投げっ放しダンジョン ~ファンタジー風世界に異世界転移したけどダンジョンが無かった。無いなら作ればいい!当然管理は人任せ!~
★ルーは傍から見れば考え無しに行動する様にしか見えていないし、ルー自身も自覚していないのだが、実際はあらゆる事を考慮して行動している。
ルーの無意識がその爆発に耐えられると判断したからこそ、躊躇なく爆破したのである。
と言うのはルーの中で行動を実行する事を決定させる僅かな理由でしかない。
ルーは爆発が好きなのだ。火炎を愛しているのだ。爆炎を愛しんでいるのだ。
ルーの纏う服はその師匠である者が作成した爆破耐性に特化した魔法式が施されている。
火を点ければ燃える。刃物で突けば貫通する。手でも引き裂ける。
そんな普遍的な素材なのにも関わらず、何故か爆発にだけ耐える。
爆発に伴う火炎にも耐える。
爆発の衝撃にもある程度ならば耐える。
その為、ルーはその爆発を特等席で鑑賞する事が出来た。
名も無き良質な爆薬は天然の瓦斯と油が存在する地下に過激な破壊を齎した。
硬質化しているとは言え、所詮木材である。
一気に数十キロ四方が破壊された。
衝撃は固い地盤よりも抵抗の少ない地上方向へとより多く流れた。
魔法によって減衰された爆発の衝撃を上手く捕まえたルーは、地下深くから地上へと放り出された。
「空だ」
粉微塵になって飛び散る木片の中で、二塊の木の根が見えた。
一つは白くなった木の根で、その上にカヤとクダが乗っていた。
ジル=カカの魔法だろうと、ルーは思った。
もう一つは不完全な塊だった。
しかしそれでもある程度の塊になっていると言う事は、他の木の根よりも丈夫なのだろうとルーは思った。
「逃げよう」
そう言うと、爆弾を投げ付けた。
ルーが逃げようと思っている相手はこの場には居ない。
★ジル=カカとサックは荒々しく起こされた。
下から突き上げる様な衝撃が折り重なるようにして眠る二人を突き上げた。
二つの悲鳴が閉ざされた空間に反響した。
そして浮遊感。
二人はルーがやらかしたのだと思った。
確証も無いのに確信していた。
そう、こんな事は毎度の事である。
ジル=カカは捻じれた木を手にして、詠唱を始めた。
★クダは生きた心地がしなかった。
しかし同時に生き延びてほっとしていた。
真下の木の根が崩壊しない理由は分からなかったが、それでも一先ずは助かったと思った。
カヤがこの爆発を生き延びた後の事も保証していると無意識に思っていた。
一方で自動化したカヤは衝撃に備えていた。
ジル=カカの行動が確認出来ないこの状況で、落下した後に生き残れるのかどうかはまだ算出されていなかった。
何故なら、ルーが投げた爆弾を認識したのだから。
★グスラは火炎が浸食する木の根を焼き払った事により半ば復活した。
しかしその一方で爆風がグスラを体積の三割程を散らしてしまっていた。
取り急ぎ再構成した眼球で空中を舞うバルサの身体を見つけたグスラは、バルサの身体が爆風に翻弄される様を見て、まだ中身が戻って来ていないのだと安心した。
二分割した女を連れて来た直後に停止したバルサの身体は、それからずっと意識の無い置物のままの様だった。
このまま敵が戻って来なければ、死ぬことは無さそうだと安堵した。
空中高くに放り投げられたが、グスラは落下の衝撃程度で死ぬ事は無い。
そんな事を考えている内に浮遊感は消え去り、自由落下が始まった。
再構成させた身体はまだ不安定で、姿勢を変える事も叶わなかったが為に、グスラはただ思考する事しか出来なかった。
もう少し身体を散らされていたら危なかったなと、冷静に自身の状態を分析するグスラの目の前を、細い棒状の何かが通過した。
何だか土木工事に使う爆弾みたいな外見をしているなと、そう思った矢先に、それは爆発した。
★ジルは辺りの騒々しさに起きた。
「ああ?」
そしてここはどこだろうかと不思議に思った。
焼け焦げた木の根の下から新しい木の根が這い出る様に伸びる光景を見て、一応女神跡付近である事だけは理解した。
見上げた空は青かった。
「生きていたか。当たり前と言えば当たり前なんだけれども」
見知らぬ人物が抱えている蛇猫の角から、光竜の声が響いた。
「そろそろ死んでみるのも悪くないと思ったんだけど、死ねなかったわ」
ジルは悲劇の女傑にはなれなかったかと残念そうに呟くと、腕の力だけで下半身の元まで這いずり、上半身の切り口に下半身をくっつけた。
傷口は即座に塞がり、ジルは五体満足の身体で立ち上がる。
「それに一度練習してみたかったんだ。再生させずに損傷を維持させる練習」
何の役に立つのだとジルの見知らぬ男が嘆息すると、ジルは小首を傾げて知らないと答えた。
「それにしても久しぶりだね」
「誰だお前?」
コントの様な遣り取りを経てジルがその男をヒロミだと理解する頃には、その場所は再び地下になっていた。
根が茂ると言う様な異様なその光景を、ジルは何の感情も感じる事無く見届けた。
「ああ、やっぱりこいつは 」
言葉を最後まで伝えきらずに、光竜と蛇猫の接続は断ち切られた。
「多分この根は高度で効率的な光合成をしているんだろう」
ジルがこうごうせいとは何かを聞くと、ヒロミは説明するのが面倒だと言ってはぐらかした。
「で、これは何で動かないの?」
足元に転がるl:oll/foa.を蹴飛ばしてジルが尋ねると、ヒロミはあくどい笑みを浮かべた。
「この世界はファンタジーっぽいのに色々と足りないと思っていたんだ」
ふぁんたじーとは何かと言うジルの問いは無視された。
「この世界にはダンジョンが無い。迷宮でもいいんだけど」
だんじょんとは何かと言うジルの問いに、無尽蔵に怪物が生まれる施設だとヒロミは答えた。
素敵な場所だと言うジルの声に少しだけ破壊衝動が見え隠れして、即座にそれを察知したヒロミに冷たい視線を差し向けられた。
「色々と資源が取れる場所でもあるから、ダンジョンその物を壊してはいけないよ」
例えばここなら油とか火薬とかとヒロミが言うと、ジルは心底残念そうな顔をした。
「ここをそんなダンジョンにするんだ。丁度材料も揃ってるし」
ヒロミはその場にしゃがむと、l:oll/foa.の頭部にずぶりと五指を刺した。
「な…に…が…」
ゆっくりと意識を取り戻したl:oll/foa.に、ヒロミは残酷な笑みを浮かべる。
「追い出された仕返しに君の処理速度を弄らせてもらった。君が一瞬だと感じる間に外では長い時間が流れていた訳だ」
ヒロミの声をl:oll/foa.はどこか遠くに聞いていた。
「ちょっとした嫌がらせだよ。楽しんでもらえたかな?」
ヒロミのウインクを、l:oll/foa.は見る事は出来なかった。
「何してるのそれ?」
ジルの問い掛けに、ヒロミはダンジョンを作っていると答えた。
★リリーは溜息を吐いた。
場所は広域傭兵管理組合東ナユ地域統括支部の支部長室だ。
ルドラドルラは女神跡を喪失した責任を取らされて失脚した。
リリーはその後釜に据えられた。逃げようと思ったが、他に適任が居ない事は知っていたので苦労を承知で引き受けた。
その潔さとその後の手腕により周囲からの評価はより一層上昇した。漢として。
現在東ナユ地域統括支部は非常に忙しい。
崩壊した女神跡はその地下部分だけが即座に再構成された。
そしてその地下部分は現在いくつかの資源を算出する重要な場所になっていた。
特に深層で湧く黒く粘る油は練油と呼ばれ高値で取引されていた。
時折劣化版蔦蛇の様な脅威が発生するのだが、それもまた傭兵の強化にうってつけだった。
リリーはもう一度溜息を吐いた。今度は先程よりも更に深く哀愁に満ちていた。
「出世したね」
平坦な声がそう言った。
リリーは憮然とした面持ちで目の前の旧友を見た。
「久しぶりね、ララ」
後頭部から声を発するジル=カカに、リリーはそう言った。
「伝説を差し向けてくれたのは貴女だって聞いた。助かった」
ジル=カカは感情の見えない顔でそう言った。
「いいのよ、まだ生きている友人なんて貴女くらいなのだから。伝説も腹一杯の食事で快諾してくれたわ」
リリーは伝説の要求を思い出して、改めて何を考えているのかが分からなくなった。
それでも友人が生きて帰って来たのは良い事だと、リリーは少しだけ柔らかい表情でそう言った。
リリーとララは七百年前未知の遺物によって身体を改造された。
その結果リリーは未だに成長し続けているし、ララは十字に裂ける悪食な口と後頭部に強力な詠唱魔法を行使出来る口を得た。
そして、いつ終わるとも知れない生を手に入れた。
人族で異常とも言える長命だったエルフは千年以上前に絶滅したとされている。
この時代の人族で最も長命とされる獣人種の平均寿命が二百五十年程、生体補修を行える一部の金持ちですら五百年を超えて生存する事は不可能だとされている。
七百年は人族には長すぎる時間なのだ。
実際リリーは生きる事に飽きつつあった。
周りの何もかもが灰色に感じるのだ。
「あの惨事を生き抜いたのが一人だったらと思うと、今でもぞっとしないわ」
遺物に取り込まれたのはリリーとララを含めて五人。
生き残ったのは二人だけである。
「長生きなんてしても、何もいい事ないしね」
「そうでもない」
思いの外強い口調で否定されて、リリーは意表を突かれた。
「骨拾いに所属して、サックと言う人に出会った。そして――」
頬を赤らめて惚気るララを見ながら、生を楽しむのはその人次第なのかも知れないとリリーは少しだけ思った。
五分後にはその思いも薄れて、延々と惚気続けるララに対する軽い殺意だけが残った。
長生きなんてすると碌な事が無い。リリーは改めてそう思った。
二時間程惚気られた後に、全ての責任を被せる予定だった爆弾魔が行方を暗ました事を旧友から聞いて、そう思った。
「…逃げられた」
リリーは頭を抱えて、絞り出す様にそう言うのが精一杯だった。
面倒な後処理は山積みであった。
★女神跡が地下だけになってから数百年後。
その地下遺跡は油洞と呼ばれていた。
l:oll/foa.はとうの昔に自我を失い、ダンジョンの管理を行うだけの存在になっていた。
地下に発生する植物由来の人型は草の人と呼ばれ、戦闘特化の傭兵にとって良い訓練相手になっていた。
訓練相手と言えども、警戒を怠れば囲まれて死ぬ。
その時代の東ナユ地域統括支部長は増えて来た未帰還者と時折報告される今までに無い脅威の報告を少しだけ不安に思っていた。
草の人とは構成要素は明らかに異なる。
その身体は木の根では無く、加工された繊維の様な物で構成されているのだと言う。
身体の構成もそうだが、武器を手にしている事も特徴的だった。
それは切っ先の無い板状の大剣を担いでいるのだと言う。
報告によればその大剣は、刃を合わせればこちらが刃毀れをし、鈍器で叩き付けても折れない、異常な強度なのだと言う。
その時代、油洞が形成される際に多数の犠牲が生じた事は伝えられていたが、その時に喪失された人員の詳細情報は残っていない。
ルドラドルラが処刑される理由となった違法な生体改造に関する情報も、その時代には伝わっていない。
斬り殺した傭兵の魔力を吸って、油洞の奥深くで魔剣は幾何学模様に輝いた。
悪ふざけは最終話のサブタイトルだけにしておきまして、以下真面目にあとがきを。
最終話の一番最後の章で何か別の話に続きそうな雰囲気作っていますが続きません。
サブタイトルに投げっ放しと書いてあるのはそう言った意味も含みます。
本家演算スライムではファンタジー風の要素を後付するというコンセプトで各序章を構成していました。
その中にダンジョンを登場させる予定があったのですが、そのプロット的な事を記録したメモ帳を別フォルダへ保存した関係でダンジョン関係のエピソードを書く事無く完結させてしまいました。
その後に亡霊学校を書き始めてからそれを発見して、今に至ります。
完結した話に後から別の話を間に挟むのも大変ですし、演算スライムの再登場は最終話の一億年後でしたので、この様な形にしました。
演算スライムとは異なり過剰に設定を説明する構成にしましたが、やはり私は基本説明しない書き方の方が性に合っています。
一応今作の主役は爆弾魔ルーです。
その内ルーを完全な主役にして何か書きたいなとか思っています。ネタはありませんが。
次は推理ジャンルで書く予定です。
最後に本作を読んで頂いた方にこの場を借りて感謝致します。
ありがとうございました。