2-3 そして新たなる挑戦が始める
この作品はあくまでフィンクションです。
実際に存在する人物、団体、国家、事件、その他固有名称で特定される全てのものとは、名称が同一であっても何の関係もありません。
「いやー。思いの外、時間がかかっちまったな」
「あの量を咲夜くん一人に点検させたからよ……咲夜くん、疲れてない?」
「僕は大丈夫だよ。それよりも……美沙さんの方が……」
「陸……あたしはもう……やりきったんだよな……」
「うん、そうだよ。美沙は本当にがんばったよ!」
「そうか……それ……は…………よか……った…………」
「美沙!だから道路で寝オチしちゃだめだってば!!」
「……なんか、美沙さんが死ぬ寸前みたいだね」
「あいつ、やり遂げた顔をしてるぜ……」
「武士の末路のようだな……」
「美沙、よほど疲れてたのね」
完全下校時間がきてしまった僕たちは、ひとまず使えるものを厳選した楽器を運ぶのは明日にすることにし、僕たちは下校をしている途中であった。
だんだんと日が沈む時間が遅くなっているとはいえ、まだ五月の半ばでしかないこの時期は日の進みも早く、あたり一面は夕焼けの光で赤く染まっていた。
「さて……鈴が寝てしまう前に、俺から今日一番の重大発表がある」
「今日は発表の連続だね」
「今日はこれが最後だ。まず一つ、俺たちのやるバンドのパートを発表したいと思う!」
「「「「おおー!!」」」」
「もう一也の方で決めていてくれたんだ」
僕も楽器点検をしている時から、誰がどのパートをやるのか気になってたんだよね。
「まずはギター、まあわかってはいるだろうが俺と咲夜が担当だ」
「咲夜はギターのスペシャリストで、一也は元ギター経験者だからな」
「適任って感じよね」
「頼んだぞ、咲夜」
「うん、精いっぱい頑張るよ」
「次にベースは……陸、お前だ!」
「僕がベースか……咲夜、わからないところがあったら、その都度よろしくね」
「任せといて」
「陸、がんばれな……ムニャ」
「美沙!もう少しだから、ね!」
「そしてドラム担当は、慶助! お前だ!」
「よっしゃ来たあああ!!」
「慶助、すごいドラムをやりたそうにしてたもんね」
「ああ。あのパワフルな感じが楽しそうでな!」
「慶助すごい元気ね」
「次にキーボード担当……美沙だ!」
「美沙、ピアノの経験者だものね」
「へえ~、それは知らなかったよ」
「…………すぴー(寝息)」
「美沙、歩きながら寝ちゃったよ!?」
「器用な奴だな……」
「美沙、起きて! 起きて!」
「うう……あたしは一体……」
「よかった……起きたよ」
「最後にバンドの花形ボーカルは……沙耶、お前だ!」
「私がボーカル……がんばってステージを盛り上げて見せるわ!」
「お前の美声に期待しているぞ」
「沙耶、ボーカルがんばってね」
「まっかせなさい! 咲夜くんだけがスペシャリストじゃないって、教えてあげるわよ!」
「沙耶は歌が上手だからな~」
「カラオケで、99.999点を繰り出した実力者でもあるからな」
「それすごすぎ!!」
♪♪♪
「もう一つ、俺から大事な発表がある」
「もう一つ?」
もう一つの発表って、一体なんだろうか。
沙耶が相手のセリフをそのまま繰り返して尋ねると、一也が何か新しい遊びを思いついたときにする、悪い笑顔になった。
これはあれだ……きっとまた何か、一也はとんでもないことを言い出すに違いない。
僕がそう思いながら答えを待つと案の定、一也はとんでもないことを発表した。
「文化祭でオリジナル曲二曲の、完成発表会を行うからな」
「「「「「文化祭で!!?」」」」」
「ああ! やはりやるからには、たくさんの客に見てほしいもんだろ!」
「でも文化祭って来月末だよ!?」
「あと一ヶ月半しか無いぞ!?」
「俺と陸は素人だぞ!? 大丈夫なのか!?」
僕はまだしも、他のみんなは一ヶ月半って……日程的には大丈夫なんだろうか。
「なに、俺達には咲夜がいる。余裕だって」
「「「「あ~、それなら安心だ」」」」
「さっきから思ってたんだけど、何でそんなに僕を盲目的に信頼してくれるの?」
信頼してくれることはとてもうれしいのだが、これほどまでに信頼されることを、何かしただろうか。
「そりゃあ咲夜、あれだよ」
「咲夜くんが私たちの仲間だからよ」
「仲間……」
「それに、咲夜は音楽のスペシャリストだからな」
「咲夜の音楽の知識は、僕たちの誰よりも信じられるからね」
「みんな……」
単純にうれしい、僕はそう思った。
仲間だというだけで信頼してくれる彼ら。僕はそんな彼らの期待に応えたい。僕をその仲間に加えてくれたみんなからの信頼に応えたい。
心の中で、絶対に成功させようという気持ちが沸き上がってきた。
「うん……文化祭、がんばろうね!」
「もちろんだ!」
「俺も本番までには、ドラムのスペシャリストになれるよう練習だ!」
「僕もみんなについていけるようがんばらないと」
「あたしの腕を見せつけてやる!」
「私だって、だてにカラオケで99.999点取ってないって、観客に見せてやるわ!」
みんなの心も固まり、本格的にやる気が出始めてくる。
「最後に一つ、今日結成されたバンド『デイリーメイカーズ』で、文化祭を盛り上げてあろうぜ!!」
「「「「「おおー!!」」」」」
中学校生活最後のイベントに向けて、僕らは今、走り出した。




