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光を  作者: 七七日
13/16

ⅩⅢ

店を出た後は、それなりに遅い時間だった。待ち合わせの場所までまた歩いて戻り、そこで解散することにした。

 お酒のせいもあってか、帰り道の桜花は嬉々としていてハイテンションだった、それでいて急に恥ずかしそうにうつむいたりする。そんな桜花の様子はかわいらしかった。しかしおかげで入れ替わったことには気づかなかったようだ。

 自宅に着き一息つく。

 酔いはとうに冷めていた。

 再度呼びかけてみたがやはり反応は無い。

「むう……」

 あまり楽観視できる状況ではない。

 それでも、明日になればひょっこり起き上がってくるだろうと、無理やり自分に言い聞かせその日は眠りに着いた。



 翌日になっても目覚めるのはやはり自分だった。

「新夜君……、まあ、まだ五時だもんね」

 そう、今はまだ朝の五時だ。真夜君が起きるはずの無い時間帯である。きっと、走り終わって、シャワー浴びて、お昼ごろになればいつものように――。

 もやもやとした不安を抱えながらもジャージに着替えて家を飛び出した。

「お、おはよう」

 先に集合場所に来ていた桜花はこちらを認めると少し上ずった声で挨拶してきた。

「おはよう」

 思えば付き合い始めて昨日の今日である。緊張しないというほうが無理な話だろう。

 挨拶もそこそこに私達は走り始めた。

 大地を踏みしめ、腕を振り、息を切らして、私は今走っている。五体全てが自由に動かせるという感覚。少し前の自分では想像もできなかったことだ。一生無理だと思っていた。

 だから、新夜君には感謝している。自分の体を赤の他人に明け渡すなんてきっとすごい抵抗があったと思う。

 少しでも恩返しがしたくて色々としてきたけど、もしかして余計なお世話だったかな。

 ふと、横に並ぶ桜花を眺める。

 いや、そんなことはない。こんなに可愛い子と親密になれたのはなんたって私のおかげだ。陰ながら感謝しているに違いない。

「ねえ?」

 息を弾ませながら桜花が尋ねた。

「うん?」 

「今日の午後からって暇? よかったら買い物に付き合って欲しんだけど……」

「いいよ」二つ返事で了承した。「二日続けてデートだね」

「そ、そうだね」

 デートという単語に桜花はなんとも初々しい反応を示した。もしかしたらお付き合いをするのは初めてではないだろうか。

「何買うの?」

「ランニング用品とか、色々と」

「じゃあ、わ……、俺もランニングシューズ買おうかな。最近毎日走ってたからぼろぼろになっちゃって」

「……ほんとだ、今にも破けそうだね」

 桜花は視線を下に向けて驚いた声を上げた。

 他愛ない話を続けながら、スローペースでだらだらと走っていたものだから周りでは通勤や通学に向かう人々が目立ち始めてきた。

 最初の集合場所に戻ってきたときには、いつもより一時間も遅い時間だった。

「じゃあ、また後で」

「うん。またー」

 昼過ぎにまた会う約束をして桜花と別れた。

 家に着いて再度内側に呼び掛ける……、が、やはり応答は無い。

 もしかして、私がいつもこんなに早く起きているから体の睡眠時間が足らなくなったのだろうか。それで新夜君の睡眠欲がいつもより増して……?

 そう考えた私はシャワーを浴びると早速二度寝に取りかかった。



 目を覚ましたのはやはり自分だった。

 時計を見ると午後一時を過ぎている。約束の時間は二時だからそろそろ準備を始めなくては。

「まったく、いつまで寝てるんだよぉ……」

 呟いた言葉に返ってくる声は無い。

 すぐれない気分のまま、家を出た。

 携帯で顔を確認するとひどい表情だ。このままでは桜花に余計な気を遣わせてしまう。両方の頬を叩いて活を入れた。今だけは、忘れよう。楽しいことを考えよう。そうして顔の筋肉を無理やり笑顔にした。

 待ち合わせ場所には既に桜花の姿があった。

 遠目からでもわかるぐらい煌びやかな恰好をしていた。朝のジャージで、髪をまとめているときとは全く違った。

「桜花――」

 手を挙げて桜花を呼ぼうとした。

「え――」

 桜花がこちらに気づいて手を振り上げた瞬間、悲鳴名様な音が聞こえた。いや、悲鳴も混ざっていたのかも入れないが、それはタイヤが地面とこすれる音だった。

 横滑りした乗用車は桜花めがけて突っ込んだ。

「あ……、あぁぁぁぁああああ」

 奇声を上げて桜花のもとへ駆け寄った。

 同じように集まってきた人ごみを掻きわけ、乗用車から数メートル離れた所に倒れ込む桜花の元へ急いだ。

「桜花! 桜花!」

 抱き起こして呼びかけるが反応は無い。ざっと体を調べたが小さな擦り傷程度で外傷は特にない。

 頭を打ったとしたらあまり動かさない方がいい。そう思って救助が来るまでただひたすら桜花の無事を祈った。


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