3-1 とある彼らの大きなお世話
この作品はあくまでフィンクションです。
実際に存在する人物、団体、国家、事件、その他固有名称で特定される全てのものとは、名称が同一であっても何の関係もありません。
「咲夜くん? どうかしたの?」
「いや、なんでもない。なんでもない」
「ならいいのだけど……」
「…………」
沙耶さんが発声練習を再開する。
何度聞いてもきれいな声だよなあ……って違う違う。
今はそんなこと考えてる場合じゃない。何か会話をつなげないと……。
「はあ……」
「本当に大丈夫?」
「大丈夫大丈夫! もう元気百倍、千枚だよ!」
「千枚って?」
「ごめん……つっこまないで」
「?」
不思議そうな顔をした後、また発声練習を再開する。
僕は先ほど届いた一也からのメールをもう一度読み、心の中で三度ため息をつく。
(まあ、うれしいっちゃうれしいんだけど……、はあ……)
僕は部室の窓から、今にも雨が降りそうな空を見上げて、
(なんでこうなったんだろう……)
もう何度目だろうかの、答えのない自問自答を繰り返すのだった。
♪♪♪
事の発端は今朝、朝の一也のこの言葉が始まりだっただろう。
「悪い。今日俺用事があって、バンド連休ませてもらうわ」
珍しくバンド練習を休むといった一也に、僕たちは何の疑念も抱いてはいなかった。
きっと何か外せない用事なんだろう。一也だって、自分の用事くらいあるだろうから。
「うん。一也だって、忙しいときくらいあるもんね」
「おいおい……それじゃあまるで、俺がいつも暇しているみたいじゃないか」
「みたいじゃなくて事実じゃないの」
「一也、遊び以外には全く無関心だしね」
「ぶっちゃけ、遊び以外でまともな姿を見たことがない」
「授業中なんて、いつも爆睡だからな」
「お前ら……ぐっ、反論できない自分が悔しい……」
いつも通り会話を楽しみ、チャイムが鳴ったので自分の教室に戻る。
そのまま昼休みまで何事もなく進み、昼休みにみんなで屋上へ向かった。
♪♪♪
「なんか、雨が降り出しそうだな……」
不意に空を見上げながら、一也がそうつぶやく。
「確かに、ちょっと降り出しそうな気配があるわね」
「放課後までに降り出すかな?」
「いや、そこまでは余裕で持つだろう」
「ギター、雨の当たらない場所に移しておかないと」
僕は今まで演奏していたギターを、貯水層にしまうのをやめる。
「思ったんだが、そのギターはどうしてここにあるんだ?」
「というか、咲夜たくさんギター持ってるよね」
「一体、何本持ってるんだ」
その光景を見たからか、話題は天候の話から僕のギターの話に移った。
「家にあるのも合わせると……大体十数本くらいかな」
「十数本!?」
「すごい数だな……」
「まあそのうち半分ぐらいは、古くなってたり壊れてたりで使ってないんだけどね」
「そんな数よくためられたな」
うん、自分でもよくため込んだよなって思う。
そのうち、整理したり手入れしたり修理出したりしなくてはとは思ってるんだけど、なかなか時間がないんだよなあ……。
「あれ……でも咲夜くんって、いっつも同じギターを持ち歩いてるわよね?」
「……よく覚えてるね沙耶さん」
「フィーリングで何となくよ」
フィーリングでわかるものなのかな……。
「で、どうしてなんだ咲夜」
一也も話に加わり、僕が同じギターを持ち歩く理由を尋ねてくる。
「うん。このギターはね、両親が最後に僕に買ってくれたギターなんだ。僕の両親が生きていた頃、大きくなってもギターを続けていたら、その時にこれを使うようにって」
それ以外にもいろいろな理由があるが、一番の理由はそれだ。
両親からのプレゼント。そして、僕がここまで生きてこれた唯一の支え、希望。
たくさんの記憶と想いが込められたこのギターは、僕の一番の宝物だった。
「そうか……このギターは、お前の両親からもらった宝物ってわけか」
一也がそのギターのケースをなでながら言う。
「そうか……宝物……プレゼント…………よし」
「どうかしたの一也?」
「ああ、いや、なんでもない。ちょっとな」
一也が曖昧な反応を返してくる。
こういうときは大抵、一也は何かを思いついている。
ただし、それをまだ言うべきではないというときの反応であった。
だから僕は、それが何かを聞かず、その時の楽しみとしてとっておくことにした。
「みんな! もうそろそろ昼休みが終わるよ!」
「おっといけねえ、もうそんな時間か」
屋上の真ん中で美砂と話をしていた陸が、昼休み終了五分前であることを教えてくれる。
ずいぶんと話し込んでしまったようで、いつもより終わるのが早く感じた。
「おし、早いところ戻ろうぜ!」
「もうみんな戻ってるわよ」
「またかよ!? どうしてそう俺よりも早く動くんだ!」
一也が文句を言いながら校舎へと戻る。
僕はその一也に続いて、校舎内へと戻っていった。
♪♪♪
放課後になり、部室へ行く準備ができた沙耶さんが僕の方へと向かってくる。
バンドが始まってからは毎日、沙耶さんと一緒に部室へ行くことにしていた。
まあ同じところへと向かうのだから当たり前と言えば当たり前なのだが……
「(あの二人、最近仲良くないか?)」
「(なんで沙耶さんがあんな奴と……)」
教室内の一部から、ささやき声のようなものが聞こえ、こちらへと向けられている視線を感じる。
その視線には、嫉妬と疑問が8:2くらいの割合で含まれていた。
(……まあ、そうなるよね)
なにせクラスの……いや、学校のアイドルのような存在である沙耶さんが、どこの馬の骨だかもわからない奴と、毎日帰宅しているのだ。
そりゃあこうもなるよね。
一也から、メイカーズ入りしたことやバンドを組んだことは内密にしておくよう言われているので、ろくな説明もで来ていないことが、さらなる誤解を招いているきもするが。
「咲夜くん、準備は終わった?」
そんな視線が向けられているとは露ほども知らず、沙耶さんは僕の机の上に座って尋ねてくる。
「ああ、もう終わったからすぐ行けるよ」
「じゃあ行きましょうか」
「うん」
僕は周囲からの視線、囁きをすべて無視することに決め、教室から出ていく沙耶さんの後ろについて行く。
後ろから恨みに似た視線を感じ取ったが、それも無視を決め込んだ。
…………ちょっと心が傷つくけどね。
♪♪♪
部室にたどり着いた僕たちは、僕ら以外にまだ誰も来ていないことに気付く。
「僕たちが一番乗りみたいだね」
「みたいね。珍しいわね、何かクラスであったのかしら」
「案外教室で遊びまわっていそうだよね」
「それで先生からお説教とかされてそうだわね」
「あり得るあり得る」
部室で気長に待つことにした僕たちは、お互いにそれぞれ練習の準備を始める。
沙耶さんはマイクをつないだ後に発声練習を、僕はギターのチューニングを。
それぞれ無言で練習を始めた。
僕がギターの弦を一本一本ビーンって弾いている横から、沙耶さんのきれいな歌声が響いてくる。
バンド練習を始めてからわかったのだが、沙耶さんは本当に歌が上手であった。
もちろん歌を歌うことも上手なのだが、そのきれいな声が沙耶さんの歌唱力をさらに増させていた。
(いつ聞いても、きれいな歌声だよなあ)
歌がうまい方ではない僕としては、うらやましい限りだった。
~~♪
「あ、メールがきたみたい」
唐突に沙耶さんの携帯が鳴り、一時発声練習を中断して携帯を開ける。
そしてその数秒後、少し驚いたような顔になりながら、僕に話しかけてきた。
「咲夜くん。どうやら今日は、私たち二人だけのようね」
「…………へっ?」
いきなり沙耶さんが言った言葉に不意を突かれ、僕は間抜けな声で返事をしてしまう。
「一也は朝の通りで、陸と美沙は本屋デート。慶助は急な家庭の用事で今日は行けないって。∴本日の部活動には、私たち二人しかいないことが証明されたわ」
「なんか数学の証明っぽくなってる!? ……じゃなくて、それってホント!?」
「ええ、今メールが届いたわ」
そういいながら、沙耶さんが僕に携帯の画面を見せてくれる。
そのメールの本文を読むと、確かにそのようなことが書いてあった。
偶然……にしては出来すぎている。とすると、やっぱりこれは……
~~♪
「ん、今度は咲夜くんの携帯にメールが来たようね」
「あ、うん……」
狙ったようなタイミングで来たメールに、僕は純度100%の不安を抱えながらメールを読む。
「…………はあ」
そして、一つ大きなため息をついてしまった。
「一也……お前ってやつは……」
「ん? 一也がどうかしたの?」
「いや、なんでもないよ……」
「?」
『受信メール 一件 【風上一也】』
『件名 特別給与』
『本文 俺達からの特別給与、沙耶を一日独占権だ! ありがたく受け取るがいい!!』
(余計なお世話だ!!)
僕は心の中で、そう叫ぶ。そして……
(この時間……一体どうしよう……)
与えられた(というか押し付けられた?)チャンスを前に、僕はこれからどうすればいいのか、真剣に悩むのであった。
♪♪♪
二人きりという事実を知ってから数十分後。
「……ねえ、咲夜くん」
休憩をしていた沙耶さんが、同じく休憩していた僕に声をかけてきた。
「なに、沙耶さん」
「ぶっちゃけ、二人だけってやることないわよね」
「まあ、個人練習くらいしかやることないよね」
「ギターは個人練習が大切なのはわかるけど、歌はずっと歌ってるのは無理なのよね」
「まあ、連続で歌うのにも限界があるからね」
「というわけで咲夜くん。単刀直入に言えば、暇だから何かしない?」
「ん、いいよ」
よほど暇をしていたのか、沙耶さんが僕に何かしようと持ちかけてくる。
僕も休憩中で暇を持て余していたので、その提案を肯定した。
「じゃあ何しよっか?」
「無難に一也の悪口でも叫びましょうか」
「それのどこが無難な選択なの!?」
「昔からよくやってたわよ。美沙の叫びとかすごいんだから」
「それは何となくわかるような……って違う違う! 一也がかわいそうだよ!」
「まあ、嘘なんだけどね」
「嘘なんだ!」
なんか沙耶さんにボケられた。よほど暇なのかな……。
会話はまだまだ続く。
「で、何をしましょうか?」
「無難にしりとりでもする?」
「文字通り無難な選択ね。いいわよ。これでも私は、学校一のしりとり名人とまで呼ばれたことがあるのよ!」
「ちなみに誰にそういわれたことある?」
「美沙だけ」
「一人だけじゃん!!」
「まあとにかく始めましょう、咲夜くんから」
「あ、じゃあリンゴ」
「ゴルゴ」
「初めから人名!? しかもあえてのゴルゴ!?」
「人名って無しだったかしら」
「まあ、マンガのキャラくらいならありかな……。えっと、じゃあゴール」
「ルフィ!」
「インド」
「ドラえもん!」
「最後に「ん」が着いて負けた人始めてみた!!」
「おかしい……今日は調子が悪いのかしら」
「調子が悪くても、今の負け方はないでしょ!?」
「よし、もう一回やりましょう! リス!」
「スズメ」
「メタン!」
「わざとでしょ!? 絶対わざとやってるよね!!」
「実はそうなの」
「やっぱりー!」
沙耶さんがボケ属性だと言うことがわかった。
メイカーズの教育のたまものかな……。
♪♪♪
「しりとりも終わって、さらに暇になったわね……」
「演奏会でもしよっか?」
「あ、聞きたい!」
「了解」
「何の曲がいいかな?」
「いつもので」
「昼も演奏したよ? 他のじゃなくていいの?」
「私、咲夜くんのその曲好きだから」
「……お褒めいただき、光栄です」
「影山?」
「あ、知ってるんだ」
素直に曲をほめられたうれしさを伝えられず、照れ隠しのようになってしまう。
沙耶さんを前にすると、どうも緊張する。
やっぱり、あれなのかな……これが恋愛感情なのかな?
自分を偽り続けてきた僕には、いまいちはっきりとはしない未知な感情であったが、何となくそんな気持ちになっている気がした。
「それでは」
「わーい」
♪♪♪
沙耶さんのリクエスト曲も含め、全部で三曲を弾き終える。
曲を弾き終えた僕に、沙耶さんは惜しみなく拍手を送ってくれた。
「本当に咲夜くん上手だよね~」
「小さい頃から練習してたからね」
「ふーん。私、思わず歌い出しちゃったもん」
沙耶さんが心から賞賛の言葉を贈ってくれる。
なんだか照れくさかった僕は話を逸らそうと、演奏中に思った疑問を沙耶さんに尋ねてみる。
「そういえばそれ。あのとき歌いだした曲って、自分で歌詞を考えたの?」
「ええ。何となく、これこそフィーリングでってやつだわ。弾いてくれた曲の名前は知らなかったから。なんて曲だったの?」
「なんて曲も何も……」
あれも、僕の自作曲なんだよなあ……。
そりゃあ知らなくて当然だ。
僕が沙耶さんにそのことを伝えると、沙耶さんがかなりの驚きを示してくれた。
「そんなにいっぱい自作曲が作れるなんて、改めてすごいわね、咲夜くん!」
「いやいや、それにあわせて即興で歌を歌える沙耶さんの方がすごいよ」
「私はたまに、自分で歌詞を書いたりとかしてるから」
「歌詞を書いてるの?」
「ええ、趣味みたいなものだけどね」
「へえ~。もしよかったら、見せてもらってもいい?」
「いいわよ。ちょっと恥ずかしいけどね」
そういって、沙耶さんが僕に作詞カードを見せてくれる。
「……これほんとに沙耶さんが書いたの?」
「ええ、まあそうだけど……やっぱり変かな?」
「全然……その逆だよ沙耶さん! 歌詞作るのがすごい上手! 一瞬プロの作詞家の作品かと見間違えたくらいだもん!」
「大げさよ、咲夜くん。私そんなに上手じゃないから」
「またまた、ご謙遜を」
思わず興奮して叫んでしまったが、それほどまでに沙耶さんの歌詞は感動的だった。
なんかこう、ズバババーンと体に電流が走ったような感動を覚えるくらいの凄さだった。
沙耶さん、プロ目指せるんじゃないかな。
そんな風に思った僕は一つ、沙耶さんにお願いしてみることにする。
「ねえ、沙耶さん。お願いがあるんだけどさ……」
「ん? 何、咲夜くん」
「もし迷惑じゃなかったらでいいんだけどさ、その沙耶さんの歌詞の中から一曲を、僕に作曲させてくれないかな?」
「え、作ってもらえるの!?」
「うん。僕の作曲家魂的な何かが、曲を作りたいってうずいている気がするんだ!」
「とっても抽象的な感覚な気がするけれど、私の歌詞に曲をつけてもらえるなんて、こっちからお願いしたいくらいよ! ちょっと待ってて。今とっておきのお気に入りを持ってくるから!!」
そういうが否や、脱兎のように(ライオンから逃げる速度くらい速かった)鞄の元へ移動し、鞄からファイルのようなものを取り出して再び戻ってくる。
「はいこれ!」
「どうも」
沙耶さんから歌詞を受け取った僕は、それを一度読んでみる。
「……どう、かな?」
「うん、今までの中で一番いい」
「そう!? やっぱり!!」
「これならいい曲が出来そうだよ」
「やたー! よろしくね咲夜くん!」
「了解。こちらこそ」
部室内を飛び回りながら喜ぶ沙耶さん。
その無邪気な姿を眺めながら、僕はこの歌詞につける音を考え始める。
実はというと、僕はこの歌詞を読み終えた時点で、どんなメロディーにするかは決まっていた。
歌詞をみていたら、なんかこうピカーン(電球!)って感じで曲が浮かんできたんだよね。
さすがは沙耶さんの歌詞だ。
♪♪♪
作曲開始から約二時間後。
途中休憩を入れたり、沙耶さんとコンビニトークを繰り広げたりしたが、何とか下校時間までに完成させることに成功した。
といっても、楽譜にして書き起こしたりしているわけではなく、自分の中で完成したというだけだが。
「完成したよ、沙耶さん」
「おお!! まことか!?」
「それ何キャラ?」
「まことくんキャラ」
「誰ですか……」
「それよりも曲! どんな感じ?」
「ああ、うん。じゃあ今から弾いてみるよ」
「うん!」
沙耶さんからの期待の視線を直で受けながら(緊張レベルMAX!!)、僕は曲の演奏を始めた。
♪♪♪
「…………」
「…………」
「「おおおおおおおおおおおお!!」」
曲を引き終えた僕たち二人は、お互いに同じタイミングで絶叫をあげた。
「すごい……すごいよ咲夜くん! 私思わず歌い出しちゃったよ!!」
「沙耶さんすごいよ! 僕の曲のイメージとぴったりだったよ!!」
「咲夜くん天才! よっ、日本一の作曲家!」
「沙耶さん最高! よっ、日本一の歌唱家!」
「「いやー、それほどでもー」」
そして何故か、互いのべた褒め合戦が開始される。
でもそうなるのも無理が無い気がした。
なぜなら、僕が曲を弾き始めた瞬間、どこで歌うかを教えていないにも関わらず、沙耶さんが僕のイメージと一字一句違わず、完璧に歌いきったからだ。
「咲夜くんの曲、私のイメージにぴったりだったよ」
「僕も同じ。歌い出しのタイミングまで想像通りだったよ」
「すごい奇跡だったわね」
「だね」
「もう落雷に当たるよりもすごい奇跡じゃないかしら?」
「僕らここですべての運を使い果たしちゃったかもね」
「それは困るわよ! 私落雷に当たっちゃうじゃない!」
「いや、それはないない」
「年末ジャ○ボで三億当てられ無いじゃない!」
「それは運があってもかなり難しくない!?」
「今回の奇跡と比べたら?」
「ああー……、同じくらい?」
「じゃあ私たちの曲は三億レベルだわね!」
「そう考えると、僕たちすごい奇跡を起こしたんだね」
「もう曲のタイトル「三億並の奇跡」でいいんじゃない?」
「いやそれはさすがにないでしょ!? なんか曲の感動が台無しだよ!!」
「この曲のすべてが、一気にカオスに塗りかわっちゃいそうだわね」
「自覚があってくれて何よりです」
そんな会話をしているうちに、最終下校時間のチャイムが音を立てる。
「あ、もう下校時間だわね」
「本当だ。じゃあそろそろ……沙耶さん。外見てみて」
「ん……あ! 雨降ってきてる!!」
「全く気が付かなかったね……」
「どうしよう……咲夜くん傘持ってきてる?」
「まあ、折りたたみが一本ってところだね」
「咲夜くんだけずるい!! 私傘持ってきてないよ~」
「……よかったら、僕の傘使う?」
「え、いいの!? ……でも、それだと咲夜くん塗れちゃわない?」
「漢字が違う気がするけどまあ、ちょっと濡れるくらいは大丈夫だよ」
「……ルックアットザウィンドウ!」
言われて窓の方を向くと、外の風景が見える。
そこから見えた外の風景は、誰がみてもちょっとって量の雨では無かった。
というか、世間一般で言うどしゃ降りであった。
「これのどこがちょっとなのですか」
「訂正するよ。ガンガン濡れるくらい大丈夫だよ」
「絶対だめでしょ!?」
「でもそうしないと、沙耶さんがガンガン濡れることになっちゃうよ?」
「大丈夫よ! 私、今いいアイデアが浮かんだから!」
「いいアイデア?」
「ええ。傘が一本人が二人。これはもうあれしか……相合い傘しかないわ!」
…………What?




