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光を  作者: 七七日
11/16

ⅩⅠ

結局北海道には二日しかいなかった。十歌の実家、そしてお墓。十歌の目的は達成し、次なる目的地が無くなった。

『せっかくだから観光でもすればいいのに』

 と、十歌はいったが、やはり取り立てていきたい場所もなかった。なによりそんな気力がなかった。夏バテだろうか。

 逆に十歌は他に行きたい場所は無ないのか、思い出の場所の一つや二つはあるだろと、問いかけてみたものの。

『ほとんど病院だったから』

 と、寂しい回答。

 余計に滞在して無駄に金を消費するのもなんだと、その日のうちに同じルートで帰路についた。

 翌日の早朝、一日ぶりにわが町へと帰ってきた。

 たった一日しか開いていないにも関わらず一週間ぶりぐらいの気がする。

『あ……』

 電車からおりたとたん、十歌がそんなつぶやきを漏らした。

「なんだよ」

『お土産』

「お土産?」

『ほら、桜花の!』

 そういえば、そんなメールのやり取りがあったようななかったような。しかしながら――、

「買ってくると返信した覚えはない」

『私が返信しといたよ』

「……また勝手に」

 携帯を確認してみると確かにそのようなメールが返信されていた。

『どうしよ、どうしよ? もう一回行く』

「あほか、うまく弁明しておけ」



 家にたどり着いたのが午前五時、いつも走りに行く時間だった。もちろん自分自身はそんな気分ではない。しかし十歌は走りに行く気満々らしいので、勝手にしろと席を交代した。

 次に目が覚めるともう夕方だった。

 しかしそれは意識だけで体の方にはまだ十歌が入ってた。

『あ、やっと起きた。代わるね』

 そう言って十歌は引っ込んだ。

 気だるい体を引きずって窓から外を見ると辺りは既に茜色に染まっていた。時計を確認すると午後五時を少し回ったところだった。

 十二時間も眠っていたということか。それにしては未だに眠いのは、眠りすぎたせいか、それとも体が眠っていなかったせいか。

「なあ、走りに行ってから何してたんだ?」

『えっと、呼びかけたんだけど新夜君はまだ寝てるみたいで反応なかったから、私もそのまんま寝ちゃった。それで二時ぐらいに起きて、そのときもまだ反応なかったから適当にごろごろして過ごしてたよ』

「そうか」

 一応体の方も睡眠をとっていたらしい。

「桜花へのお土産はどうなったんだ?」

 ちょっとした意地悪心で聞いてみた。

『私のうまい言い訳のおかげで笑顔で許してくれたよ』

 十歌は得意げにそう言った。

「ほう、どうな」

『桜花に早く会いたくて慌てて帰ってきたら忘れちゃった――って』

「……そうか」

 中々きわどい台詞だ。まあ、向こうも冗談だと受け取ることだろう。



 翌日、昼過ぎごろにのろのろとベッドがら起き上がった。思えばベッドの中で目が覚めたのは久しぶりかもしれない。

「なんだ、今日は走らなかったのか?」

『ん? 走ったよ。読んでも起きなし、することもないから二度寝しちゃった』

「そうか」

 することがないのはこちらも同じだった。涼しい朝方ならまだしも、かんかん照りの太陽が昇るこの時間帯は外にでる気などおきない。

 テレビを見て、漫画を読んで、パソコンをいじって、そんな生産性のない時間を過ごすしかない。

『大学生って宿題とかないの?』

「ない」

『サークルとかやってないの?』

「最近行ってない」

 バンドサークルに所属してはいるが、最近はまったく顔を出していなかった。学際一月前ぐらいになったらぼちぼち顔を出そう。

『……友達いないの?』

 少し聴きにくそうに十歌は言った。

「中のいい友達はインターンに行ってて会えないんだよ」

『何それ?』

「インターンシップ――まあ、職業体験だな。二週間とか一月とか企業で働いてくるんだよ」

『新夜君は行かないの?』

「強制じゃないし。面倒だし。単位は足りてるし」

 給料も出ないのに働くなんて考えられない。社会勉強になるとは思うが、インターンに行ってる連中の半分は単位が目的だ。

『暇なの?』

「暇だ」

 大学生の夏休みほど暇な時期はないだろう。来年には卒研が始まるから毎日とは言わなくても夏休みにも顔を出さなくてはいけないだろう。 

 それにしてもここ最近の生活は怠惰すぎる。TOEICの勉強でもしようか、就職のためにSPIでもやろうか、と、思うだけで結局実行には移さない。

『よし、私にまかせなさい』

「は?」

 何を任せろというのだろう。新しい趣味でも探してくれるのだろうか。


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