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SF系短編小説

快速! スペース・オンデン

作者: マキザキ





 アンタかい? ウチの船のクルーになりたいって変わりもんは。

 はっはっは! そうかそうか。アタシが船長のタツムラだ。

 まあ……ガラでもないが、面接といこうじゃないか。

 おーい! 生中二つ! あと、おつまみホルモンセット……。

なに? 酒飲むのかって? 当たり前だろ! 盃も酌み交わさずして腹の内が聞けるかってんだ。


 さて、酒とつまみが来る前に、軽くアンタの自己紹介でも聞いとこうか。

 ああ、そうか、エントリーデータ貰ってたっけか。それも見ないとな。

 ふむふむ……。ユウキ・ミヤノね。

おいおい……随分いい大学出てんじゃねぇか。

それと、宇宙航法士に……。宇宙砲撃管制資格!? お前こんな弱小輸送船で安い飯食ってるタマじゃねーだろ……。

えーっと、志望動機は、ああ、宇宙レースで消息不明のオヤジさんと兄貴探してるんだったな。まあ、ウチの船はちゃんと仕事する分には、行先での行動は自由だから、人探しには丁度いいかもな。

しかし……宇宙レースねぇ……。あれで行方不明となると……。

ああ、悪ぃ。悪く思わないでくれ。ただ、あのレースのきな臭さは昔から有名でな。


 おっ! 来たぞ来たぞ。ここのホルモンセットは旨いんだ。今日はアタシの驕りだから、しっかり飲んで、食え!

 ほれ、乾杯!

 あっはっは! そうか! 旨いか! よし! 採用!

 

 何ぽかんとしてんだよ! アンタは今日からウチのクルーだって言ってんだ。

 ようこそ。我らが輸送艦、スペース・オンデンへ。




■ ■ ■ ■ ■




おっ! 武勇伝を聞かせてほしいってかい!

アンタなかなか年上を盛り上げる術を心がけてるじゃないか!

あれは大体……3年前のことかねぇ。

アタシらの輸送船は、冥王星軌道の、宇宙ステーションP-GRK2……まあアタシらはヒトデって呼んでるんだが、そこに食料と弾薬の輸送を依頼されたんだ。

木星の傍を航行中、突然宇宙マンタの襲撃を受けてな。

アイツら火薬が大好物だからなぁ……。

スペースオンデンは民間輸送船の中では韋駄天な部類なんで、逃げ切れると踏んだんだが、どうにもしつこく追ってくるんだ。

あの時点では、オンデンにはまともな火器なんかなかったから、撃墜しようにも武器がねぇ訳さ。

仕方ないんで、ウチのクルーの一人が、運んでる荷物から宇宙バズーカを拝借してな、宇宙服着て、外に出て、ドカンよ!

アレは爽快だったね!

まあ……。撃った本人は大けがしちまって、家族から大目玉食らって船降りちまったんだけどな……。


あと……直近では、丁度一つ前の輸送任務の時だな。

太陽系外への長距離輸送依頼で、外宇宙生命体との戦闘地域に武器を運んでくれって内容だったな。

どこから情報が漏れたのか知らんが、武器狙いの宇宙海賊に襲われてな。

今度はオンデンにも迎撃用レーザーとミサイルを積んでたんで、追ってくる小型艇を片っ端から叩き落してやった! と言いたいところだが……。数が多すぎて、逃げ切れなくて……。

クルーが一人減っちまったのはそういうことだ。アタシも手ひどくやられちまった……。傷跡見るか? ああ、言っておくが、最終的には勝ったんだぞ?


 まあ……。巷じゃウチの船は棺桶だの、あの世への快速便なんて言われてるよ。

 なあ、ユウキ。意思確認がまだだったな。

 アンタ、これ聞いてもウチに来る気はあるかい?

 

 へへっ……そうか。




■ ■ ■ ■ ■ ■




「おい! ユウキ! 積み込みが遅れてるぞ! あとクリス! さっさと燃料補給しろ!」

「はい……! ングググ! もう終わります……!!」

「あらほらさっさー」


 俺はユウキ・ミヤノ。民間宇宙輸送船、スペース・オンデン新米クルーだ。

 タツムラ船長は、人使いが荒くてガサツだが、仕事をちゃんとこなす分には、船員の自由を尊重してくれる。

 まあ、いい船長といえばいい船長なんだろう。実際、俺も、滞在先の惑星では、出発の日まで好き勝手に動き回っている。


 この太陽系では、10年に一度、スペースレースなる大会が催される。

腕に覚えのある宇宙船乗りたちが、太陽系8惑星、外宇宙80惑星を巡り、地球へ帰還するまでのタイムを競うという趣旨なのだが、その賞金が凄い。

日本円換算で23兆5000億円という、一生遊んで暮らせる、どころでは済まないレベルの大金が手に入るのだ。

 俺の親父と兄貴は7年前、そのレースに参加し、消息を絶った。

 俺は、その二人の行方を追い、このオンデンに転がり込んだのだ。


「よし! 積み込みお疲れさん! それじゃ発進用意だ! エンジン出力、油圧、電子制御システム、全て異状なし!」

「主砲、サブレーザー、ミサイルポッド、俯角、仰角異状ないです!」

「航行システム異状なし、目的地入力、土星軌道イギリス領コロニー『ニュー・コーンウォール』 入力完了」


 何せ、ガサツでせっかちなタツムラ船長だ。積み込みが終われば即エンジン点火がお約束である。

 発進手順はしっかりチェックするが、以前エンジントラブルで酷い目に遭うまで、そっちもガサツだったらしい。


「クリス! 管制塔に離陸許可を申請してくれ!」

「へーい」


 そういえば、この船には俺とタツムラ船長以外にも、一人クルーがいる。

 いや、むしろクルーが合計3人しかいないのは少なすぎなのだが……。それは置いといて。

 「クリス・ヤザキ」という船員で、年はジャスト20歳くらい。

 まだ若いのに宇宙航法士資格を持ち、この船の航路管理を行ってくれる。

 性格は……。なんて言えばいいのか……。掴みどころがない。

 クールで、ドライで、有能かと思いきや、居眠りや物忘れをやらかす。話しかけてもあんまり食いついてこない。しかし趣味は年相応に服のウィンドウショッピング、妙に大食い、アンコウ鍋が好き等々……。


(俗に言うクーデレ系? いや、この子デレるのかな……?)


 とにかくミステリアスな黒髪美人だ。


「管制塔指示、7番マスドライバーより、本日7:22分に離陸許可」

「OK。スペース・オンデン発進!」

「まだ発進ではないです。地上移動です」


 ……。

変に細かいところもある、ミステリアス黒髪美人だ。




■ ■ ■ ■ ■




マスドライバーからの射出後、オンデンは順調に航行し、木星軌道を通過する。

 順調な航行に越したことは無いのだが、荷物管理兼、火器管制員としては、何とも手持無沙汰になってしまう。

 船長は、スペース回線でテレビを見つつ、仕事の依頼を探し、クリスは自動航行に切り替え、好物の梅サイダーを飲みながら片耳ヘッドセットで音楽を楽しんでいる。

 案外、船内での会話は少ないのだ。

 致し方のないことではある。何せ、既に地球を経って7日。流石に話題も大方尽きる。

 連続航行が5日を過ぎれば、たまに船長がテレビの通販に反応し、俺やクリスに買うか買うまいかを聞いてくる程度になる。

 巡航速度マッハ1800を誇るオンデンでも、土星航路はなかなかに遠い。

 大体半分を消化したに過ぎないのだ。

 ゲームの続きでもするか、と、携帯ゲーム機を取り出そうとしたその時。

 宇宙電子レーダーに複数の影が映り、警告音が鳴り響いた。




「敵襲だ! クリス! 非常事態信号と航行優先許可を木星管制センターに連絡!」

「はいはーい」

「ユウキ! 頼むぞ! 操舵権をそっちに移す!」

「了解! シューティングシート、起動!」


 俺の座る椅子が上昇し、シューティングシートへ移動する。

 多くの戦闘艦に備わっている機構だが、輸送船でこれを備えるものは少ない。

 要は、火器集中管理室だ。

 以前の戦闘で甚大な被害を受けた際、船長が旧式宇宙駆逐艦のそれを買い取ったらしい。

 俺の周りの全球型モニターが一斉に起動し、宇宙空間が広がる。

 射撃用バイザーを装着すれば、火器が俺の視線や、顔の動きに合わせて動作し、敵機を追従する。


「機影より、小型攻撃艇と確認。ガニメデ周辺の宇宙盗賊と推測。友好信号、警告信号、攻撃信号、いずれも反応なし、宇宙法第88条に基づき、防衛戦闘を行います」


 クリスが木星の管制センターに戦闘申請を行うと、許可の通達が速攻で送られてくる。

 この辺りは治安が悪いため、許可が早いのは助かる。


「左舷より敵機7! 右舷より4! 主砲とサブレーザーで応戦します!」


 左舷に主砲、右舷にサブレーザー群を素早く向け、攻撃を行う。

 主砲が左舷から襲来した小型艇3機をまとめて消し去り、曲射された誘導サブレーザーが右舷の4機を一気に葬り去る。

 思いもよらぬ火力に慄いたのか、残る4機は慌てて踵を返し、逃走していった。

 シューティングシートのない、無力な輸送船ならいざ知らず、旧式ながらもそれを装備していた船に盾突いてしまったのが運の尽きだろう。


「お疲れさん! 見事な射撃だったな!」


シートが下降し、コクピットに戻ると、船長が濡れタオルを投げてくれた

 ヒンヤリとした刺激が心地よい。

 自分では至って冷静に攻撃をこなしていたはずなのだが、全身に汗をびっしょりかいていた。

 やはり、命のやり取りには、なかなか体が慣れないようだ。


「ただ今の戦闘で航路を67度、4万300km逸脱。航路修正を行います」


 クリスが冷静に航路修正を行う。

 そういえば、この子戦闘後に労ってくれたこと一度も無いな……。


「すまんが、荷物の状況を確認してきてくれ。戦闘があったらある程度の損害は大目に見てくれるが、クライアントの大事な荷物だからな」

「へーい」


 俺は席を外し、後方の貨物室へ移動する。

 オンデンは細長いため、最後尾の貨物室まではなかなかの距離だ。

 一応、オートウォークは設置されているが、半端に遅いので、ついつい歩いてしまう。

 俺にも船長のせっかちが移ったのだろうか……。


「固定具、異状なし、外箱損傷無し、よし! 点検終了!」


 幸いにも、あまり激しい機動をしなかったおかげか、荷物には全く問題が無かった。

 オートウォークを小走りで戻る。

 どうにも航行中の貨物エリアは静かで落ち着かない。


「ただ今戻りました。荷物問題ありませんでした」

「おう、サンキュー」


 コクピットに戻ると、船長はもう通販の流し見に戻り、クリスも同じく音楽鑑賞に戻っていた。

 素晴らしい切り替えだなぁとある意味感心しながら、携帯ゲームを取り出そうとすると、俺の机の上によく冷えた梅サイダーが置かれていた。




 快速、格安、荷種不問、スペース・オンデン。

 ご用命は、地球輸送局、TKY-150まで。


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