賢梟インテ
家の外にマックが雄叫びを上げてまるで猪のように飛び出していくのが見えた。
マックはインテがどこにいるのか分かっているのだろうか?きっと分かっていないだろうな。何だか可笑しく思えて少し笑いながら僕も外に出た。
『おはよ!』 『おはよー』『おはよう!』
『いい朝だね 』『朝だね』『だね』
外に出たとたん木々たちから、挨拶の大合唱だ。声の調子からは随分と機嫌が良さそうなことが分かる。
「やあ、みんなおはよう」
そうだ!と木々たちにインテの場所を聞いてみる。この魔素が満ち溢れたユグドラの森の木々たちは、魔素を介して得る力、魔力によって繋がっているらしく、森の様子などを聞けばすぐに教えてくれる。
『東!』『泉!』『青の木!』
なるほど、東の泉にいるのか、青の木は文字通り葉が青い木だ。よし、次はマックに東の泉に来てもらうよう、木々たちにお願いしよう。
木々たちに僕の魔力を少し分けてあげる。こうすることで木々たちが僕の魔力を別のところに届けてくれる。今回はもちろん、場所も分からないのに走っているマックのところへだ。僕の動物や植物と話すことができる力はオズ爺曰く、僕の魔力が何やら関係しているらしい。僕は魔力が届きさえすれば、どこからでも話すことができる。
「木々さんたち、僕の魔力を少し分けてあげるから光針鼠のマックに僕の魔力を届けておくれ」
『いいよ!』『まかせて!』
目の前の木に手を添えて魔力を注ぐ。すると森がざわつき、僕の魔力がどこかへ飛んでいく。するとすぐに、マックが僕の魔力に触れたことが分かった。
「おい!クラウディ!なんだいきなりビックリするだろう!俺は今、急いでいるんだよ!」
「インテがどこにいるかわかってるの?」
マックは急に黙り込んだ。
「…言われてみれば、どこにいんだあの透かし鳥野郎?」
やっぱりマックはわかっていなかった。ほんとに世話のかかるやつだな。
「インテは東の泉にいるしらいよ、もう先に行っとくよ」
「あっ!おいちょっと待て…」
僕はそこで魔力を切った。よしインテのところへ向かおう。
しばらく東に歩いていると目的の泉についた。そこは幻想的な空間が広がっている。泉に太陽の光が反射して泉の中心にある青の木に光のカーテンが掛かっている。ここだけ絵画の世界みたいだ。
しばらくその様子を見ていると、青の木に一羽の賢梟が留まっていた。どうやら毛繕いをしているようだ。その姿は僕の友達によく似ている。間違いないインテだ。
「おーいインテー!」
とりあえず呼んでみるとインテは毛繕いを止めてこっちへスーと音もなく飛んできた。
「やあ、クラウディこんなに朝はやくから何の用だい?」
賢梟のインテは文字通りすごく賢い、インテは魔術や薬草、外の世界のことまでさえ詳しい。綺麗な青白い羽を横に広げればマックが十匹は入りそうで、その瞳の周りにある眼鏡のような濃い青の縁取りは、オズ爺から聞いたことのある学者さんのようだ。
「用ってほどじゃあないんだけど、マックが………だ。」
「ああ、相変わらず君もマックに苦労させられてるようだね。ちょっと待っておいてくれるかい?すぐにサンレの木の実を取ってこよう」
同情の視線を感じる。
「ありがとうインテ助かるよ」
そういうとインテはサンレの木の実を取りに音もなく飛びたっていった。
インテが飛び立ってしばらくすると、騒がしい誰かさんが近づいてくるのが分かった。
「食べ物の怨みを刻んでやるぜー!うぉぉぉぉー!」
さっきまで僕のクッキーをばらばらにしてやんぜ!と言っていたのに…。ほんと調子いいやつ。
マックが僕に気づいた。
「あっ!クラウディ!インテの野郎はどこだ!」
「マックに申し訳ないことをしたなって、サンレの木の実を取りにいったよ」
そう答えるているとマックの後ろからインテが飛んできているのが目に入った。
バサッ。
「やあ、マック。 私はここにいるよ、勝手に君の木の実を頂いて悪かったね、これで機嫌を直してくれたまえ」
インテは少し自慢げな顔をしながら、大きな葉の包みを前に出した。それ包みをマックの目の前で丁寧に広げると、包みの中には色とりどりの木の実や果実が入っていた。
まるで森の宝石箱のようだ。
空腹のせいか輝いて見える木の実や果実を見てマックはだらしなく涎をたらしていた。
「うおー!インテ!お前はなんて素晴らしい鳥なんだ!」
マックはインテを褒め称えると木の実や果実を行き良いよく食べ始めた。
そんなマックを見ていたインテは単純なやつだなといいたげな顔で薄く笑っている。しかし、どうやってこんなにたくさん木の実や果実を集めたんだろうか?と果実を食べながらふと気になった。
そんなことを考えていることに気づいたのかインテは語りだした。
「風の魔術を使ったのさ、 風の魔術をね。 魔術でサンレの木々たちをちょいと揺すってあげたらあとは風たちが私のところへと運んでくれたよ」
流石、鳥の獣だ。この森の獣たちはみんな何かしらの魔術が使える。これはこの森だけらしくて外の世界では魔術を扱う獣は魔獣や霊獣と呼ばれているみたいだけど、ここで育った僕にはこれが当たり前だ。
「へぇ、やっぱりインテは凄いね」
瑞々しい果実を頬張りながらそういうと、インテはこのくらいは賢梟にとって当たり前さ、と胸を張っていた。
少しして、朝の食事を終えたマックは日の当たりがいい場所で四肢を投げ出して日光浴をしていた。
「ほー。太陽の光が俺の中に入ってくる〜」
淡い光を纏いだらけきった表情をしているマックを見ているとインテが僕に話しかけてきた。
「ちょっといいかいクラウディ?君に少し伝えたいことがある。もしかすると今夜、嵐がやってくるかもしれない」
「嵐が?」
「ああ、風がそう教えてくれているし、先ほど他の賢梟たちに会ってね彼らも嵐が来そうだと噂していたよ」
「嵐か。でもインテが言うんだから間違いないね」
賢梟は風が運ぶ魔素を感じとって、風向きや天気を教えてくれる。それにその予感は殆ど外れない。
マックが満足したらすぐに家に戻らないと。でもマックのあの様子を見る限りまだまだ時間がかかりそうだ。
インテから色々な話しを聞いて時間を潰すとしよう。
この時の僕はこんな日常がこれからも続いていくだろうと思っていた…。




