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「プロローグ」

 素人が、ノリと思いつきで書き殴って、酔った勢いを借りて投稿した、そんな話です。

 稚拙な文章、誤字、脱字等多々あるかと思います。

 広い心でお目こぼしいただければ幸いです。

 とりあえずの目標は、エタらずに最後まで書き上げる事。

 投稿は、おそらく不定期かと思います。

 中網好也(なかあみよしやが目を覚ましたのは、何もない真っ白な空間であった。


 上体じょうたいを起こしてあたりを見回しても、ただ果てしなく白が広がるばかり。


 普通なら狼狽ろうばいしてもおかしくないじょうきょうにあって、しかし好也は落ち着いていた。


 魂なのか精神なのかわからない状態で、神霊的な存在の作った空間に呼び出され、転生に関しての説明を受ける。


 テンプレであった。


 芸がなかった。


 好也が会員登録しているネット小説サイト、《小説家気分になろう》で見かけたなら、ホームを押してユーザーページに戻るかどうか、迷うレベルであった。


(あー、俺もしかして死んだのか? まだ三十一なのに親不孝な……あれ? でもどうして死んだんだっけ?)


 すぐさまげんじょう把握はあくして頭をかかえた好也だったが、自らのいんを思い出す事ができず首をかしげる。


(ちょっと田んぼの様子ようすを見に行ったんだっけか? それとも……)


 胡坐あぐらをかいて腕を組み、うんうんうなりながら記憶を掘り起こそうとする好也。


 テレビの報道番組などで、大型トラックや鉄道のじんしんが起きたと聞くたびに、「また転生か……」などとつぶやくネット小説脳な好也であっても、まさか自分の身に降りかかるとは思っていなかったのか、(じゃっ)かんの混乱が見られた。


 ちなみに好也の家に田んぼはない。


 ついでに言えば船もない。


 その時、好也以外には何も存在しなかった空間に、変化が起きる。


 好也はその光景を見ながら、学生時代の美術の授業を思い出していた。


 絵筆についた水彩絵の具を、ひっせんにくんだ水で洗うと、色とりどりの絵の具がにじんで、広がり混ざり合うのを見るのが面白かった事を。


 しかしどこからともなくじわりとにじみ出したその色は、絵の具とは違い広がっても混ざりはしなかった。


 それどころか人の姿すがたかたちづくって行く。


 現れたのは目をみはるような美少女であった。


 好也の予想では、年の頃は十代後半であろう。


 黄金色こがねいろに光り輝く髪は両耳の上でたばねられ、ドリルのようにうずを巻いている。


人形のごとととのったおもちに、瞳はんだ水の色。


 ただしかんとうに包まれた肢体したいは、とても十代には見えない程に自己じこ主張しゅちょうしている。


 好也はちかった。


 この娘に、「もう何も怖くない」などと言わせてはならない、と。


「中網好也さんね?」


 目がつぶれるかと思うようなりょくてきな笑顔でたずねられ、睫長まつげながいなおい、などと思っていた好也は、慌てて立ち上がるとうなずいた。


 ますます笑みを深めた少女が続ける。


「うすうす予想はしているかもしれないけれど、わざわざこのような場所にあなたをまねいたのは、私が管理している世界に、転生してもらいたいからなの」


 今度は頷かなかった。


 この見た目で異世界の最高神かよ? とかどうでも良い。


「お断りします」


 好也は相手が神様でもノーと言える男であった。


「……えっ?」


 まさか断られるなどとは、思ってもみなかったのだろう。


 女神様の笑顔がこおりついた。


 その表情は、やがて当惑とうわくへと変わって行く。


「ですから、異世界転生はお断りします」


 好也はもう一度、さきほど(はぶ)いた単語も使い、理解しやすいように言い直した。


「な、何故なぜなの? インターネットの小説サイトで、異世界転生モノのブックマークが多い地球人は、死んだら皆異世界に転生したがるものなんでしょう?」


 ものすごい偏見へんけんである。


 そしてしょうげきじつであった。


 異世界転生者のせんていじゅんは、まさかのブックマーク数である説が提唱ていしょうされた瞬間である。


 異世界転生を渇望かつぼうされる諸氏しょしには吉報きっぽうと言えるかもしれないその情報は――


「いや、読むのが好きな事と、転生したいかどうかは別問題でしょう?」


 と言うあきれたような好也の、みずからをじゅんにした発言を、


「……そうだったの。ならもし次があったら、違う方法で選ばないといけないわね」


 と思いのほか素直に女神様が信じたので、誰かに知らされる前に無価値と化した。


「わかったら地球に帰して下さい」


 存外素直ぞんがいすなおな事がはんめいした女神様なので、あっさりと地球への帰還が叶うかと思われた好也であったが、今度は女神様が首をたてに振らない。


「……それがそういうわけにもいかないのよ」


 困り顔さえ魅力的だとは美人はずるい。


 一瞬見惚いっしゅんみとれた好也だったが、至極真しごくまとうな自らの要求が受け入れらないとあっては、はいそうですかと引き下がる訳にはいかなかった。


「はあ? そちらのかいでこんな訳のわからない場所に連れてきておいて、地球に帰せない? え? これってもしかして転生じゃなくて勇者召喚? 魔王を倒さないと、帰る方法がわからないとか言い出したり?」


 言いながら腹が立ってきたのか、段々(だんだん)と声をあらげる好也に、おびえたのかちょっぴり涙目になる女神様。


 まあ普通は神様が、面と向かって怒りをぶつけられる機会など、そうそうあるはずもない。


 そうていがいたいに、狼狽うろたえてしまったとしても無理もないだろう。


 きゃっかんてきに見るなら、三十過ぎの頭一つ分は大きい成人男性(フツメン)が、年下の美少女相手にすごんでいる場面シーンである。


 これではどちらが被害者か、わかったものではない。


ちが……そうじゃなくて、まさかきょされるなんて思っていなかったから、もうあなたの魂と、地球の神からゆずり受けた超大量のマナを、一緒にまとめてしまったのよ」


 さすがに見た目十代の女性に泣かれると罪悪感でも覚えるのか、好也は深呼吸して落ち着こうとつとめた。


 何やら事情がありそうなので、渋々(しぶしぶ)聞いてみる事に。


 女神様から聞いた話をまとめるとこうなる。

 

 その世界は地球に良く似てはいるものの、科学ではなく魔力をあつかすべはったつしており、人間だけでなくファンタジー作品で有名な、エルフやドワーフ、獣人や魔物モンスターなども存在しているらしい。


 今は地球上の歴史でいうところの、中世ヨーロッパ末期くらいの文明――勿論もちろん、魔力があるので大分差異だいぶさいはあるらしいが――に近いようだ。


 女神様にとっては大変遺憾たいへんいかんな事に、異世界の人間は地球人より脳筋アグレッシブであった。


 魔力で生み出した火を、かまどまきに使って煮炊にたきに利用する人間よりも、憎い相手に直接ちょくせつぶつける人間の方が、圧倒的あっとうてき大多数だいたすうだったのである。


 せっかく魔力というエネルギーがあっても、ほぼ攻撃の手段としてしか使われないせいで、文明の発展は地球より遅れ気味ぎみに。


 女神様は『どうしてこうなった……』と頭を抱えた。


 そんな世界なので、魔力を扱える者のうち、地球の科学者のように誰にでも使えるような道具を生み出して、文明の発展に寄与きよしようとする者はごくわずからしい。


 しかもたいはんが国や貴族にこうぐうえさに召し抱えられ、たびかさなる領土争いに駆り出されたあげ体内魔力オド――体内で生み出される魔力――を使いきると最悪命の危険があるため、オドが限界に近づくと自然魔力マナ――空気など自然物に含まれる魔力――を体内に取り込み、魔力を回復してまで攻撃し合うで、年々マナの消費量ばかりがかさみ、生産の方が追いつかなくなってしまったのである。


 本来魔力が枯渇こかつしそうになった場合には、魔力回復薬マジックポーションなどを利用して、回復するのがつうだろう。


 しかしこの世界では、【マナ吸収】のスキルがなくても、マナを体内に取り込んでオドを回復させるというバグ技を、よりにもよって人間が発見してしまったのである。


 そこからははもう言わずもがなであった。


 欲深い権力者達が、魔力を扱える者達を自らの勢力へと取り込み、侵略に次ぐ侵略を開始。


 特に身体能力には特化しているものの、魔力の扱いは苦手な獣人種族や、少数で寄り集まっていたドワーフ族などは良いカモであった。


 魔力攻撃の嵐を前にすべもなく敗北を重ね、多くが奴隷として狩られてしまう。


 生物のいとなみのために世界樹などから生み出されるマナが、人間の欲望を満たす争いのために使われるのである。


 女神様の気持ちを考えると、実にやりきれない話であった。


 このままではそう遠くない未来に、マナは枯渇してしまう。


 それによってしょうじるえいきょうが、世界にはかり知れない被害をもたらすであろう事は、最早もはや想像にかたくなかった。


 この事態を重く見た女神様は、魔力が全くと言って良い程使われていない地球の神様とこうしょうし、マナをゆずり受ける事で時間的な猶予ゆうよを手に入れて、その間に対策をとるという方法を思いつく。


 ろうすえに地球の神様との取引を成立させた女神様は、今度は地球人の魂を隠れみのにしてマナを地球から持ち出すのに必要な、魂を選別する必要があった。


 地球の神様に「異世界行きを承諾しょうだくする人間が居たら、その魂を連れて行っても構わない」と許可を貰った女神様は、タイミング良く死亡した好也に白羽しらはの矢を立てる。


 ざっと魂の情報を読み取り、異世界転生モノの小説を愛読している好也であれば、きっと喜んで異世界に来てくれるだろう、と早合点はやがてんした女神様は、本人の承諾しょうだくも得ずに、取引で得た超大量のマナを、好也の魂と一緒にまとめてしまう。


 ところが好也は、


成程なるほど? 俺に異世界転生して欲しい、と。話はわかった――だが断る」


 と転生をきょした。


「というにんしきでオーケー?」


 好也からの確認を、女神様が首肯しゅこうする。


「そもそも、そのマナとやらと俺の魂を一緒にまとめてしまったから、地球に帰す事ができない、というくつがわからない。一緒にまとめてしまったのなら、もう一度別にすれば良いだけなのでは? どういう事なのか、もっと詳しい説明を求めたい」


 以下は好也の質問に対する、女神様の説明その二。


 一言で説明すると、袋入りのポテトチップスである。


 世界には目に見えぬ壁のようなものが存在しており、それが世界のきょうかいであると共に、異世界間の移動を容易よういにはできなくしている原因でもあった。


 その壁は入国管理官のごと融通ゆうずうかず、決してきんせいひんみつなどさせまいと、きびしくかんしているのである。


 それはたとえ相手が神様であっても例外ではなく、セキュリティチェックのパスなど断じて認められず、異世界のマナの持ち込みなど判明しようものなら、決して通過する事は許されないのである。


 唯一例外とされているのが、両世界の神様の許可を得た人間の魂なのだ。


 ろん()き出しのままではない。


 魂はやわく、とてももろいものなので、丁重ていちょうに扱わなければならないのだ。


 ゆえふくろめにするのである。


 空気を入れて。


 ポテチのように。


 これでうんぱんに、万が一外部からのあつりょくくわわったとしても、くだけてふんまつじょうになってしまう事もなくなる。


 パッケージングされてはじめて、魂も安心して異世界に転生できるという訳だ。


 ……ところで、だんかもしれないが、マナとは空気中に含まれる目に見えない微粒子びりゅうしであり、空気と見分けのつかないものである。


 ……もうおわかりであろう。


 そう、女神様は好也の魂を保護する袋の中に、地球の神様との取引で得た大量のマナを、空気の代わりに詰め込んだのだ。


 人間の魂を入れた包装済みの袋である。


 神聖にして不可侵のそれ(・・)は、いくら不自然という言葉では済まされないレベルにふくらんでいたとしても、空気かマナかを確かめるべく、かいふうしてみる事など許されない。


 そのような真似(まね)をしてもし魂に何かあれば、たかが壁如きに責任の取れる問題ではないのだ。


 その盲点もうてんく、実に大胆だいたんな犯行であった。


 「いや、それ絶対バレるだろ!?」などという無粋ぶすいな突っ込みを入れてはいけない。


 これは無知な人間(好也)にもわかりやすいように、女神様が噛み砕いて説明して下さった、たとえ話のようなものなのだから。


 実際にはスピリチュアル的だったり、アストラル的だったりする何かを行った末に、うんぬんかんぬんして壁を出し抜くに違いない。


 多分。


 きっと。


 メイビー。(曖昧あいまい


 そのようなよりも重要なのは、好也の魂が包装済みのポテチな事である。


 いや、この場合本当に必要なのは、空気に見せかけたマナの方であるので、所詮しょせん好也の魂など、ポテチ以下の存在であった。


 好也味よしやあじである必要すらない。


 つまり女神様の言う、『地球の神から譲り受けた超大量のマナ』が空気であり、『あなたの魂』がポテチであり、『一緒にまとめてしまった』というのは、その二つを袋詰めにして、封をした状態であると考えればわかり易いかと思われる。


 要するに、好也の要求通りに魂を地球に帰すためには、袋を地球で開封しなければならないのだが、そうすると袋に一緒に入っているマナも、開封した瞬間に地球の空気に溶けてしてしまうのだ。


 しかしこのマナこそが、異世界の危機的状況を回避かいひすべく、女神様が苦労して手に入れた本来の目的なので、異世界での開封が絶対条件なのである。


 とある店で購入したものを、みずからのミスで紛失ふんしつしてしまったとして、その店に同じものをもう一度、今度は無料で要求したところで、受け入れられる事はずないだろう。


 何故ならそれは、店側の不手際ふてぎわではないからである。


 同じ理屈で地球の神様にも落ち度はないので、もう一度マナをわけてくれるなどという事はあり得ない。


 女神様がどんな取引をしたのかまでは不明だが、今回が特例中の特例である事だけは間違いなかった。


「完全に私のミスである上に、こちらの一方的な都合つごうで本当に申し訳ないとは思うのだけれど、なんとか転生して貰う訳にはいかないかしら?」


 上から目線でこうあつてきに命令されたのならともかく、異世界のとはいえ女神様に頭を下げられて、こうまで下手したてに出られたのでは、好也としても非常に断りづらい。


 しかし好也にはどうしても受け入れられない理由があった。


 なおも思案顔しあんがおを崩さない好也に、女神様が尋ねる。


「ねえ、どうしてそこまでかたくなに転生を嫌がるの? そういうジャンルを愛読しているという事は、魔力や他種族といった、地球では幻想ファンタジーとされる物に対する忌避感きひかんはないのでしょう? にもかかわらず拒絶するって、どうしても納得がいかないのだけれど?」


 それは好也を責めているというよりも、心底不思議がっている様子であった。


 当の本人答えていわく、


「え? だって異世界にはインターネットないし」


 好也はネット依存症であった。


 軽度でもネットができなかったり、来客や電話などで邪魔されると苛々(いらいら)してしまい、重度になると一日中ネットをしている所為で徐々(じょじょ)きんにくおとろえて行って、最悪の場合死にいたるケースもあるという恐ろしい依存症である。


 故に異世界にエルフっが居ようと、獣耳ケモミミが居ようと、あまつさえモンムスが居ようとも、転生する訳にはいかなかったのだ。


 ネット依存症でさえなければッ!


 かなり未練みれんはあったが、苦渋くじゅうの決断であった。


 あまりにもひどぎる理由に、女神様は口をぽかんと半開きにして呆気あっけにとられる。


 する人間によっては間抜まぬけな表情かもしれないが、女神様がすると可愛かわがあった。


 つくづく美人は得である。


「そんな……そんな事を言わないで、お願いだから前向きに考えてみて? 確かに文明が遅れている事は認めるけれど、だからこその楽しみだってある筈なんだから! 何事も考え方次第よ? ね?」


 説得する女神様ははや必死である。


 何しろ自分の管理する世界の命運がかかっているのだ。


 きっと今、本人に確認も取らずに好也の魂とマナをパッケージングした事を、心の底から後悔しているに違いない。


 しかし時を過去に戻す事は、神の身をもってしても困難であった。


 対する好也も必死である。


 好也とてこうなってしまった以上は、地球への帰還が難しい状況にある事くらい、頭では理解できているのだ。


 しかし感情ではどうしても納得できない。


 それも当然の話である。


 何しろ自分には一切いっさいの落ち度がないのだから。


 にもかかわらず、ネットのとりこであるネット依存症の人間が、ネットのない世界に放り込まれるのである。


 荒療治あらりょうじも良いところであった。


 きっと禁断症状でストレスがマッハだ。


 いっその事地球人としての記憶を失ってしまえば、なまじネットを知らない分、純粋に異世界での生活を満喫まんきつできるのかもしれなかった。


 しかしそれは好也の望む転生ではない。


 自身の記憶をしたまま、別の世界に別の存在として生まれ変わるのが、異世界転生の醍醐味だいごみなのである。


 ネットと異世界の間でジレンマにおちいった好也は、ストレスのあまりよう退たいこうを起こした。


「やだやだやだやだー! ねっとできなくなるのやだー! かえるのー! ちきゅうにかえるー!」


 三十過ぎのだい大人おとなが、年下にしか見えない女神様の前で寝転がり、手足をじたばたと振り回しながら、はじ外聞がいぶんもなく駄々(だだ))す。


 酷い絵面えづらであった。


 登場して早々(そうそう)、ここまでの醜態しゅうたいさらす主人公が他に居ただろうか?


 いや、居まい。(反語)


 もしこの場に第三者が居たら、「うわあ……」とドン引きする事()いである。


 女神様もさぞ困惑しているだろうと思いきや、


 ――トゥンク……。


 ときめきでも覚えたかのように、豊満な胸を押さえて顔を赤くしていた。


 不可解な反応である。


 結論から言おう。


 女神様は情けない好也の姿にえていた。


 そう、母性本能が人間の女性より強く、あいに満ちあふれ過ぎた存在である女神様は、ダメ男が好きなタイプの女性だったのである。


 『この人は、私が見捨てたら一体どうなってしまうのだろう?』というダメさげんが心配になるような相手には、『この人には私が必要で、私がめんどうを見てあげなくてはならないのだ』という強い使命感にかられるタイプだ。


 早とちりでミスを犯すところといい、実はかなり残念な女神様なのかもしれない。


「ねっとないならちきゅうにかえるー! ちきゅうにかえれないなら、せめていせかいでもねっとができるようなすきるをつくってよー!」


 地球に帰してあげる訳にはいかないけれど、できる限りの望みは叶えてあげよう。


 気が済むようにさせてあげよう。


 そう好也に、子猫でもながめるような慈愛じあいちたまなしをけていた女神様は、後半の言葉にん? と首をかしげた。


「それで良いの? それならできない事もないけれど……」


 好也はぴたっと停止し、え? できるの? と涙さえにじませた目で女神様を見上げる。


「……ほんとう?」


「ええ。パソコンもスマホもないし、地球のインターネットを完全に再現する事はできないから、今まで言わなかったけれど、【女神の叡智えいち】という固有ユニークスキルを少しいじれば、目を閉じてスキル名を念じると、頭の中で知りたい情報を調べられる、というようなスキルを作る事は可能――」


「それでお願いしまっす!」


 食い気味に飛びついた。


 瞬時に大人へと立ちもどっていた。


 土下座までした。


 元居た地球とは違い、再び人間に転生できたとしても、ネットの存在しない世界へ行かざるを得ない、そんな絶望的な状況下に居た好也である。


 地獄で仏に会った気分だった。


 ……仏ではなく女神な上に、その地獄に連れてきた張本人だが。


 たとえ不完全な再現であろうと、ネットがあるのなら、地球よりも異世界の方が良いに決まっている。


 何しろ地球には存在しない種族の美(少)女がいる世界なのだ。


(絶対にこのチャンスをのがしてたまるものか!)


 女神様はあまりの勢いに面喰めんくらった。


「全く同じものでなくて良いです。むしろパソコンやスマホなどの媒体ばいたいを必要としない分、異世界ではそちらの方が好都合こうつごうなくらいでしょう。可能な限り地球でネットをする感覚に近づけていただければ、それ以上の事は望みません」


「そう? わかったわ。それならそのネットのような事ができるようになる固有ユニークスキルと……さすがにそれだけだと申し訳ないから、他にもいくつか固有スキルや加護をゆうぐうするという事で、転生を了承して貰えるかしら?」


「良いんですか? ただでさえ存在しない固有スキルを作っていただくだけでも、ご面倒をおかけするのに」


 現金なものである。


 今までため口だったくせに、相手が自分に益のある事をしてくれるとわかった途端とたんに敬語であった。


 相手をづかうような殊勝しゅしょうな物言いからは、とてもつい先刻まで幼児のように駄々をこねていた人間と、同一人物だとは思えまい。


 しかし女神様としても、今までごねていた相手が、ようやく聞き入れてくれそうなタイミングでそんな事を指摘して、わざわざ機嫌をそこねるような真似をするつもりは毛頭もうとうなかった。


 一時はどうなるかと思っていたのはどちらも同じなのだ。


 ようやくお互いの妥協点だきょうてんを見つけられて、肩の荷が下りたところである。


 女神様好みのダメ男である事も判明した好也なので、今なら少しくらいはサービスしてやっても良い気分なのだろう。


 まんめんの笑みを浮かべて頷く。


「ええ、もちろんよ。あなたには私のミスで、望まぬ異世界転生をいてしまうのだから、迷惑をかける分、そのくらいの事はさせて貰わなくては、逆に心苦しいわ」


「そうですか。……あの、そういえば何か他に使命みたいなものってあるんですか? 魔王と戦わなくてはいけない……とかそういう」


「いいえ? 特にやって貰うべき事はないわね。あなたは転生するだけで使命が果たされるから、後は好きに地球とは違う世界を満喫すれば良いだけよ」


「わかりました。お引き受けします」


 ついに、誤解やミスやその他諸々(たもろもろ)の事情による無駄に長い時を経て、好也は異世界への転生を承諾した。


 こうして晴れて地球の神様の出した、「異世界行きを承諾・・する人間がいたら、その魂を連れて行っても良い」という条件を満たして、ようやく女神様の管理する異世界における、マナ枯渇危機解決のための糸口が見えたのである。


「それじゃあ今から送るわよ?」


 今からちょっとメール送るね、とでもいうような軽いノリで、女神様は好也を異世界に送り込もうとした。


「――ちょっ、ええっ!? あの……行くの行かないの言っていて、そっちの世界のくわしい説明聞いてない――」


「大丈夫よ。あなたにはネットと同じようなスキルを与えるんだもの。転生後の幼児期なんて暇なんだから、ばぶばぶ言いながらスキルで『この世界の貨幣価値かへいかち』、とか検索してみれば良いじゃない」


 まだ必要な情報を聞いていないと慌てる好也だったが、いまさら気が変わったなどと言われてはたまらない、とでも思っているのか、女神様はとりあわない。


 女神様がヨシュアに向かって手をかざすと、好也の体が光に包まれた。


「俺……消えるのか? 光の力で、消されるのか……」


 確かに向こうに行ってからスキルで調べれば良いか、とでも納得したのか、大分余裕だいぶよゆうのある台詞セリフを吐く好也。


 女神様は独り言と判断したのか、スルーする事したらしい。


 出勤する夫を玄関先で見送る妻のように軽く手を振り、


「いってらっしゃい。……またね?」


「あ、はい。……ん? またね?」


 再会をぜんていとしているかのような発言に首を傾げながら、好也の姿はその場から消えた。


 女神様はしばらくの間、好也が居た場所をじっと見つめていたが、やがてはその姿も次第に薄れて消えて行く。


 こうして紆余曲折うよきょくせつを経て、中網好也は異世界への転生を果たしたのだった。

今回の被害担当:好也 異世界転生を強いられる。


好也「異世界転生を……強いられているんだッ!」

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