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吸血探偵  作者: 一年卯月
3/7

トライアングル2

 探偵事務所が夕方に開くにあたり、僕は準備をしていたらいつものようにノックもなしにメルディが入ってきた。

「フォン。準備できたー?」

「……もうちょっと」

リボンに手間取っているとメルディが結んでくれた。

「いいかげん慣れなさいよ」

「慣れないよ」

と呟いた。

 夕方といっても陽が落ちかかっていて、僕たちが向かった頃は、マジックアワーと言われる時間帯。僕らはこの太陽が沈みきっているにも関わらず辺りが残光に照らされているほんの僅かなこのときが妖艶で好きだった。

「あった。ここだ。ここの5階だって」

メルディが手に持っている小さなメモを頼りに着いたところはとある建物だった。古めかしいその建物の壁には名前のわからない植物がまるで建物を覆い尽くすかの様に生えていて、よりいっそう不気味さを醸し出している。

「さぁ。入るわよ」

「うん」

メルディにそう促され、今にも止まってしまいそうなエレベーターに乗り込んだ。

「私が全部話すから。フォンは黙っていて」

「わかった」

5階に着き、事務所の前に来た。中の明かりがすりガラスを通し漏れていた。メルディが軽くノックをすると中から、どうぞという声が聞こえてきた。

その声に僕たちは中へと入った。

「かけてくれ」

長身の男は言った。僕たちはすすめられた通りソファーに腰を下ろした。

「ちょっと失礼」

男はそう言うと奥の方に消えていった。

 事務所の一室は、書類や資料が山積みになってたデスク、動かした形跡のないブラインドや丸まったブランケットが足元に落ちていた。

 しばらくして、男がトレイにカップを乗せて戻ってきた。

「紅茶でいいかな」

唯一、汚れていなかったテーブルに温かい紅茶が入ったカップが置かれた。

 僕は、両手でカップを抱えて口をつけた。横目でメルディをちらりと見ると立っている男を見定めているようだ。肌の色は、青白く生気すら感じられない。瞳の色は宝石のように紅く、気を抜いたら引き込まれてしまいそうだった。

 男は、向かいのソファーに座ると腕を組み、大きな音を立てて両足をテーブルに乗せた。反動で、カップの中の紅茶が波打つ。僕たちがぎょっとして男を見ると男は、

「あぁ。すまん。足が長いもので。私の名前はディクサム。ディクサム・ブロークンだ」

と、言って足を下ろした。

「今日はどのような用件で?」

「僕の名前は、フォン。双子の妹のメルディが最近、付きまとわれていて相手はわかっていません。警察にも相談はしましたが、まだ被害が出ていないということもあり巡回をするということだけ。今ではひとりで夜歩くことすら出来ないでいる」

「ふたりでいるときにそのようなことは?」

「ありません」

「では、言い方を変えよう。ふたりでいるときに怪しい人や知り合いをよく見かけたりはしなかったか?」

僕たちはお互いの顔を見合わせた。

「たまに友達を見かけますが、女の子なのでそれはないと思いますが」

ディクサムはそうかと言って紅茶に口をつけた。

「ふむ。一応、調査してみる。一週間後また来てくれ」

「お願いします」

ふたりで頭を下げ、僕たちは事務所をあとにした。

「おなかすいたから早く帰ろう」

被っていたウィッグを外しながらメルディは言った。

「そうだね」

空にはすっかり月が昇っていて白く不気味に輝いていた。

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