3-5 「計画」
しばらく見ない間にシステムが色々と変わっていて、下書きが行方不明に。
前の方が色々やりやすかったと思うのは、保守的な自分だけでしょうか?
最早恒例と言っていい、ヨシュアの誕生日に街へ外出しての食事会だったが、六年前とは幾分様変わりした点もあった。
それはテーブルに彼のペット達も同席していることである。
ヨシュアが宣言通り彼女達の参加を認めない限り、食卓を共にしないことは誰の目にも明らかだったし、ミシェルもリリアが参加できるなら、服の制作に関する話ができて嬉しいと、翌日から一緒に食事してきた以上は今更の話ではあったが。
席としては店の入り口から見て手前、ヨシュアの右にエレミア、キャスとマーナの順に。
その対面、左からファーゴとモルガン、ミシェルとリリアが座る。
余った二人は左の端にディース、右の端がオキロエというのがいつもの指定席であった。
あの日以来ペット達は、ヨシュアからの要望に応えるべく研鑽を積む毎日を過ごしており、今日も今日とて各々が厳しく己を鍛えてきたばかりである。
その所為か顔には疲れが滲んでいるものの、目には活力が漲っているため、彼女たちの姿を見て奴隷の虐待を疑う者はいないだろう。
今も護衛組とでもいうべき獣人娘の三人は仲良く談笑しているし、ディースも本日の作業状況の進捗について、主である彼に報告中だった。
「なら外殻については九割方完成したと見て良いんだな?」
「はい。あとは肝心のコアを設置して様子見した後、問題が出なければいくらかの微調整で済むかと思います」
「そうか。 わかった。ご苦労だったな。しばらくは優先して俺から頼むこともないだろうし、他の奴らからの依頼か、あるいは自分の研究でも進めておくと良い」
「わかりました。ではお言葉に甘えてそのように致します」
頷いて一礼するディースに視線を向け、話の邪魔にならぬように黙って聞いていたエレミアが、ヨシュアに尋ねる。
「なにかこの子に作らせていたのですか?」
「ああ。一言で言えば馬車のような乗り物と、それを引く馬のようなゴーレムを作るように命じた」
「……? えっと?」
「まあ、荷や人を運ぶが馬車ではない箱物と、それを引いて進む馬のような役割のゴーレムだが、馬の姿はしていないから、ようななんて曖昧な言い方になる。もし完成したら、それを見せながら説明すれば一目瞭然なんだがな」
「成程、ある程度は理解できました。ヨシュア様と具体的なイメージの共有ができていないと、説明が難しい代物なのですね。このような場で、端的に伝えるのは困難だと」
「素晴らしい理解力です姉様。やはり女神様を除けば、主様のことを一番にわかっておられるのは姉様ですね」
感心したように頷くドワーフ娘に、そうありたいとは思っているけれど、そうに違いないと思い上がることのないようにしたいわね、とエレミアは謙虚さを見せた。
他にも変わった点の一つとしてあげられるのが、このエレミアからのヨシュアに対する呼び方である。
これについては、彼の成人と同時に雇い主がファーゴからヨシュアへと変更され、話し合いの結果エレミアからのご主人様呼びに慣れない彼の希望で、名前呼びすることに決まったからだった。
「話を聞くに移動用目的の発明のようだが、なぜそんなものを? また特許で儲ける気にでもなったのかい?」
ところでエレミアに聞こえるということは、当然対面に座るファーゴの耳に入らない訳もなく、大抵の場合において尻拭いを任されるファーゴが、確認したがるのは予想して然るべき事態であっただろう。
「いや? 準備が済み次第、旅に出ようと思ってるんだけど、その時に乗るための乗り物だよ」
「「えっ!?」」
自他共に認めるヨシュアのイエスマンである二人の、珍し過ぎる驚愕の声に、話に混じっていなかった者達が驚いて振り返った。
そしてディースから事情を聞くと、納得の表情を浮かべる。
「それは驚くのも無理はないわね。一体どういう風の吹き回しなの? 思春期の子供じゃあるまいし、 出不精なヨシュアに限って、自分探しの旅に出たいなんて理由じゃないんでしょう?」
ミシェルの頓珍漢な物言いに、当たり前だと言わんばかりの白い目を向けるヨシュア。
「違うに決まってるだろ。成人するまで俺なりに大人しくしてきたつもりだけど、商人の交易ルートもパターン化してきたのか、ここ数年ばかり市場に出回る交易品なんて、どこかで見たようなものばかりで、誰一人見向きもしないじゃないか。血盟もある程度は俺なしでも回りそうだし、来ないならこちらから他の大陸に探しに行こうかと思っただけだよ」
「ああ、ヨシュア君は新たな商品を探し出しては、それがどんなものか女神様に教えて貰って、最も有効な使い道を見つけ出すのが誰よりも上手だからね。ヨシュア君がジャガイモを齎したことについても、自分たちの一族が存続する限り語り継いで行く、とルプスルグ族の長老が言っていたよ」
「まああの人たちは、ヨシュアちゃんに一族を救って貰ったって、大きな恩を感じているでしょうから。でも言われてみれば確かに、あれ以来ジャガイモ程記憶に残る交易品って、一度も見た覚えがないわね。どちらかといえばヨシュアちゃんが女神様に教えて頂いた、発明品の方が有名なくらいじゃないかしら?」
祖父に続いて祖母もヨシュアの言い分に理解を示したことにより、彼が旅に出ようと考えた理由については、誰も違和感を覚えることなく受け入れられたのである。
そうこうしているうちに料理も届き、五感を刺激する料理を前にした者たちの中で、詳しくは後回しにして晩餐を始めようというファーゴの意見に、異を唱える者は誰もいなかった。
空の大皿を用意させ、ヨシュアが【強欲の蔵】から提供した、季節感を無視したの果物盛り合わせや、初めて口にして以来ミシェルの好物となっている、滋養たっぷりのクリームシチュー。
野菜好きのエレミアやオキロエも嬉しい、昆布の旨味染み込む春野菜の浅漬けもあり、烏賊や海老のフライに目を輝かせるキャスの姿を見て、彼はかつての自分の姿を客観視する。
更にはマーナも思わず唾を飲み込む、肉汁滴る赤身が目にも鮮やかな、山羊肉のローストまで並べば、誰もがそわそわとした気分になってしまうのも無理のない話だろう。
やがて待ちかねたところに酒とグラスも届き、店の人間が居なくなったのを見計らって、ヨシュアが【ストレージ】からジューサーを取り出す。
これはヨシュアがディースに設計図を渡し、作るように命じたもので、好きな果物でジュースが作れる便利グッズだ。
モルガンとミシェルを筆頭に、女性陣が立場順にリンゴや桃などでジュースを作り終えると、モルガンとエレミアの酌を受けたファーゴとヨシュアが、エールとシードルの入ったグラスを掲げ、ファーゴの合図で乾杯の声が上がる。
「ヨシュア君、誕生日おめでとう。乾杯」
こうして一旦宴が始まってしまえば、後は無礼講ということになっており、度を越した意図的な無礼でもない限りは咎められない、と言われている奴隷達も、ようやく少しだけ肩の力を抜くことができるのだ。
それぞれが目をつけていた好物を楽しむ中、自分のことなど二の次に、当然のように甲斐甲斐しくヨシュアの世話をするエレミアの姿は、既に日常茶飯事過ぎて誰一人気にも留めない点も相変わらずであった。
今回の被害担当:行きつけの料理屋の店員。 春にはないはずの果物が皿に山盛りになっているところを目撃してしまう。
店員「……」(なあにあれー? こっわ)
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