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爆発、崩落

★ルドラドルラが爆弾魔絡みの騒動で忙しく働いている裏で、棺型の遺物が開いた。

 生贄になった傭兵とは全く異なる外見をした人型が遺物から這い出る。

「あー、転生器かこれ」

 遥かな昔自身が作ったそれをぼんやりと眺めて、ヒロミは気怠そうに呟いた。

 再編されて間もない不安定な身体を慎重に動かして感触を確かめながら、ヒロミは自身の複製をその身体に転送した。

「丁度いい所に空の身体があったから飛び込んでみたらまあ…」

 遥かな昔に別の世界でトラックと呼ばれる金属製の構造物に轢かれて死んだヒロミは、精霊によってこの世界に強制転移させられた。

 その際にヒロミは自身の完全な複製を他の身体に移す能力を手に入れた。

 能力等と言えば聞こえが良いが、ただ単にそれはこの世界で肉体を実体化出来なかった事に対する防衛本能の発露であった。

 ヒロミはこの世界で人に成り損ねた半端者である。

 二千年程前に移す先が生体でなくとも構わない事に気が付いてからは、魔王の思考領域の極浅い場所に引き籠っていたのだが、後から来たl:oll/foa.にそこを押し出されてしまった。

 些細な嫌がらせはしたものの、魔王の思考領域に執着は無いので争う気も起きなかった。

 しかし魔王の思考領域を追われた事で一番困るのは憑代となる身体が無い事だ。

 こんな時に限ってジルに預けた蛇猫の剥製は見当たらない。

 見当たらない事自体異常事態ではあるのだが、ジルの事よりも自身の事が大事である。

 運良く空の身体を見つけたのは幸運だったが、その身体がヒロミの罪悪感を抉る物品の中にあった事は少しだけ不幸でもあった。

 凡そ二千年振りの肉体をぎこちなく動かしながら、ヒロミはこれからどうするかを考えようとして、止めた。

 目の前に光の文字が現れた。

 その文字はヒロミの眼球に直接投影されている。

 文字は「ジル、消息不明、旧女神の国」と読めた。

 文字は数秒で消え、今度は図形と数字が表示された。

「…現在地と、ジルが消息を絶った位置かな?つまりそこに行けと?」

 ヒロミの言葉に応える様に、抽象化された笑顔が現れた。

 ヒロミはこの場所が光竜の領域内だと言う単純な事実のみを把握して、辺りを見回す。

「…とりあえず、服どっかに無い?」

 文字通り生まれたままの姿であるその肉体を見下ろすヒロミ。

 光竜は数分程間を置いて返事を返した。

 ヒロミの眼球に、人を呼んだと言う旨が表示された。

「素っ裸で人前に出ろと?」

 ヒロミは酷く平坦な声でそう呟いた。


★l:oll/foa.は最初、自己を認識する事すら困難であった。

 元の身体とは大幅に構造が乖離した身体を使用していた経験があったとは言え、身体自体が存在しない状況においとそれとは対応出来なかったのだ。

「やあ、とまどっているね!まず落ち着いて深呼吸してみよう!Wow!肺が無かったね!」

 目の前に眉目秀麗な男が存在していた。

 見た事も無い様式の服装であったが、その紳士然とした物腰と着こなしから、何かしら地位のある人だとl:oll/foa.は直感していた。

 しかしながらその言動は全く知性を感じさせなかったが。

「hahaha!落ち着きたまえ!身体を想像するんだ!そうすればここではそれが身体になるのさ!そして自分を忘れてはいけないよ!自分でなくなるからね!そう!フロイ=サウラでない僕がフロイ=サウラである様にね!」

 人差し指と中指を目一杯開いた状態で立てた右手を横倒しにして、指と指の隙間から右目を覗かせたフロイ=サウラと名乗る男に、l:oll/foa.はどう対応したら良いのか分からずにいた。

 しかしながら、非常に不本意ではあるが、フロイ=サウラの助言によってl:oll/foa.はその存在を安定させる事に成功した。

 意識せずとも呼吸が出来る様に、存在する事に随意的な要素は不要なのだ。

 フロイ=サウラの存在に対する当惑が先程まで存在した自身の存在に対する混乱を鎮め、l:oll/foa.は己の記憶にあった転移前の身体でその場に顕現した。

 左右二カ所と額の三カ所に光る金色の瞳が、訝しげな視線をフロイ=サウラへと送った。

「えー、あー、ここは?」

 えも言われぬ当惑が、抽象的な質問として発せられた。

「ここは盟友の思考領域の表層だよ!表層だからフロイ=サウラの観念が曖昧なんだね!」

 フロイ=サウラはその場でくるくると回った。縦に、横に、立体的に。

「過去に盟友が改造した人族は無自覚に利用出来る領域さ!ここを利用する事で通常は不可能な思考過程を高速で処理する事が可能だ!この世界の時間は現実世界と必ずしも一致しないからね!一秒の間に百年を過ごす事も百年を一秒で過ごす事も可能なのさ!」

 ふわりふわりと浮き沈みするフロイ=サウラの説明を聞いたl:oll/foa.は、ここを利用する事によってkdi/poが/;piを埋め込む様な効果を得られると理解した。

 実際に遅々として進まなかったジルに対する解析が完了していた。

「…別次元に自己を置いて、それを現実世界に常時複製する形で存在しているのか。通りで切っても焼いても死なない訳だ」

 感慨深げにそんな事を呟いている内に、l:oll/foa.はジルの身体を再現する手法が複数完成させていた。

「おや?今更戻るのかい?」

 フロイ=サウラが真顔になって問うた。

「また直ぐに来るさ。ここの時間感覚ではかなり先になるかも知れないけどな」

 フロイ=サウラはl:oll/foa.の言葉に心底不思議そうな顔をして首を傾げた。

 傾げた首をぐるぐる回しながら眉間に顔を寄せていると、その首が捩じ切れた。

「まあ、なんだ、さようなら」

 くるくる回る首がそんな言葉をl:oll/foa.に手向けた。


★ルーは生成した粘性の高い液体を眺めて恍惚の表情を浮かべた。

 植物由来のその液体は、火薬の類として非常に優秀な物だった。

 魔力を含むため、魔法との相性も良く、単純な炸薬としても非常に優秀なその液体に名前は無い。

 ルーが師事する者はそれを単に良質な爆薬と呼んでいた。

「探そう」

 何を探すのかと言われれば、恐らくは骨拾いの四人の事である。

 しかしながらルーはそれを言葉にする頃には別の事を考えていた。

 それは外に出る手段である。ルーの中では、一応。

 ルーは全く自覚していないが、それでもルーはこの地下が刻々と姿を変えている事を理解していた。

 それを示唆する情報は微かな音であり、僅かな空気の流れの変調であり、三次元的な移動経路の記憶である。

 他の骨拾いのメンバーもその可能性を考慮してはいたのだが、魔法や視覚的効果によって方向感覚を狂わされている可能性を排除出来なかった為、確信には至らなかった。

 ルーがその可能性を排除出来たのは遺跡地下で明確な攻撃を受けた瞬間である。

 硬質化させた殻を纏った種を高速で打ち出すと言うやたら物理的な攻撃。

 そんな手法の攻撃と幻影や幻覚、或いは感覚攪乱の効果を持つ魔法を併用しない訳が無い。

 ルーはそう結論付けて、結論付けた事を自覚する前にそれを記憶の彼方に投げ捨てた。

 必要な記憶はそこでは無い。

 必要な記憶は魔法が使われていない事と遺跡地下は構造を絶えず変え続けている事。

 この二点を理解していればいい。否、理解する必要は無い。

 呼吸すると言う行為の様に、考える間でも無い常識として身に着ければいい。

 ルーはl:oll/foa.が言う所の標準種である。

 思考種や複合種の様に魔王の思考領域を利用する事は出来ない。

 限られた思考領域で高度かつ迅速な思考を構築する為には、無駄な思考を排除する事が最も効率が良い。

 躊躇や常識や遠慮や思慮をルーは持ち合わせていない。

 その代わりに刹那的で突発的で無節操で無頓着なのである。

 だからルーにとって、新しく作った爆弾を起爆する事は当然の帰結であった。


★カヤは必至で走っていた。

 クダはその後を必死で追いかけていた。

 カヤの瞳には理性の色は無い。

 ただ必死で走っていた。

 カヤは思考種である。

 思考種の中でも優秀な個体である。

 僅かな情報から全体を見通す事はもちろんだが、それ以上に理性を切り離すのが非常に上手い個体である。

 無自覚な情報から導き出される結論、即ち魔王の思考領域が算出した試算の結果。

 それがカヤ自身の命が回避困難な危険に晒されていると訴えた瞬間、カヤは自動的になる。

 最善の選択を最高の精度で実現する事に全てのリソースを費やす。

 生き残った後の事は考えない。考える余裕は無い。

 後先考えずに生き延びようとしなければ生き残れない危険の存在。

 そんな比類無き危険はカヤが自動化する必要条件である。

 数分間走り続けたカヤが不意に立ち止まる。

 クダはそんなカヤにぶつかった。

 体格で勝るクダの追突に、カヤは耐えた。

 転倒したクダはすぐさま起き上がると立ち上がり、カヤの横に立った。

 経験からクダはこの状態の特性を理解している。

 自動化したカヤが助けるのはカヤ自身だけだ。

 カヤが立っている場所を中心にどれだけの範囲が安全なのか、それを判断する情報をクダは持ち合わせていない。

 クダはカヤに密着して、己の幸運を祈った。

 クダはその直後に不穏な地鳴りを聞いた。


★光竜は半ば反射的にリリーとヒロミの眼球にその映像を投影した。

 大地は割れ、その亀裂から火炎が噴出している。

 その上にあった女神跡は崩壊した。

 それは火山の噴火のようでありながら、しかし持続性は無かった。

 ほぼ一瞬で方が付いた。

 女神跡は遺跡から瓦礫へと姿を変えた。

 その光景を見たリリーは額に手を当てて溜息を吐き、ヒロミはリリーから借りた服を着て窓から飛び出した。

 二人の眼球に映された映像の中で、根や土と共に蛇猫の剥製が宙を舞っていた。

 リリーは割れた窓と二重写しに見える崩壊した女神跡を同時に見ながら、後始末が大変ですねとどこか他人事の様に呟いて現実逃避した。


★グスラは火炎に焼かれた。

 幸いにも、木の根よりは難燃性な素材でグスラは構築されていた。

 一方で木の根は容赦無く焼かれた。

 上下に分割されたジルもまた、激しく焼かれた。

 焼かれた所で焼失はしない。

 l:oll/foa.が使っているバルサの身体も火炎を浴びた。

 焦がされ燃えながらも微動だにしなかった。

 燃える端からその組織は再生し続けていた。

次が最終話の予定

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