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篩の下に残ったのは

★得体の知れない何かから逃げ切ったカヤは、クダと二人で座って休んでいた。

「はぐれたな」

「はぐれましたね」

 事実ははぐれたと言うよりは置いて来たと言った方が正しい。

「カカもあんな優男のどこがいいんだか…」

 カヤは溜息を吐いて頭を振る。

「で、どうしましょうか」

 そんな事は些事だと言いたげなクダは、ただカヤの直感を頼る。

 どうするも何も何か出来ると思っているのかとカヤに問い返され、クダはなんとかなりますよきっとといい加減な感想を述べる。

 結局カヤが取り敢えず歩き回ってみるかと言って立ち上がり、クダはそれに無言で従った。

 女神跡地下の様な広大な遺跡で現在地を見失ったのであれば、闇雲に動き回らないのも一つの手である。

 しかしながらカヤが歩き回ろうと言ったのであれば、きっとそれはいつもの様に何と無く決めたのであろうと、クダはそう勝手に解釈していた。

 実際は座っている状態で襲撃を受けるのを避けると言う考えに基づいた行動であり、何と無くでは無いのだが。

 ただ、歩き回っていれば何かに行き会う可能性も高まるのは事実でもある。

 背後に従うクダにカヤはそう言えばと呟いてから横顔を向けた。

「ルーっていつはぐれたっけ?」

 その問いに対する回答を持ち合わせていないクダは無言で返答とした。

 何と言うかまあ、今更である。


★光竜は暇だった。

 何せ唯一会話出来る相手がどこかへ行ってしまったのだ。

 暇ついでに女神跡一帯を観測して時間を潰していたのだが、ジルが戻ってくる気配はない。

 恐らく半分忘れられていると悟った。

 ジルとの付き合いが長い光竜としては別段驚く事でも無い。

 ジルが刹那的なのは今に始まった事では無いからだ。

 しかしそれとは別に、光竜は少しだけ怖くなった。

 ジルとの付き合いは長い。気が付けば万年単位の付き合いだ。

 光竜はこの世界に創造されてからの殆どをジルと過ごして来ている。

 創造から出会いまでには千年程の時間があったが、それが些事になってしまう程時は流れた。

 ただ漫然と流れてしまった。

 今更誰とも話せない状況に自分は耐えられるのだろうかと、光竜は自問自答する。

 ヒロミが剥製にした蛇猫でないと、光竜は自身の声を人族のそれに変換出来ない。

 何より、ジルが死ぬ所を想像する事は難しいが、死なないと言う保証はない。

 ジルが生に無頓着であるのと同様に死にも無頓着である事を光竜は知っていた。

 面白そうだからと言う理由で死にかねないのがジルだと、光竜は思っている。

「ヒロミを呼ぶべきか…」

 そんな独り言を聞く手段を持つ者は、ここには居ない。


★ジル=カカは走りつかれたサックの意識がほぼ飛んだ事を確認して立ち止まった。

 追い駆けて来る正体不明な人型が、二人に迫る。

 ジル=カカは慌てず騒がず、大きく口を開いた。

 口角が耳まで裂け、顔の口から上だけが真上を向いた。

 しかし、口は更に開かれる。今度は縦方向にだ。

 下は喉元まで、上は眉間の辺りまで裂ける。

 十字に開かれた口の中には無数の臼歯が埋まっていた。

 開いた口は四方に伸び、追って来る人型の頭に食らい付く。

 ジル=カカの異常な外見に怖気づいたかの様に人型の動きが鈍った。

 その僅かな隙に、人型は頭部を食い千切られた。

 それでも身体に当たる部分はジル=カカに攻撃を試みた。

 飛来する種を迎撃する鞭が、ついでだと言わんばかりにあっさりと、得体の知れないそれの身体部分を裁断した。

 ジル=カカは酸欠で朦朧とするサックを片手で抱えながら逃走を再開する。

 その顔は歪にずれている。

 捕食した人型の頭部を咀嚼しているのだ。

 ばりばりと咀嚼した物を、ジル=カカは躊躇無く嚥下する。

 植物。

 朦朧としたサックが聞き取れたのはその単語だけだった。

 必要最低限の捕食を完了させたジル=カカは、サックを小脇に抱えて猛然とその場を離脱した。


★それはこの世界の存在では無い。

 それの言語でf/hkl:,mと呼ばれる国から転移して来たそれの言語でl:oll/foa.と言う名の者である。

 それは身体を持たない。転移したのは精神だけだった。

 本能的に他の身体を乗っ取る術は理解していたが、それが乗っ取ったのは人型の存在では無かった。

 それがこの世界での身体として採用したのは、遥か昔に貯水草と呼ばれていた魔草だった。

 広大な範囲に張り巡らされた根こそが本体である貯水草は、長い年月で根以外の部位を退化させていた。

 根だけの草が、魔草貯水草なのだ。

 その支配領域は非常に広大である。

 太古に栄えた都市、エルダと呼ばれたその都市の廃墟を中心とした荒野一帯が貯水草の支配領域だった。

 今はl:oll/foa.の支配領域である。

 l:oll/foa.は貯水草の身体と支配領域を手に入れても満足しなかった。

 貯水草の組織を利用して移動可能な端末を作り、支配領域に動物を誘い込む空洞を作った。

 自由な移動手段を欲したのだ。

 その試みは予想以上の成果を上げた。

 知的生命体が侵入して来たのだ。

 もっとも、予想に反して下等動物が全く収穫出来なかった事は少々不満であったが。

 十四体を捕獲して分析した結果、同じ外見をしたそれらは、少なくとも四つの種に大別できる事が分かった。

 一つ目は他の二つの基体となったと思しき種族。

 l:oll/foa.はそれを標準種と名付けた。二体が標準種だった。

 二つ目は特殊な消化器官を有する種族。捕食した生物の特性を僅かながらも世代交代を経ずに取り込める種族だった。

 l:oll/foa.はそれを捕食種と名付けた。六体が捕食種だった。

 三つ目は脳に特異な器官を保有する種族。正確な用途は不明だが、脳の活動に対して何らかの補助を行っている様だった。

 l:oll/foa.はそれを思考種と名付けた。五体が思考種だった。

 四つ目は標準種と捕食種双方の特徴を有する種族。

 l:oll/foa.はそれを複合種と名付けた。一体が複合種だった。

 植物の身体に飽き始めていたl:oll/foa.は複合種の身体を乗っ取ろうとしたが、文字通り分析を行った結果その修復は困難を極めた。

 そこに、五体の新たな侵入者があった。

 最初の十四体と同じ様に疲弊させてから捕獲しようとしたが、新たな侵入者は体力がある個体が揃っていた様で、上手く疲弊してくれなかった。

 続けて更に二体の侵入者があったが、l:oll/foa.は捕獲してある分を使い潰すまでは放置する事にした。

 捕獲してあった個体が無くなった時、七体の侵入者は元気だった。

 面倒臭くなったl:oll/foa.は強引に捕獲する事にした。

 一体には完全に逃げられ、四体は捕獲出来なかったが、二体が新たに捕獲出来た。

 五つ目と六つ目の種族だった。

 五つ目の種族は高い肉体再生能力を有していた。

 六つ目の種族は繊維状の組織が寄り集まって構成されている種族だった。

 l:oll/foa.は五つ目の種族が気に入った。

 f/hkl:,mで流行っていた小説みたいだと思った。

 不死身の主人公がありとあらゆる外敵を駆逐する連載小説で、百巻を超えて尚完結しない名作であり迷作であるそが連想された。

 l:oll/foa.は小説の様に六つ目の種族を殺した。

 一方的に殺した。

 大量の糸屑と大きな快感が残った。

「くふ。くふふふ」

 l:oll/foa.は静かに笑う。

 力に酔いしれていた。

 もっと外敵が欲しかった。駆逐する相手が欲しかった。

「逃げ回る四体か、先刻突っ込んで来た一体か」

 さてどこから手を着けようかと、楽しそうにl:oll/foa.は小躍りした。

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