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デイリーメイカーズ  作者: 加島神楽
4/9

2-1 一也からの提案

この作品はあくまでフィンクションです。

 実際に存在する人物、団体、国家、事件、その他固有名称で特定される全てのものとは、名称が同一であっても何の関係もありません。



「なあ。俺たちってもう三年だよな」


 僕がデイリーメイカーズに入ってから半月ぐらい経った。

 あれから僕たちは放課後、教室か屋上に集まるようになっていた。

 基本的には自由に過ごし、時折僕の演奏を聞いていたりした。たまに一也が何かを言い出し、それで遊んだりもしていた。

 そして今回も、一也が何かの前ぶりのように切り出してきた。


「何を当たり前な」

「じゃなかったら、あたしたちは何なんだ」

「急にどうしたのさ、一也」


 慶助、美紗、陸が順に反応を返す。


「いやさ、もう俺たち今年から受験生だろ? ってことはさ、こうして自由に遊んでいることも出来なくなっちまうじゃねーか」

「まあ、そうだね」

「私たちも、受験勉強しなきゃいけないのよね……」


 僕はまだ半月ほどしか一緒に過ごしていないけど、こうして遊べなくなってしまうことは、とても悲しいことだと思うくらいだ。

 きっとほかの五人は、僕以上に悲しい気持ちなのだろう。


「だからよ、この学校での最後の思い出として、俺は何かデカいことをやりたいと思っているんだ。ここ最近、何か大きな事をやってないしな」


 確かにそうだ。僕は以前というものをあまり知らないが、この半月でやった大きいことといえば、学校全体を利用したサバイバルゲームくらいだ。いや、それすらもこの人たちにとっては、小さな遊び程度なのだろうが。


「と、いうわけでだ。俺は今、猛烈にデカいことがやりたい!!」


 同感だった。おそらくみんなも同じ様に思っているのだろう。それと同時に、これから一也がまた、何かおもしろいことをしようと考えていることもわかった。

 そして僕らは、それが始まることが楽しみになってくる。

 だから僕らは、一也にこう尋ねた。


「それで、いったい何をしようとしているの?」


 それは僕らの、一也の行動に対する肯定の合図でもあった。

 それを受け取った一也は、笑顔で僕たちに答えを返した。


「バンドだ、みんなでバンドを作るぞ!!」

「そして俺たちは、学祭の伝説になる!!」


 その言葉で、これから始まる物語の……僕たちの物語の、引き金が引かれた。



 いくつもの形を束ねる、始まりの物語だ。




   ♪♪♪




 ――授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。これで、今日一日の授業は終わりだ。

 僕は放課後に向けて、机の上に置かれている教科書をしまう。


「やっと授業が終わったわね」


 沙耶さん(僕がデイリーメイカーズに入った時、みんなのことは名前で呼ぶよう強制されたので、今はそうして呼んでいる)が僕の机の方に歩み寄ってきた。


「今日は特に疲れた気がするよ」

「ほんと。ずっと机に向かっているなんてね」

「実技科目、一つもなかったもんね。今日」

「はあー、ずっと自習ならいいのに」


 そう愚痴をつぶやきながら、僕の目の前で大きく伸びをする。

 ……かわいい。その一挙一動が絵になるかわいさだ。沙耶さんを風景画に取り込むだけで、きっとその絵はお花畑になるんだろうなと思った。ついでに鑑賞者の頭の中も。


「そういえば、一也は何をたくらんでいたんだろう」

「さあ、一也の考えることなんて予測不能だわ」

「まあ……だよね」


 あの後「明日の放課後、俺たちの教室に集合だ。楽しみにしてろよ!」と、一也は僕たちに言い残し、ロープを使ってこの場を去って行った。

 何でわざわざロープを使ったのかは、去り方がかっこいいからだそうだ(本人談)。相変わらず訳のわからない。

 まあそういう訳で僕たちは、具体的な話を何一つされていなかった。


「ま、とりあえず行こうか」

「そうね。聞けばわかるでしょうし」


 多少疑問が残るものの、聞けばわかるだろうという結論に達した僕は、一也の教室へと向かうために席を立った。




   ♪♪♪




「ん、きたか」


 僕らが教室の入口についたことに気づいた一也が、僕らに教室に入るよう手を動かした。


「あれ、陸と美沙さんは?」


 教室に入ってみると、その二人がすでにいなくなっていたので、それについて尋ねてみる。


「あの二人なら、もう先に行ってるぞ」

「なんでも、準備とやらがあるそうだ」


 二人が交互に答えてくれるが、その中に一つ、何かを示すような単語が含まれているのに気づく。


「準備? 聞いてないわよそんなこと」


 沙耶さんも同じ事を思っていたようで、代表して質問する。


「そういえば、二人は知らないんだったな」

「その口調だと、慶助は何があるのか知ってるって事?」

「そうなの? ずるいじゃない! 同じクラスだからって先に知ってるって!!」


 沙耶さんが大声で抗議をすると、二人は顔を合わせ、そろって苦笑いをした。


「いや……実はだな。今朝、美紗が学校に来るなりな――」



~以下回想~



「お、美紗。今日は学校に来るの早いじゃないか」

「…………」

「ん、どうした? 美紗?」

「……やく」

「ん?」

「勿体ぶらずに早く教えろぼけー!!」

「うがっ……」



~回想終了~



「――という感じで、いきなりハイキックを食らわせてきたんだ」

「「あー、なっとく」」


 沙耶さんと声がかぶった。なんか声がかぶるって、ちょっとうれしかったりするよね。


「だからとりあえず、今からいうことを手伝うという条件で、教えてやったんだ」

「そのときに、慶助たちも聞いたと」

「そういうことだ」


 まあ、確かにあの美沙さんの性格で、一日お預け状態に耐えられるわけがないだろう。きっと家では悶々としていたに違いない。

 悶々の使い方、違うかな。


「というわけで、只今あの二人はお手伝い中ってわけだ」


 一也がそう締めくくろうとするが、僕の中には新たな疑問が浮かぶ。


「なんで陸も手伝ってるの?」


 すると今度は三人が、それも苦笑いではなく含み笑いのようなものをしていた。

 え、もしかしてわからないの僕だけ?

 ロンリーボク……ちょっと寂しい雰囲気の肩書きだ。


「そういえば、咲夜に教えてなかったな」

「いわれてみれば、そうだったわね」


 三人は、納得したようにうなずいている。


「何? なにか隠し事でもあるの?」

「そう言う訳じゃない。……まあ、咲夜は知っておくべきだろう」


 何だろうか。何か僕が入る前にあった事なのかな。


「なんとなく気づいていたかもしれないが、あの二人は付き合っているんだ」

「…………へ、まじ?」

「まじまじ」


 ……知らなかった。いや、何となく仲良いなーとか思ってはいたが、まさか付き合っていたとは。


「意外と攻めるんだね、陸」

「いや、いったのは美沙の方からだ」

「ええ~!?」


 あの美沙から!? 一日のお預けにも我慢できない、カップゼリー大好きなあの美沙から!?


「いや、カップゼリーは関係ないだろう」


 モノローグへの的確なツッコミありがとう、慶介。

 しかしね~。なにがあるかわからんもんだ。


「美沙ねらってたのなら残念でしたね~。もうあの子、彼氏持ちよ」


 いや……まあ美沙さんもかなりかわいいけど僕としては……。

 僕はそれとなく、沙耶さんの方に顔を向ける。


「…………?」


 沙耶さんは全く気づいてくれなかったが、男二人は気づいたようで、顔をニヤつかせている。

 あ。二人が親指を突き立てながら、笑顔で任せろと口パクしている。

 ……不安要素しか見あたらないと思っているのは、きっと僕だけじゃないだろう。うん、ものすごく不安だ。危険な空気が、僕を取り巻き始める。


「ま、とりあえず行こうぜ」


 そういって、一也は僕たちのことを促す。


「行くって、屋上にかしら?」

「いや、屋上じゃない。行くのは俺たちの部室だ」

「「部室!?」」


 またもや二人の声が被る。今のはまあノーカウント。驚かずにはいられないからね。

 最後の最後まで教えてもらえなかった僕らは、お互いに首をかしげながら、一也の後をついていくのであった。

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