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練習用短編

明日へ

作者: さとうさぎ

 ぼくは、富士山がよく見えるという展望台へと足を運んでいた。

 展望台までの階段を上りながら、ふと考える。


 正直、あまり期待はしていない。

 富士山だから何だというのか。

 ただの山じゃないか。


 吐く息が白い。

 凍てつくような寒さのせいか、すでに少し身体が重かった。


 ……富士山を少し見たら、すぐに帰ろう。

 そんなことを思いながら、展望台へと繋がるドアを開けた。




 次の瞬間、朝日の暖かな光がぼくを包み込んだ。




 あまりの眩しさに目を細める。

 しばらくすると、目が慣れてきた。

 そして。


「うわぁ……!」


 ぼくは目の前の光景に、ただただ目を奪われていた。


 富士山。

 日本で一番、有名な山だ。


 情報でしか知らなかった。

 ずっと長い間、実際に見たことはなかった。

 その富士山が今、こんなにも近い。


 富士山のふもとにある展望台から望む富士の姿は、まさに圧巻というほかなかった。


 冷静に考えるとまだまだ遠くにあるはずなのに、それをほとんど感じさせない圧倒的な存在感。

 冬だからか、テレビや写真などで見る富士山よりも少し山頂付近の雪の量が多いような気がする。


 展望台の近くでは、葉を落とし雪化粧した木々が、朝日を受けてキラキラと輝いている。

 それが富士山とぼくの間を遮るように生い茂っていた。

 しかし、邪魔になるほどの高さではない。

 むしろぼくにはそれが、富士山の魅力を引き立てているようにさえ見えた。


 ふと、この景色を写真におさめたくなった。


 ポケットからスマートフォンを取り出す。

 寒さのせいか少しひんやりしていた。

 普段は写真など撮らないので、いまいち勝手がわからない。

 それでもなんとか、おそるおそるカメラアプリを起動して、それらしいボタンを押した。




 ぱしゃり。




 そんな小気味よい音が辺りに響いた。

 撮れた写真を確認する。


 ……お世辞にも、ものすごく上手く撮れたとは言いがたい。

 他の人がこれを見ても、ただの風景写真にしか見えないだろう。


 でも、それでいい。

 後でこの写真を見たときに、ぼくがこの感動を思い返すのには十分なのだから。


 これからは、色々な場所の写真を撮ってみようか。

 そんなことを思った。


 吐く息が白い。

 けれど、もう寒くはなかった。


 今日もまた、新しい一日が始まる。


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― 新着の感想 ―
[一言] 体験談ぽいところがいいですね。 雑誌のグラビア記事にでも使えそうな言葉のチョイスでした。 以前の詩人と評したものもそうですが、ライターに向いているのではないでしょうか。
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