2-1 一也からの提案
この作品はあくまでフィンクションです。
実際に存在する人物、団体、国家、事件、その他固有名称で特定される全てのものとは、名称が同一であっても何の関係もありません。
「なあ。俺たちってもう三年だよな」
僕がデイリーメイカーズに入ってから半月ぐらい経った。
あれから僕たちは放課後、教室か屋上に集まるようになっていた。
基本的には自由に過ごし、時折僕の演奏を聞いていたりした。たまに一也が何かを言い出し、それで遊んだりもしていた。
そして今回も、一也が何かの前ぶりのように切り出してきた。
「何を当たり前な」
「じゃなかったら、あたしたちは何なんだ」
「急にどうしたのさ、一也」
慶助、美紗、陸が順に反応を返す。
「いやさ、もう俺たち今年から受験生だろ? ってことはさ、こうして自由に遊んでいることも出来なくなっちまうじゃねーか」
「まあ、そうだね」
「私たちも、受験勉強しなきゃいけないのよね……」
僕はまだ半月ほどしか一緒に過ごしていないけど、こうして遊べなくなってしまうことは、とても悲しいことだと思うくらいだ。
きっとほかの五人は、僕以上に悲しい気持ちなのだろう。
「だからよ、この学校での最後の思い出として、俺は何かデカいことをやりたいと思っているんだ。ここ最近、何か大きな事をやってないしな」
確かにそうだ。僕は以前というものをあまり知らないが、この半月でやった大きいことといえば、学校全体を利用したサバイバルゲームくらいだ。いや、それすらもこの人たちにとっては、小さな遊び程度なのだろうが。
「と、いうわけでだ。俺は今、猛烈にデカいことがやりたい!!」
同感だった。おそらくみんなも同じ様に思っているのだろう。それと同時に、これから一也がまた、何かおもしろいことをしようと考えていることもわかった。
そして僕らは、それが始まることが楽しみになってくる。
だから僕らは、一也にこう尋ねた。
「それで、いったい何をしようとしているの?」
それは僕らの、一也の行動に対する肯定の合図でもあった。
それを受け取った一也は、笑顔で僕たちに答えを返した。
「バンドだ、みんなでバンドを作るぞ!!」
「そして俺たちは、学祭の伝説になる!!」
その言葉で、これから始まる物語の……僕たちの物語の、引き金が引かれた。
いくつもの形を束ねる、始まりの物語だ。
♪♪♪
――授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。これで、今日一日の授業は終わりだ。
僕は放課後に向けて、机の上に置かれている教科書をしまう。
「やっと授業が終わったわね」
沙耶さん(僕がデイリーメイカーズに入った時、みんなのことは名前で呼ぶよう強制されたので、今はそうして呼んでいる)が僕の机の方に歩み寄ってきた。
「今日は特に疲れた気がするよ」
「ほんと。ずっと机に向かっているなんてね」
「実技科目、一つもなかったもんね。今日」
「はあー、ずっと自習ならいいのに」
そう愚痴をつぶやきながら、僕の目の前で大きく伸びをする。
……かわいい。その一挙一動が絵になるかわいさだ。沙耶さんを風景画に取り込むだけで、きっとその絵はお花畑になるんだろうなと思った。ついでに鑑賞者の頭の中も。
「そういえば、一也は何をたくらんでいたんだろう」
「さあ、一也の考えることなんて予測不能だわ」
「まあ……だよね」
あの後「明日の放課後、俺たちの教室に集合だ。楽しみにしてろよ!」と、一也は僕たちに言い残し、ロープを使ってこの場を去って行った。
何でわざわざロープを使ったのかは、去り方がかっこいいからだそうだ(本人談)。相変わらず訳のわからない。
まあそういう訳で僕たちは、具体的な話を何一つされていなかった。
「ま、とりあえず行こうか」
「そうね。聞けばわかるでしょうし」
多少疑問が残るものの、聞けばわかるだろうという結論に達した僕は、一也の教室へと向かうために席を立った。
♪♪♪
「ん、きたか」
僕らが教室の入口についたことに気づいた一也が、僕らに教室に入るよう手を動かした。
「あれ、陸と美沙さんは?」
教室に入ってみると、その二人がすでにいなくなっていたので、それについて尋ねてみる。
「あの二人なら、もう先に行ってるぞ」
「なんでも、準備とやらがあるそうだ」
二人が交互に答えてくれるが、その中に一つ、何かを示すような単語が含まれているのに気づく。
「準備? 聞いてないわよそんなこと」
沙耶さんも同じ事を思っていたようで、代表して質問する。
「そういえば、二人は知らないんだったな」
「その口調だと、慶助は何があるのか知ってるって事?」
「そうなの? ずるいじゃない! 同じクラスだからって先に知ってるって!!」
沙耶さんが大声で抗議をすると、二人は顔を合わせ、そろって苦笑いをした。
「いや……実はだな。今朝、美紗が学校に来るなりな――」
~以下回想~
「お、美紗。今日は学校に来るの早いじゃないか」
「…………」
「ん、どうした? 美紗?」
「……やく」
「ん?」
「勿体ぶらずに早く教えろぼけー!!」
「うがっ……」
~回想終了~
「――という感じで、いきなりハイキックを食らわせてきたんだ」
「「あー、なっとく」」
沙耶さんと声がかぶった。なんか声がかぶるって、ちょっとうれしかったりするよね。
「だからとりあえず、今からいうことを手伝うという条件で、教えてやったんだ」
「そのときに、慶助たちも聞いたと」
「そういうことだ」
まあ、確かにあの美沙さんの性格で、一日お預け状態に耐えられるわけがないだろう。きっと家では悶々としていたに違いない。
悶々の使い方、違うかな。
「というわけで、只今あの二人はお手伝い中ってわけだ」
一也がそう締めくくろうとするが、僕の中には新たな疑問が浮かぶ。
「なんで陸も手伝ってるの?」
すると今度は三人が、それも苦笑いではなく含み笑いのようなものをしていた。
え、もしかしてわからないの僕だけ?
ロンリーボク……ちょっと寂しい雰囲気の肩書きだ。
「そういえば、咲夜に教えてなかったな」
「いわれてみれば、そうだったわね」
三人は、納得したようにうなずいている。
「何? なにか隠し事でもあるの?」
「そう言う訳じゃない。……まあ、咲夜は知っておくべきだろう」
何だろうか。何か僕が入る前にあった事なのかな。
「なんとなく気づいていたかもしれないが、あの二人は付き合っているんだ」
「…………へ、まじ?」
「まじまじ」
……知らなかった。いや、何となく仲良いなーとか思ってはいたが、まさか付き合っていたとは。
「意外と攻めるんだね、陸」
「いや、いったのは美沙の方からだ」
「ええ~!?」
あの美沙から!? 一日のお預けにも我慢できない、カップゼリー大好きなあの美沙から!?
「いや、カップゼリーは関係ないだろう」
モノローグへの的確なツッコミありがとう、慶介。
しかしね~。なにがあるかわからんもんだ。
「美沙ねらってたのなら残念でしたね~。もうあの子、彼氏持ちよ」
いや……まあ美沙さんもかなりかわいいけど僕としては……。
僕はそれとなく、沙耶さんの方に顔を向ける。
「…………?」
沙耶さんは全く気づいてくれなかったが、男二人は気づいたようで、顔をニヤつかせている。
あ。二人が親指を突き立てながら、笑顔で任せろと口パクしている。
……不安要素しか見あたらないと思っているのは、きっと僕だけじゃないだろう。うん、ものすごく不安だ。危険な空気が、僕を取り巻き始める。
「ま、とりあえず行こうぜ」
そういって、一也は僕たちのことを促す。
「行くって、屋上にかしら?」
「いや、屋上じゃない。行くのは俺たちの部室だ」
「「部室!?」」
またもや二人の声が被る。今のはまあノーカウント。驚かずにはいられないからね。
最後の最後まで教えてもらえなかった僕らは、お互いに首をかしげながら、一也の後をついていくのであった。




