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光を  作者: 七七日
8/16

《北海道に行くってどうして?》

 はて、何のことですか?

 などと返信するわけにもいかず、覚えのないメールの内容に関してはすぐさま十歌に尋ねた。

「おい、どういうことだ?」

『いやあ……』

「いやあ……、じゃねえよ。北海道なんか行く予定は無いぞ」

『うん。ちゃんと説明するから』

 十歌が言うにはランニング中に、


「夏休み中も毎日走る?」

 と桜花が問いかけてきたらしい。

「まあ、基本的には。桜花は何処か出かけたりしないの?」

「特にないかなあ。卒業旅行のためにバイトはがっつりいれてるけど」

「俺は、もしかしたら北海道にいくかも」

「へえ」

 

 と、そこで分かれ道に来てしまい会話の途中で別れたしまった。だからこのようなメールが来たらしい。

「それは分かった。で、北海道ってなんだ?」

『それも、ちゃんと説明するから。取りあえずメールには……、親戚のお墓参りとか適当に返信しておいて』

 もうすぐお盆、言い訳としては最適だと思い、十歌の通りそう返信した。するとすぐに返信が来た。

《そうなんだ、お土産よろしくねー》

「……だってよ」

『じゃあ、しょうがないね。北海道に行こう』

「行くか! というよりそんな簡単に行ける距離じゃない」

 そう、十歌の提案を一蹴した。

 ちなみにどのくらいの時間と金がかかるのか調べてみると、安く見積もって往復で約三万円、時間は片道約十時間。うんざりする結果が出た。

『ねえ、新夜君……』

 改まって、というより、急に神妙な声音になった。

「なんだよ」

 急に十歌の態度が変わるものだから身構えるような口調になってしまった。

『本当にわがままなのは分かってるけど、北海道に行けないかな? 別に夏休み中じゃなくてもいいから、いつか……』

「どうしてそんなに北海道に行きたいんだよ? 時計台か? クラーク像か?」

『別に何が見たいってわけじゃないの』

「じゃあ、なんでだよ」

『……向こうに着いたら教える』

「……おい」

『ダメ?』

「だめだ」

 せっかくの夏休みなのだし、旅行の一つや二つはいいと思うが、自分自身特に北海道に興味がある訳じゃない。

『お願い』

 なおも十歌は食い下がった。

 正直、時間はある。余るほどある。金は来る就職活動のために貯めておいた貯蓄がそれなりにあるが、無暗に使っていいものか。

 しかし、健康になったこの体といい、十歌に世話になっていることも多々ある。その恩を返したいという気持ちもなくはない。

「理由を言え、せめて」

『……私の正体に関係がある』

 全ては語らず十歌はそれだけ明かした。

「……いいだろう」

 しかし理由としてはそれだけで十分だった。

『えっ? じゃあ』

「行くか、北海道に」



 北海道に行くと決まると早速計画を立て始めた。

 時間を考えれば空路が一番早いが、やはりその分費用がかかる。なので、時間がかかろうと安く済む電車で行くことにした。 

 路線を調べ、少し多めに金を下ろした。後は数日分の着替えと旅行用品を鞄につめる。一時間もかからず準備が整ってしまった。ちなみに泊まる場所は、その場にあるビジネスホテルかネットカフェを考えていた。

「さて……」

 生き追う良く準備を始めたはいいが、思いのほか早く済んでしまい肩すかしをくらった気分だ。

「じゃあ、行くか」

 そう言って鞄を持って立ち上がった。

『ええっ!』

「なんだよ、じゃあ止めるか」

『いや、行くよ。い行くけど、早すぎでしょ。行く行かないの問答からまだ一時間しかたってないよ』

「別に俺には何処に行きたいとか、いつ行きたいとかないし。じゃあ今からでもいいかなって」

『新夜君って、何気に行動力あるよね』

「そうか?」

『まあ、いいや。じゃあ、明日出発でいい?』

「明日も今もあんま変わらないじゃないか」

『色々と心の準備があるの』

「ふーん?」

 なにはともあれ、急遽、明日北海道に旅立つことが決定した。



 翌朝、珍しく自らの意思で早く目覚めた。未知なる地へと旅立ちで気持ちが高ぶっているのかもしれない。

 着替えを済ませ家を出た。続いて自転車で駅へと向かう。ものの十数分で駅へとたどり着いた。

「はあ……」

 これから約十時間、電車に揺られ続けるのかと思うと朝の興奮もすぐに冷めた。

『ごめんね。やっぱり嫌だった?』

「いや、別に嫌じゃないって。ただ、電車の中退屈だなあって」

『わ、私がずっと話し相手になってあげるから』

「それはどうも」

 きっと独り言をぶつぶつ呟く不審人物とみなされることだろう。

 そうしている間にも電車が来たので乗り込んだ。まだ通勤のサラリーマンもおらず、がらんどうとしていた。 

 小さな眠気に揺られるうちにすぐに眠気がやってきた。

「おっと、だめだ、だめだ」

『どうしたの?』

「三十分もしないうちに乗り換えなんだよ」

『いいよ。眠かったら寝てても』

「お前、乗り換えとか大丈夫か?」

『うん、たぶん』

「じゃあ、この通りに」

 そう言って携帯に乗り継ぎの順番を表示させた。

『まかせて』

 お言葉に甘えて早速眠りに就くことにした。



「案外早く着いたな」

『そう?』

 道中、寝ては起きて、を繰り返していたせいか時間の感覚があいまいだった。

 話し相手になってあげる、といっていたわりに起きている間もほとんど十歌はだんまりだった。流れる景色も単調で暫くするとすぐにまた眠りについた。

 十歌に起こされ慌てて電車を降りたらそこはもう北海道だった。本州以外に初めて踏み入る大地になるわけだが、寝起きのせいで何の感慨もわかなかった。

「寒くないんだな、そんなに」

『今の時期はあんまり変わらないね』

 日は既に沈みかけていたが、そこにいるだけで汗が噴き出してくるぐらいの気温だった。

「で、北海道に来たはいいが、これからどうするんだ?」

『取りあえず今日は寝床を探した方がいいんじゃない?』

「……それもそうだな」

 携帯のマップで近くのネットカフェを探した。徒歩で行ける距離に一軒だけ見つけたのでそこに入ることにした。

 漫画数冊とドリンクをもって指定させた席へと向かった。リクライニングの椅子に座り、一息ついたところで十歌が戸惑ったような声で尋ねてきた。

『あの、此処に泊まるの?』

「そうだけど」

『だってここ、漫画喫茶ってことだよね。泊まっていいの?』

「まあ、二十四時間だし」

『大丈夫なの?』

「まあ、ホテルに比べたら安全とは言い難いけど、シャワーもあるし、一泊ぐらいならネカフェで十分だって。暇つぶしも大量にあるし」

 そうして、北海道一日目は漫画を読みふけるうちに終わってしまった。


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