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1-3 「エルダーヴィード」

 以前よりも間が開いてしまい申し訳ありません。

 言い訳をさせていただけるなら、身内に不幸があったためにバタバタしていて、状況的にも精神的にも執筆できる環境にありませんでした。

 ようやく落ち着いてきましたので、推敲が不充分かもしれませんが続きをお届け致します。





 ヨシュアは今、色とりどりの花々が咲き乱れる庭の片隅かたすみにある、東屋ガゼボのような場所に置かれた、木製の椅子に座っていた。


 時折吹く風が、花の香りを運んでくるだけでなく、湯上ゆあがりの肌を優しく撫でていくのが心地好ここちよい。


 茶でも喫する目的なのか、同じく木製のテーブルもかたわらに設置され、その上には水の入った木製のマグと、青銅製の鈴が置かれていた。


「それでは、私は洗濯をして参りますので、坊ちゃまはこちらでおくつろぎ下さい。ご用の際には、この鈴を振ってお知らせいただければ、すぐに戻って参ります」


 そう言って仕事に戻るエレミアを、先程見送ったばかりである。


 あの後、食事や風呂で中断していた、離れの案内もして貰った。


 豪華でしっかりした作りとはいえ離れは離れ。


 部屋の数自体はそう多くはなかったので、すぐに済んだ。


 懸念けねんしていた歯磨きの件は、躊躇ためらいつつ聞いてみたところ、あっさりと解決した。


 馬の毛を使った歯ブラシに、歯磨き粉は研磨砂に食塩やミントなどのハーブ類をすり潰して混ぜた、粉末状の物がもちいられているらしい。


 使う度に革製の袋から適量出して水で練り、それを歯ブラシにつけて磨くのである。


 チューブ入りのものとは違うので違和感はあったが、歯を磨けないよりは遥かにましだろう。


 こうして朝食に風呂、着替えに歯磨きを済ませ、ようやく人心地ひとごこちついたヨシュアは、庭で一人自由な時間を得た。


 当然だが、ヨシュアはエレミアをいとわしく思っている訳ではない。


 美貌やスタイルの良さは目の保養になるし、慈愛に満ちた接し方は、転生前は幼少期以降には得られなかったもので、少し気恥ずかしくはあったが、心が安らぐ事は間違いなかった。


 しかしやはり、ある程度はネットに没頭ぼっとうする時間がとれないとストレスが溜まるのである。


 依存症と呼ばれる所以ゆえんだろう。





 腰を落ち着けたヨシュアが、まず検索したキーワードは、『エルダーヴィード家』であった。


 転生前の利便性などは、望むべくもない文明度の筈がこの環境。


 一体どれ程の富豪だというのか。


 検索結果の先頭にある文字列に、それはあった。


『エルダーヴィード家 ―Dekipedia―』


(デキペディアて……)


 ヨシュアは呆れる。


 またもパク――もといオマージュであった。


 世界が違うからとやりたい放題である。


(もう良い。今後も似たような事はいくらでもありそうだし、いちいち気にしていたら身が持たんわ)


 スルーを決め込んで、ヨシュアはそのページを閲覧する事にした。


 概要がいようをまとめると次のようになる。


『エルダーヴィード家は、アルスファーブラ大陸の南方都市、アロドクトゥスの銀行家、政治家の一族。初代のマニは、神からの賜り物(ギフト)である固有ユニークスキルの一つ、【鉱物鑑定こうぶつかんてい】を所持しており、貨幣かへいに含まれる鉱物の含有量がんゆうりょうを、瞬時に見極める事が可能であった。漁師であった夫を海難事故で亡くした後、一人息子を抱えて生活に困窮こんきゅうしたのを契機けいきに、その能力を活かして両替商を始める。


 他の両替商が専用の秤を使い、両替に時間を掛ける中、瞬時に貨幣の本質を見抜くその目、そしてその女性らしい細やかな心配りと相俟あいまって、マニの両替商は大成功を収め、大陸一と言われるようになるまでに、然程さほど時間はかからなかった。当然他の両替商から妬みや恨みを買い、危険な目にあう事もないではなかったが、利益が出るようになってから始めた、副業の金貸しの方で困っていた者達を助けたので味方も多く、その助けもあって大事に至る事はなかった。


 マニは当時姓を名乗っていなかったが、女神に授かったスキルのおかげで財を成した事で、周囲から呼ばれ始めた、通称《神に愛される者》を故郷の言葉に訳し、エルダーヴィードと名乗り始める。


 その両替商としての名声も、マニが引退すると同時に衰退すいたいした。固有ユニークスキルは一代限りのものであるため子には遺伝せず、両替商を続けるにしてもスキルには頼れない。結果他の同業者との差別化をはかれなかったエルダーヴィード家は、次第に両替商としての名声を失っていく。


 次にエルダーヴィードの名を大陸中に知らしめたのは、マニが成した財を元手に両替の部門を縮小し、金貸しを本格的に始めたマニの息子、ファーゴであった。母に教わった心得を守りつつ、貧しい者には低金利で貸し、返済のために努力していると評価できれば、ある程度は返済を待ってやった。富める者や儲けている者には、高額貸し付けを理由に高金利で貸す。期限までに返せなければ借金が膨らむ。徹底してあるところからはしぼり取り、庶民には恩を売った。


 マニが稼いだ潤沢じゅんたくな資産を運用しての銀行業は、かつては大両替商として知られた、エルダーヴィードの名も信用を得るのに一役買い、またしても大成功を収める。大陸各地に支店が建ち、顧客名簿に王侯貴族や教会が名をつらねた時点で、銀行家としてもエルダーヴィード家の一人勝ちが決まったのだった。


 また、幼い頃母と一緒に危険な目にあった事のあるファーゴは、慎重さという点においてはマニを上回っていた。どのような職業であっても、成功者には危険がつきものである事を、自らの経験から良く知っていたために、身を守る武力の必要性を理解していたのである。


 目をつけたのは、大陸北方の山岳地帯に暮らし、蛮族ばんぞく揶揄やゆされる貧しい人々。


 出自しゅつじもわからぬ彼らは、狩猟等で糊口ここうしのいではいたものの、山やふもとの森で狩れる獲物には限りがある。毎年少なくない餓死者を出し、その中には生命力の低い幼児も多く含まれたために、一定の人口以上には増えた事がなかった。人口を増やさない事と増やせない事には決定的な差がある。滅びの未来は、彼らのすぐそばまできていた。


 以前毛皮などを取引した事がある、という知人の商人に頼んで交渉の席を設けて貰い、案内された山奥の集落。他より少しまし程度のあばら家の中で、ファーゴは眼光の鋭い長と呼ばれる老人に対し、ある提案をした。


 傭兵をやらないか、と。以前母と共に危ないところを助けて貰った人々の中に、偶然町にきていた彼らの同胞がおり、獣人族に勝るとも劣らない、その高い身体能力に驚いた事を憶えていたのだ。山岳民族なだけあって、誰もが幼い頃から山野を駆け回って過ごすため、女子供も含めて平均以上の身体能力を有している。すなわち優秀な戦士になれる素質があるという事であった。売る獲物がないのなら、人材を育てて能力を売りつければ良いのだと。


 当初はそれでは人身売買と変わらない、と難色なんしょくを示していたものの、ファーゴの根気強い説得に、他に選択肢などなかった彼らはついに折れた。座して滅びを待つくらいなら、やれるだけの事をしなければ、祖先の英霊達に申し訳が立たない、と。


 今までの一族の生活を守るため、老人や狩猟で生きていけるだけの人数を残し、彼らは山を下りた。住む土地と食糧を用意し、彼らを手厚く遇する事で恩を売ったファーゴは、人族有数と言って良い戦力を、義理堅く裏切らない私兵団として抱え込む事に成功する。


 守りの心配が要らなくなったファーゴは、ますます精力的に動いた。当時の西方大陸は領地の奪い合いや宗教闘争による対立など、戦乱の火種がそこかしこでくすぶっている状態で、諸侯や聖職者達は戦費せんぴ工面くめんに頭を悩ませていた。


 ない袖は振れない。しかし出兵しない訳にはいかない。ならば借りるしかない。そんな時に声が掛かる金貸しといえば誰か? 当然過去に何度も利用した事のある、信用のおけるエルダーヴィード銀行であった。とはいえ金を借りるにしても、自分達が支配階級だからといって、さすがに無担保むたんぽでは借りられない。ならば担保にできるものは何か? 彼らの収入源がそれに値する。ようは領地・・そのものであった。


 畏れ多くも、主君からたまわった領地を担保にする訳である。不遜な話ではあったが、なんの事はない、主君本人も同じ事をしているので誰にも文句は言えない。こうして、大陸各地にエルダーヴィードの債務者さいむしゃたる有力者達が増え、遂にファーゴは己が野心を満たすべく動いた。


 『労働による収入を得るのは恥』、などとのたまう青血ブルーブラッドな彼らに借りた金を返せる筈もなく、すぐに担保はエルダーヴィード家の物になった。


 馬鹿としか言いようがないが、自分で自分の首を絞めた形である。普段頻繁(ひんぱん)に利用してやっているのだから、なんだかんだいっても、本当に取り上げられる事はあるまい、などと高を括っていたのかもしれないが、ファーゴは人の好さそうな笑顔を崩す事なく、彼らの喉笛に牙を突き立てた。全ての債務者が、返済を終えないまま期日を迎えるのと同時に、担保として預かった領地を、容赦なく取り立てたのである。


 一人でも実際に領地を取り上げられれば、まだ期日までに猶予ゆうよがある者達は、何としてでも金をかき集め、返済を済ませてしまうかもしれない。それを避けるために、全員が返済期日を迎えるまで、全く動かない念の入れようであった。深く考えずに領地を担保にして金を借りた愚か者達が、事態の深刻さに気づいた時には既に遅く、結果王侯貴族や教会の権力者達の保有していた広大な土地は、全てファーゴ一人の所有地となった。事実上の支配者の交替である。


 難癖なんくせをつけて取り返そうにも、法的にはファーゴに全く非はないので、自分達が定めた法をないがしろにする訳にもいかず、手の出しようがない。武力にものをいわせ、強引に証文を奪い取ろうとした馬鹿な者達も居たが、相次あいつぐ戦に疲弊ひへいした兵士や領民達では、かつての衰退など微塵みじんも感じさせない程に増えた、精強で鳴らす私兵団に敵う筈もなかった。またたく間に返り討ちにされ、一族全員が処刑されてしまう。


 事ここに至り、ようやく彼らはファーゴが長い時をかけて、この状況を作り上げた事に気がついた。しかし今更気づいたところでどうしようもない。もはや完全に手詰まりである。自分達は困窮こんきゅうし疲れ果て、自らの権利を守っただけの相手を責める正当性さえない。対してファーゴはといえば、金を貸して資産は減ったものの、対価として多くの領地を手にした上に、その財力は未だ健在で、自分達とは真逆の状況にある。恭順きょうじゅんより他に、彼らに生き延びる道はなかった。


 こうして下剋上げこくじょうを済ませた後も、ファーゴは実に狡猾こうかつに立ち回る。同じ平民が自分達を支配しているという事になれば、嫉妬を買い支配が上手く行かない可能性が高い。よって生活に必要な金を出して養ってやる代わりに、傀儡かいらいとして国王や貴族達を矢面やおもてに立たせ、政策の決定などは自らが行う形をとった。


 大まかに説明すると、王にこれからは民衆の意見も広くつのる、として議会を設置させる。そしてこうすれば国がもっと良くなるのではないか、という提案や要望などを議会で議論し、まとめ上げた物を法案として国に提出。これを国が認めれば、晴れて法律として制定される、という仕組みを作り上げたのである。


 そして本業の金貸しを後継者に任せると、自らは議会議員に転身し、自分に都合つごうの良いように現行げんこうの制度を変える法案を提出。素知そしらぬふりで、この法案を自分に逆らう事のできない王達に認可させる。こうする事で、自分は平民の身分のまま、好き放題に法律を変えられるという訳であった。ようは仲間(平民)のふりをして民衆の目をあざむき、民衆からの敵意をかわす、壮大な自作自演マッチポンプである。


 国王や貴族・教会関係者は、借りた金を返せない以上、今後もやしなってもらえないと飢えて死ぬので逆らえず、完全に飼い殺しの状態であった。そして現王の王妹であるモルガンと婚姻関係を結び、王家との結びつきを強める事で、自身の立場を更に盤石ばんじゃくなものとする。


 益々権勢を増したファーゴは、政治家としても辣腕らつわんを振るった。公共施設建設のための寄付や職人の保護なども行い、上手い事人気取りもしたので民衆から圧倒的な支持をて、まさに向かうところ敵なしの状態であった。大手を振って反抗的な勢力は滅ぼし、手を結べる相手とは同盟を結んだ結果、遂に史上初の西方大陸統一を果たす。


 種族にも宗教にも拘泥こうでいせず、ただ益のみを追求するファーゴには、自分に利益をもたらすのならば、誰であろうと手を組む事への躊躇ちゅうちょなどなかったために、貴族や教会にはできなかった、他種族との共存のための交渉が、瞬く間に締結ていけつした事も大きい。彼らは戦に勝つ事で無理矢理従えようとしたために激しく抵抗され、疲弊ひへいしたところをファーゴにつけ込まれたのである。他種族であろうと取引相手とみなすファーゴにとっては、お互い仲良く棲みわけて取引をした方が余程儲かるのだ。


 こうして金貸し兼商人の目線で、西方大陸の覇者となったエルダーヴィード家は、その後も繁栄を続け、現在も栄華を極めている。』





 というような内容を読み終え、ヨシュアは椅子に深くもたれ掛かると、目を閉じたまま両手で顔をおおった。


(女神様ェ……)


 転生前にも、難しい政治や経済などとは無縁な生活を送ってきたヨシュアであったが、それでもわかる事はいくらかある。


 それは『エルダーヴィード家、ヤバい』という事であった。


 なんという家に人を転生させてくれたのか? と問いただしたい気分である。


 想像以上にとんでもない家であった。


 転生前と同じく、やはりこの世界でも金貸しが裏で世界を牛耳ぎゅうじっているらしい。


 ともあれ当主である祖父が、多くの人間に恨みを買っている事は間違いなく、『坊主憎けりゃ袈裟けさまで憎い』のたとえにもある通り、孫だけは対象外とはいかないだろう。


 騙し討ちに近い形で財産を奪われたり、それによって命を落とした者達の、怨嗟えんさの声が聞こえたような気がして、ヨシュアは風呂に入って温まった筈の体が、再び冷えて行くような寒気を覚えた。


 しばらく想像上の恐怖に身を震わせていたヨシュアであったが、今この瞬間まで何も起きていない事を思い出して、気を取り直してこの家の良いところを探してみる事にする。


 まずはこの大陸で今最も力のある一族であり、王族でさえ逆らえないという事。


 つまり物語などで良くある、権力者からの命令に逆らう事ができず、無理難題を押し付けられて四苦八苦しくはっく、という状況が起こらない。


 そのような状況は、他人事ひとごととして読む分には面白だろうが、自分の身に降りかかるのは御免被ごめんこうむりたいところである。


 更にはノブレス・オブリージュとでもいうべき、貴族の領主としての義務を果たす事を強要されない。


 領主といえば王に領地を与えられ、その自治を任された存在であり、自らの領地内だけに限れば、王にも等しい支配者であると言えよう。


 働かずとも領民からの税収だけで事足りるため、人によっては狩りなどして一生遊んで暮らせるが、一朝有事いっちょうゆうじの際に領地や領民に危機がせまれば、自ら軍を率いてこれを退しりぞける義務を負う。


 この時死ぬのが嫌だ、怖いなどと言って戦場に立たずに逃げたりすれば、貴族としての面目めんもくは丸潰れになり、以後爵位いごしゃくいけがしたとして誰からも相手にされず、権威は失墜しっついし家の没落ぼつらくまぬがれれない。


 『武士の面目が立たない』、などという言葉があるが、貴族もヤのつく生き方と同じで見栄やメンツというものがあり、舐められたり侮られたりする事は許されないのである。


 そのため過去の歴史を紐解ひもとけば、貴族や王族の中には死因が戦死という者も少なくない。


 戦争で勝てる貴族が偉いなどという、どちらが蛮族なのかと問い質したくなるような上下関係まであったり、貴族には貴族の悲哀というものがあるのだ。


 だが、エルダーヴィード家はどうかといえば、この例には当てはまらない。


 裏では王族までもを意のままに操りながら、平民からの反感を避けるためにあえて爵位を求めず、平民の立場に甘んじているからであった。


 それ故領地や国に危機が訪れた際に、エルダーヴィード家の者が戦場に立たなくても、他の貴族達のようにメンツが云々うんぬんなどという話にはならない訳である。


 むしろこれに異を唱える貴族がいたとすれば、『お前はただの平民に、貴族としての振る舞いを求めるのか?』と逆に顰蹙ひんしゅくを買って自分の立場を悪くするだけだろう。


 何しろ自分達と平民を対等の立場として扱うなど、我慢ならない人間の集まりである。


 自慢の私兵団を戦場へ送り込み、自分はのうのうと安全な後方で差配だけしている姿を、歯噛みしながら眺める事しかできまい。


 そのくせ平民の分際で、財力だけなら大貴族以上である。


 下級貴族は長男が家を継ぎ、次男は長男に何かあった時の保険として、部屋住みで飼い殺し。


 それ以下は平民の身分に落とされ、軍人や聖職者になったり、他の上級貴族の家に出されて見習いから始め、自らの才覚だけで生きていかねばならないというのに、どうやらヨシュアは悠々自適(ゆうゆうじてき)放蕩ほうとう生活を送れそうであった。


 何故そのような事がわかるか?


 この家の三男に生まれた時点で明白であろう。


 下級貴族の次男坊以下の境遇を、ヨシュアにだだ甘い女神様が味わわせる訳がない。


 使命などないから異世界を満喫しろと言っておいて、他者に使われなければ生きていけない身分に落とすなど、詐欺も良いところである。


 ネットを楽しむ時間もろくにとれなさそうなので、ヨシュアがキレる事請け合いであった。


 それよりも、後継ぎとして幼い頃から勉強し、家名存続のために苦労を強いられる長男や次男ではなく、気楽な立場としての三男坊である、と考えた方が得心とくしんが行くのだ。


(あれ? 成功者の家には危険がつきものとはいえ、平民でないならどこの家でも大なり小なりそうだろうし、いっそここまで突き抜けてしまえば、ある意味ではおそれられているおかげで安全かもしれないな? そう考えるとこの家って、貴族と平民の両方の恩恵だけを享受きょうじゅできる、この上ない優良物件なのでは?)


 ヨシュアがそう考えるのも無理はない程、エルダーヴィードは彼の生まれる家としては最適解さいてきかいであった。


 項目を読み直しながら、ヨシュアは転生前の世界に存在した、半グレと呼ばれる集団を思い出していたが、この家の実態はそれよりもはるかに性質たちが悪い。


 半グレとはヤと堅気かたぎの中間的な立場に位置する存在であり、ヤに所属せずに犯罪を繰り返す集団を指した。


 対策法施行たいさくほうしこう並びにその後の排除条例により、締め付けの厳しくなったヤが縮小を余儀なくされる中勃興(ぼっこう)し、法や条例の適用を受ける指定でないのを良い事に、ヤのシノギに食い込み、時にヤと対立する勢力となり、時にヤを圧倒する事もあったという。


 堅気が平民でヤを貴族とみなした場合、両方の立場の恩恵だけ――たとえば堅気の皮を被って法の適用される指定対象外という恩恵を得、それでいて集団で裏ビジネスに手を出して、裏社会特有の犯罪だが莫大な儲けを得るなど――を享受しようとするあたりは、エルダーヴィード家もこの集団を彷彿ほうふつとさせなくもないが、最近になってヤに準ずるとの指定を受けて、法の適用を受けるようになった彼らと違い、国家権力をも掌握しょうあくしているために、誰からもとがめられないエルダーヴィードの方が悪辣あくらつなのは、誰の目にも明らかであろう。


 そして今日も、エルダーヴィード家は貴族と平民の悲哀を知った事かと嘲笑あざわらい、両者の恩恵だけを享受して人生を愉しむ。


 いっそ清々(すがすが)しい程の巨悪の一族の末弟まっていこそが、ご存じ主人公のヨシュアなのであった。


 潔癖けっぺきな思春期の少年少女であれば、『こんな酷い家に生まれたくなかった』などと忌避きひの念が生じるのかもしれないが、そこは女神様が気に入る程のダメっぷりが際立きわだつヨシュアである。


 先程被害者の事を思い身を震わせていたのは、大勢から恨みを買っていそうなので身の危険を感じたためであって、までも自分の身を案じての自己保身的じこほしんてきな意味合いでしかない。


 祖父がした事に対しての罪悪感など欠片かけらもなく(自分がやった訳ではないので)、それでいてそうして得た財産で自分が生かされている事に対しても、一切の引け目を感じていなかった。(お金に罪はないよね?)


 まさに外道!!!


 大したクズっぷりであった。


 しかし彼に言わせれば清廉潔白せいれんけっぱくな貧乏人の子に生まれるよりも、佞悪醜穢ねいあくしゅうわいでも金持ちの子に生まれた方が幸せなのである。


 転生前も成功したセレブ達は、陰で後ろ暗い事をしてきたに違いないと固く信じていたし、そうでもしないと金持ちになどなれないと思っていた。


 完全に貧乏人のひがみだが、そうして社会の底辺の近辺で生き、挙句あげくの果てには貧乏な独身のまま夭折ようせつしたヨシュアである。


 せっかく転生して大富豪の家に生まれたのに、その立場を捨てるなど、余程の事でもない限りあり得なかった。


(働きたくないでござる! 絶対に働きたくないでござる!)


 若干の依存症を抱えていたとはいえ、転生前は一般的な社会人として働いていた筈のヨシュアであったが、むくわれなかった人生の反動からか、すっかり一生遊んで暮らす誓いを胸に刻んでいるらしい。


 ニートが異世界に転生して、決意も新たに人生をやり直すパターンは多いが、働いていた社会人が逆に転生後にニートになるパターンは、あまり見ない気がする。


 まあ中々話が進まなそうなので無理もないが。


(好きな事で生きて行く。ヨシュアです)


 〇ーチューバーのような事まで思っている始末なので、もはや完全に手遅れの感は否めない。


 如何に働かずに生きて行くか。どうやらそれが彼の今生こんじょうにおける人生のテーマらしかった。

 今回の被害担当 満場一致でファーゴに領地を取り上げられた権力者達。


被害者の会「これ記事書いたの絶対エルダーヴィードだろ……汚いなさすがエルダーヴィードきたない」


 残念ながら女神様なのは確定的に明らか。今回も読んでいただきありがとうございました。


 ※5/23 加筆修正。

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