3-2 降りゆく雨と落ちゆく意識
この作品はあくまでフィンクションです。
実際に存在する人物、団体、国家、事件、その他固有名称で特定される全てのものとは、名称が同一であっても何の関係もありません。
どしゃ降りの帰り道。
傘は一本人は二人。隣を歩くのは沙耶さん。
この状況が何を意味するか、みなさんならもうおわかりでしょう。
そうです。ただいま相合い傘なうです(←緊張で脳内テンション崩壊中)。
しかも僕の持ってきていた折りたたみ傘は、高校生二人を許容出来るほどの広さがあるわけではなく、必然的にくっつかざるおえなくなる。
その距離わずか数センチ。
「咲夜くん。あんまり離れると荷物とか濡れちゃうよ?」
「あ、あえ、えと……はい」
数センチから数ミリ……というかほぼゼロ距離となる二人の距離。
えっと……これなんてイベント? どこから降ってきた幸福?
「僕……明日死ぬのかな?」
「何縁起でもないこと言ってるのよ」
「ごめんごめん……」
「一千万といい今といい、今日の咲夜くん何かおかしくない?」
「一千万と言った覚えはないけどね」
それに、おかしくなってしまう原因はあなたですよ沙耶さん!!
まあ、口が裂けてもそんなこといえないが。
「それよりも咲夜くん。この状況で分かれ道までたどりついた場合、そこから先はどうすればいいのかしら?」
「迷惑じゃなければ、僕が送っていくよ。雨のせいで、もう辺りもだいぶ暗いことだしね」
「じゃあ、お言葉に甘えましょうかね」
「そういえば沙耶さん。親に迎えに来てもらったりとかって出来なかったの?」
「親は今、仕事で二、三日家を空けてるのよ」
「じゃあ家に一人、危なくないの?」
「平気よ。こういうのは、よくあることだから」
「ならいいんだけど……沙耶さん、家はどこらへん?」
「えーと、口で言うのは難しいけど……学校から徒歩で三十分ってところね」
「あ、意外に遠いんだ」
「家の位置が、ぎりぎり学区内の場所なのよ。もっとも、ほかの四人はもう少し学校に近いところに住んでいるんだけどね……咲夜くんこっちによって!」
会話の途中、沙耶さんがいきなり僕の手を引っ張って自分の方に引く。
その直後。
――――ビシャ
「おわっ、車が水跳ねた!」
「大丈夫咲夜くん!? 制服汚れてたりしない?」
「あ、うん。沙耶さんのおかげで僕は大丈……」
「咲夜くん?」
沙耶さんにお礼を言おうと振り返った瞬間、自分の目と鼻の先にあった沙耶さんの少し上気した顔に驚き、一瞬にして言葉を失ってしまう。
沙耶さんの熱すぎるくらいの吐息がかかる位置に僕が……上気した顔、熱いくらいの吐息……雨の中にしてはあり得ないくらいに熱くなっている手……もしかして!?
「沙耶さん! 体がだるかったりしない!?」
「体が……いや、そんなに、だる……くは……」
「…………っつ!!」
唐突に崩れ出す沙耶さんの体を、僕は地面に倒れ込む前に支える。
「沙耶さん!? 沙耶さん!!」
崩れ落ちた沙耶さんの体は、手とは比べものにならないくらいの熱を持っていた。
♪♪♪
「……38度。よくこれで学校に来れたものだよ」
「朝は何の異常もなかったのだけれど……」
「自分で体調が悪いことには気づかなかったの?」
「ええ……ちょっといつもよりも疲れるのが早いなあってくらいで……まさか熱がでているなんて……」
「とりあえず、咳とかはしてないから風邪……じゃあないと思うんだけど、今はおとなしくしていてね」
「ええ……ごめんね、世話をかけちゃって」
「全然、困ったときはお互い様だよ、沙耶さん」
「……ありがとう、咲夜くん」
「いいっていいって。じゃあ僕はいったん部屋から出させてもらうね」
「あ、咲夜くん!!」
「なに?」
「このことは……出来ればみんなには黙っておいてほしいの。その……あんまり心配とか、かけたくないし」
「……わかった。善処するよ」
「おねがいね……」
沙耶さんを寝かせ、体調の確認を行った僕は、その部屋から出ると同時に、どっと疲れがでてきた。
……僕の家までたどり着くのだけで、相当時間かかっちゃったからなあ。
あの後、突然倒れた沙耶さんを支えながら、僕は一度自分の家に沙耶さんを招き入れることにした。
あの場所から僕の家が一番近くにあったこともあるし、なにより今の状況の沙耶さんに、道案内を強要するのは酷すぎると思ったからだ。
けれど天候は生憎の雨。本来なら沙耶さんを背負ってでも五分以内にはたどり着ける自宅に帰るのにも、およそ十五分弱もかかってしまった。
自宅に到着してまず始めにやったことは、髪の毛等に付いた雨をふき取る作業であった。
一応、沙耶さんには雨が当たらないようにしながら帰ってきたので、それほど濡れていなかったのは幸いであった。
まあそのかわり、僕は全身びしょ濡れになっちゃったけれどね。
雨水を拭き取る作業は、どちらかといえば、僕の方が長い時間かかってしまっていた気がするし。
その後僕は、沙耶さんを僕のベッドに寝付かせ、体温を計り終えたところで、現在に至るのであった。
さて、これから僕は、いったい何をすればいいのだろう。
緊急時とはいえ、沙耶さんの両親に連絡なしでいる状況はまずい。
とりあえず沙耶さんの両親に連絡をと思ったところでふと、先ほどの会話を思い出す。
(そういいえば沙耶さん……親が二、三日家を開けてるっていってたよなあ……)
親がいない状況で発熱。
となると、沙耶さんを家に帰すというのは不可能だろう。
車などの移動手段がなければ、とてもじゃないが今の沙耶さんを移動させるのは危険だ。
しかも、仮にもし家にたどり着けたとしても、そこにいるのは沙耶さんがたった一人。
そんな状況に沙耶さんをするくらいなら、うちで休憩している方が全然良いだろう。
けれど、正直な話僕には、友人が……それも女の子が自宅で発熱して倒れているという状況に出くわしたことが一度もない。
つまり、僕はこれから何をすればよいのかが、全くと言っていいほどわからないのだ。
もちろん、最低限やらなくてはいけないことくらいは心得ているつもりだ。
けれど、その最低限以外の事項に関しては、やるべきなのか、やってもいいのかという判断が全くつかないのだ。
これが男友達、たとえば一也とかならばもう少し落ち着いて行動を起こすことが出来ただろう。
だがしかし、今部屋で寝込んでいる沙耶さんは可愛い女の子。
一也を介抱するのとは、全くと言っていいほど違っているのだ。
例をあげるのならば着替え。
いくらタオルで拭き取ったとはいえ、沙耶さんの制服は外の冷気と水滴で、かなり冷たくなっているはずだ。
そういう場合、部屋着なりパジャマなりに着替えるの普通なのだろうが、ここは沙耶さんの家ではなく僕の家。
当然沙耶さんの部屋着はおろか、女性用の服などあるわけがない。
はじめは僕の私服でも渡そうかと考えたが、いくら緊急時とはいえ、普段男が着ている服に袖を通すのは、かなりの抵抗があるだろう。
サイズだって大きすぎるだろうし。
なので今現在沙耶さんは制服のままなのだが、さすがにそれはまずいであろうと考え、どうするべきか悩んでいたりするのだ。
他にもいろいろと悩みや判断の付かないことがあり、さすがに自分一人ではどうすることも出来ないと判断した僕は、申し訳ないけれど沙耶さんとの約束を破り、彼女の元へ連絡を入れることにした。
♪♪♪
「沙耶が倒れたとはまことか!?」
「いや、それ何キャラなのさ美沙さん」
流行ってるのかな、まことくんキャラ……。
「そんなことよりもまことなのか!?」
「まあ、まことだよ。風邪ではないみたいなんだけど……疲れてたのかもしれない」
「そうか、わかった。では、あがらせてもらうぞ」
「ありがとうね美沙さん、こんな夜遅くに」
「例には及ばん。これも我が使命なのら……ぜよ?」
「本当にそれ何キャラなのさ!?」
「あたしにもわからん」
「わからないんだ!?」
「とにかく、部屋まで案内しろ」
「あ、わかった」
僕が助けを求めて連絡した相手は美沙さんだった。
さっきから浮かんでいたいくつかの悩みを解決するために、女の子の手が必要であった。
そしてまた、いくらメイカーズの一員とはいえ、出会って一ヶ月程度の男子に看病されるのは、大なり小なり抵抗があると思った。
けれど看病される相手が幼馴染の美沙さんであれば、安心して受けられるだろうという風に考え、僕は美沙さんを呼ぶことにしたのだった。
「沙耶さんは今、僕のベッドで寝ていると思うよ。やっぱり疲れてたみたいだからね」
「お前のベッドで寝ている……それはそのままの意味だよな」
「そのままの意味、そのままの意味。やましい事なんていっさいありませんよ」
「そうか、そのままの意味か……病人に何をしているんだお前は!!」
「だからそのままの意味って言ったじゃん! 何もしてないって言ったじゃん!!」
「だからそのままの意味なのだろう!! 終了済みなんだろう!?」
「美沙さんそのままの意味を勘違いしていない!?」
「なにぃ!? 僕のベッド=【自主規制】が普通なんじゃないのか!?」
「どこで手に入れたのさ、その知識!!」
「前に読んだマンガの主人公が言ってたぞ」
「今すぐそのマンガを焼き捨てなさい!!」
「もう持ち主に帰したぞ?」
「その持ち主って誰さ!?」
「一也だ」
「あいつか!!」
美沙さんの発言に、キャラ崩壊が起こるレベルで混乱していた。
つーか一也……君はどんなマンガを美沙さんに与えているのさ……。
僕の脳内での一也の株価が一気に暴落した。
リーマンショック並の暴落だ。
そんなことを話しながら、僕は部屋の扉を開ける。
案の定沙耶さんは、おとなしくベッドで眠っていた。
美沙さんもそのことを確認した後、ここで終わるかと思ってた話題を、なぜだかさらに続けだした。
「では手を出してはいないんだな?」
「うん、そんなことするわけないでしょ。沙耶さんは病人なんだよ」
「何故手を出さなかったんだ!?」
「え、何でそこで怒るのさ!?」
「病気で弱っている沙耶だぞ!? いま襲わなくて、いつ襲うんだ!!」
「いつも今も襲わないからね!?」
「あたしならいつだって襲えるぞ?」
「なんでそこで自分を引き合いに出す!! 美沙さんもしかして百合なの!?」
「そうだ! あたしは百合だ! ただし沙耶に限るがな」
「すごい誇らしげに聞きたくなかった事実をカミングアウトされた!!」
美沙さんは百合だったんだ……なんか僕の中でのみんなの印象が、どんどん書き変わっていくよ……。
でも美沙さん陸と付き合ってるよね?
あ、どっちでもいける人なのかな。
それとも陸が童顔だからかな。
彼、女装させたら絶対彼女にしか見えないだろうし。
……って僕は脳内で何をしているんだろう。
というかこんな事書いてて、作者の評判は大丈夫なのだろうか。
それこそ株価暴落じゃないのか、リーマンショック並の。
まあそもそも下がるような株価があるとは思えないけどね。
既に人望は倒産済みだったりしてそうだ。
……何でこんなにネガティブなことばっかり書いてるんだろう。
というか、何でこんなにメタ発言ばっかりしているんだろう僕は。
「まあぶっちゃけると、今のは全部嘘なんだけどな」
「嘘なんだ!!」
心の中の僕は一安心する。
そうだよね、マンガやゲームじゃあるまいし、そんなことはあり得ないもんね。
小説とは、あえて例えに明記しない。
「まあ、あたしが百合だというのは本当だけどな」
「そこ一番嘘であって欲しかった!!」
「沙耶のみって言うのも嘘ではない」
「沙耶さん逃げて! 今すぐ逃げて!!」
「まあこれも嘘だけどな」
「美沙さんわかりづらすぎるって!!」
「なんだかもきゅっしたボケ担当で有名だからな、あたしは」
「もきゅっってなにさ、もきゅって」
「もきゅっ♪」
美沙さんが右手をチョキにした状態で目元に構えるポーズをしながら言う。
よくプリクラの見本写真とかでみるあれだ。
「そういうのは陸にやってあげよう」
「前に陸にやったら、おもいっきし抱きしめてもらえた♪」
「のろけ話になっちゃったよ」
「まあその後の展開はご想像にお任せします」
「すごい気になる終わり方ですね!?」
というか僕たちは、沙耶さんが病気で眠っている横で何を話しているのだか。
「……プスッ」
ふとベッドの方を向いてみると、沙耶さんが横になった状態でこちらを向き、鼻をつまみながら必死に笑いをこらえている姿があった。
「ごめん、もしかして起こしちゃった?」
「いえ、私は最初から起きていたわ。二人が会話を始めたところからずっとね」
「え、ほんと!?」
「まあ、美沙はそれに気づいてたみたいだけど」
「どうだ、沙耶。おもしろかったか?」
「うん、最高!」
「そうか! それはよかった!」
どうやら美沙さんは、部屋に入ったあの時点で沙耶さんが起きていたことに気づいていたようだ。
だからわざわざあの話を掘り下げてきたのか。
美沙さんなりの気遣い……というか、これが彼女たちのスタンダートなお見舞いなのだろう。
何も知らずに巻き込まれる方は、たまったもんじゃないけどね。
「咲夜くんのつっこみのセンスもかなりよかったしね」
「ああ、あいつは陸同等レベルを持つツッコミストであった。相当鍛えられてきたに違いない」
「ツッコミストってなにさ……って、今はそんなことはどうでもいいから」
このままだと、ただ会話しているだけでこの章が終わってしまいそうな予感がしたので、僕は話の軌道修正を行う。
小説で言えば、閑話休題ってやつだ。
「ごめん沙耶さん。やっぱり僕一人じゃ看護にも限界があると思ったから、美沙さんに知らせちゃった」
「いいわ。さすがに心配かけたくないとはいえ、咲夜くん一人に負担をかけすぎるのはだめだからね」
「沙耶、気持ち悪かったりしないか?」
「平気よ美沙。ちょっと体がだるいけど、頭痛がしたり、吐き気がしたりって事はないから」
「そうか、ならよかった」
「ごめんね、心配かけちゃって」
「平気だ、あたしは沙耶の友達だからな」
「うん、ありがと」
やっぱり美沙さんをつれてきて正解だったようだ。
美沙さんに任せておけば、この後も大丈夫であろう。
「じゃあ僕は夕食を作ってこようと思うけど……沙耶さんは一応大事をとって、おかゆにしても大丈夫?」
「ええ。申し訳ないけど、お世話になるわ」
「美沙さんはどうするの? 一緒に夕食を食べていく?」
「ああ、頼む。あたしはその間に、沙耶の着替えとかを済ませておく」
「うん。よろしく、美沙さん」
「まかせろ!」
頼もしそうにうなずいた美沙さんを部屋に残し、僕は三人分の夕食を作るため、台所へと向かった。
♪♪♪
「咲夜、お前料理上手だな!!」
「それはどうも」
「本当! このおかゆ、とってもおいしいわ」
「いや、おかゆは普通のおかゆなんだけど……まあ、ありがとう」
夕食を作り終えた僕は、いつもと同じように部屋に夕食を運び、いつもとは違って三人で夕食を食べていた。
「にしても久しぶりだな……誰かと一緒に夕食を食べるのって」
「あ……そうね。咲夜君はそうだったわね」
「うん、かれこれ一年ぶりくらいかな」
「一年……一年間も咲夜は、一人で夕食を食べてきていたのか……」
「まあ僕としてはそれが、当たり前なんだけどね」
幼くして両親を亡くした僕としては、家での食事は常に一人であった。
はじめの頃はとても寂しいものだったけど、今ではそれも慣れてしまった。
慣れというものは恐ろしいものだ。人の寂しさまでもを許容してしまう。
けれどやはり、心のどこかでは寂しさや悲しさ、友達や家族と一緒に食事のできる事への羨ましさというのはあったのだろう。
久しぶりの……本当の事を言えば、両親が亡くなった日から初めての友達との食事を、僕は心の底から純粋に喜んでいた。
「……ってなんかごめんね。自分から始めておいてなんだけど、場の空気を重くしちゃって」
「…………咲夜くん、いつでも私の家に来てもいいからね! 一緒に夕食食べようね!!」
「あたしもウェルカムだ、咲夜! きっと他のみんなもウェルカムだぞ、咲夜!!」
「今度メンバーみんなで食事会しましょう! そういえばあんまりそういうことしたこと無かったわね」
「賛成だ! 今度陸たちに相談してみよう!」
「…………二人とも、ありがとうね」
「なに、あたしたちは仲間だからな!」
「みんなで食事会、絶対にしましょうね!!」
やっぱり、みんなと一緒にいられて、本当に良かった。
心から僕のことを考えてくれる仲間たちがいることが、こんなにもうれしいことなのだと、改めて感じた夕食であった。
♪♪♪
夕食後の後片付けを済ませ、そろそろ十時になるかならないかくらいの時間。
さすがにそろそろ限界が来たらしく、美沙さんは家へと帰宅することになった。
「すまん……本当は一日中付いていたかったのだが……」
「美沙さんにそこまでさせられないって。後のことは、僕が責任を持って受け継ぐよ」
「ああ、よろしくたのむ。間違っても、変なことだけはするんじゃないぞ」
「それくらいは心得ているよ」
「そうか、ならいい」
軽く冗談を織り交ぜながらの別れの挨拶。
そんなたわいない会話をしながら美沙さんが靴を履き終えたとき、ふと美沙さんは、こんなことを呟いた。
「……沙耶の熱は、おそらく疲れによるものだ」
「風邪ってわけじゃなさそうだから、おそらくそうだろうね」
「いや、そういう曖昧な推測じゃない。今までの様子を見て、あたしは確信することが出来たからな」
「確信? どうしてそういいきれるの?」
僕がそう尋ねると、美沙さんは真剣な表情をして、僕の質問に答え始めた。
「中学の頃、同じように熱を出したことが沙耶にはあるんだ」
「それとどういう関係が?」
「まあ、それを話し始めると長くなるが……。沙耶はな、お前をのぞくと、最後にあたしたちデイリーメイカーズに入ったんだ」
「……最後に? 五人は幼馴染なんじゃないの」
「確かにあたしたちは五人とも幼馴染だ。けれど、初めから五人でいた訳じゃないんだ」
「…………どういうこと?」
「そうだな。正確にはあたしたちは……二人から始まったんだ」
「二人……その二人って」
「まあ何となく察しているだろ。あたしと一也だ。といっても、その後すぐに三人になったんだがな」
「慶助だね」
「ああ。そしてあたしたちが三人になったとき、初めて名前を付けようって事になったんだ」
「そしてデイリーメイカーズは誕生したと」
「それからしばらくして、あたしたち……というか、一也が陸の存在を知った」
「あの時の、屋上での話って事か」
「そうだ。そしてあたしたちは陸に声をかけ、仲間にすることにした。結果は見事に大成功。こうして、デイリーメイカーズの仲間は四人になったんだ」
「この時には、まだ沙耶さんはいなかったんだね」
「そうなるな。そしてその後、あたしたち四人はいろいろなことをして遊んだ。それはもう、いろいろなことだ。怒られまくったな、あの時は」
「今もよく怒られるけどね……」
「あたしはあの頃で怒られ慣れたからな」
「いやいや、慣れちゃだめでしょ」
まあ確かに、みんないくら怒られてもケロっとしてるけど。
「まあなんやかんやとしていた、そんなある日のことだった……あたしが沙耶と出会ったのは。だいたい小学校五年生の春だったかな。ちょうど学校でクラス替えがあり、あたしたち四人が、初めて分裂した」
「クラスが散り散りに分かれちゃったのか」
「正確に言えば、陸とは同じクラスだったんだがな。まあ今思えば、当たり前のことだったんだろう」
「まあ、ね」
学校一の問題児集団を、同じクラスに固める理由がないもんね。
むしろ四年生まで同じクラスであった事が奇蹟なぐらいだろう。
「自分で言うのも何だが、あたしはこう見えて結構人見知りだ。クラス替えしてからはなかなか友達が作れず、いっつも陸と一緒に遊んでいた記憶がある。そんな姿を見て心配してくれた陸が、ある日あたしに友達作りをしようって言ったんだ」
「そういう気遣い、陸らしいね」
「ああ、あたしもそう思う。でだ、当然ながらあたしはそれを嫌がった。人見知りだからな。けど陸がどうしてもって言ったから、あたしは一人だけ、クラスメイトに声をかけることになったんだ」
「それが……沙耶さん?」
「そうだ。それが沙耶との、初めての出会いだった。当時にしてみれば最悪で、今にしてみれば最高のくじを引いた、そんな出会いだったんだ」
「当時にしてみれば最悪で、今にしてみれば最高の……出会い?」
「ああ。その当時、小学五年生の沙耶は……いじめにあっていたんだ……」
「…………え?」




