私、実はここの当主でもなんでもないの。」

そう言うとレイは、テーブルの下に隠していた赤いチェーンソーを取り出して起動させた。唸る刃はテーブルを切断し、勢い余って床に穴を開けてしまう。

「私は、あなたと同じ転移者よ。」

「転移者だと……!?」

「そうよ。このバトルの主催者からあなたが転移者だと知って、招待状を送ってみたの。まあ、そんなに期待してなかったんだけど、思いのほかこーんな簡単に引っかかっちゃった。」

レイはテーブルの残骸を足で払い、踏み潰してユウスケの方へと歩いていく。

「なら本物のウォードは……!」

「あぁ。あのデブのオジサンね。私が転移して間もない頃、偶然にもこの屋敷を見つけてね。泊まるところもなかったし、しばらく利用させてもらうことにしたの。」

「どうやって……!」

「別に簡単よ。あの人、私のことを完全に下心丸出しの目で見てたし、甘~く囁いてあげたら簡単に騙すことができたわ。それから、この世界では転移者を探すのに拠点が必要だと思って、このウォードを私のものにすることにしたの。そうなってくると、あのオジサンは邪魔だったから、二人きりの時にこの特典アイテム プレダトゥールで殺して……食べちゃった。」

「食った……!?」

「このプレダトゥールは殺す時に、殺した対象を刃で飲み込むことができるの。それをすると間接的にだけど、飲み込んだものを実際に食べたように味わえるの。」

「つまり、人を食ったということか……!!」

「その時、人肉が結構イケることに気付いたの。この森に迷い込んだ人間を捕まえては殺して食べたりして過ごしたわ。そのせいですっかり使用人達は私に怯えてるけどね。」

「じゃあ、俺も……!!」

「まだ転移者って食べたことないから楽しみだわぁ。どんな味がするのか、本当に楽しみ……。」

舌なめずりをして、プレダトゥールの回転速度を更に上げる。ユウスケは椅子を動かして拘束を解除しようとするが、勢い余って椅子ごと横に転倒してしまう。

「無駄な努力はしないよーに。もう無理なんだから。じゃ、いただきまぁ~す。」

プレダトゥールを振り下ろすも、ユウスケに直撃する寸前に銃弾によって弾かれた。

「なに……?」

「どうやら付いてきて正解だったようだな。」

ユウスケが後ろを向くと、リボルバー型の特典アイテム アンパクトをレイに向けているソウジが立っていた。ソウジはユウスケの腕と足の拘束具を撃ち抜いてユウスケを解いた。

「勘違いするな。俺はお前のために来たんじゃない。フウカと同盟を組んでいるお前に死なれては、俺も色々と困るからな。」

「あなたも転移者……?」

ソウジはユウスケを起こして、アンパクトのハンマーを引いた。

「そういうことだ。……ユウスケ、俺と共にこいつを叩くぞ。」

今回も閲覧いただきまして、ありがとうございます。

これからもよろしくお願いいたします。

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